短編
□月飼い
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渡り廊下に明るい月の光が差し込み闇夜を照らす。
読書に熱中しすぎてしまい、就寝時間はとっくに過ぎてしまっている。
フィルチに見つかったら大騒ぎだ。
急ぎ足になりながらもふと頭を上げ上空を見ると、その日の月は一段と輝いて見えた。
空を見ながら歩いていると、先方の壁際でなにやらうずくまる人影があった。
近づいてみるとその人影は自分のよく知る人物であることが発覚した。
「……なにやってるんだ」
「あら、セブ。見りゃ分かるでしょ?」
ため息混じりに聞くセブルスに対して若干興奮気味に話すナマエは対照的だ。
「分からないから聞いているんだ」
時間も時間だ。
ナマエは自分の知る限り校則を破るやつではないはずだ。
「そう。月を捕らえようと思って」
「は?」
自分の耳を疑い、思わず聞き返してしまった。
意味が分からない。
いや、分かりたくない気もする。
そんなことを思っているセブルスをさて置きナマエは「まあ見てて」と自信満々に言い、窓際に置いてあった金魚鉢らしきものに水を注いだ。
すると、綺麗な三日月が水面に浮かびあっという間に捕獲された。
その少々小ぶりな月をうっとりと眺めながらナマエは唐突に話し始めた。
「ねえ、セブ?この前の話なんだけど…」
「ああ…」
「私、彼方の誘いには答えられない…。ごめんなさい」
てっきり承諾の答えだと思っていたセブルスは不意を突かれた。
そのうえ誤られてしまい戸惑う。
「考えたんだけど、やっぱり私───“闇払い”になろうと思うの」
「正気か?」
「もちろん!だって───“死喰い人”になったんじゃ闇の帝王と一騎打ちができないじゃない?」
笑いながらも意志の揺ぎ無い瞳を見る限りは本気なのだろう。
またもや耳を疑いたくなる。
今、金魚鉢を眺めて微笑んでいる彼女とじきに対立するときが来るのだろうか。
そう考えると胸が締め付けられる。
意識の遠くから猫の鳴き声が聞こえる。
「ミセス・ノリスだ!」
ナマエの声で我に返ったセブルスは、水の入った水槽を抱えようとしているナマエの腕を掴む。
「待って!ムーちゃんが…!」
「後にしろよ!」
いくら言ってもナマエが聞かないので、仕方なく透明呪文をかけて大急ぎでその場を後にした。