短編

□失恋の芽
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先輩と会話をしている彼女を俺は少し距離をとって見守る。
すると、会話が終わったのか彼女は笑顔で駆け寄ってきた。

「で、どうだったんだ?自信があった落としの一言は効果あったか?」
「あのねー、丁寧に断られた!」

発した嫌みったらしい言葉とは裏腹に、告白の返事がまさかのOKだったのかと悟っていた俺は身体が安堵感に包まれるのを感じた。

しかし、表面上の取り繕いの笑顔の反面に潤んだ瞳があることに気づく。
とっさにその瞳を見ないようにと目をそらした。

「レギュラス先輩モテモテだもんなー。あんな親切に断られたら逆に吹っ切れちゃうよね」

こういう時は何と声をかければ良いのだろうか。
レギュラス先輩なら簡単に解決する問題なのだろうなと思いながら、言葉を探していると、彼女の方から話を始めた。

「よし、バーティ!付き合ってくれない?」
「はっ?!おまっ、なにいっ「今度のホグズミート。こうなったらやけ食いだあぁぁ!」

顔に熱が帯びるのを感じる。
しかし、等の彼女も涙を流すまいと必死に堪えているようでこちらには気付いていない。
何を食べようか指を折りながらブツブツと呟いている彼女は隣の人物が居なくなったのにも気付かずに廊下を歩いている。

そんな後ろ姿を見ながら一歩の勇気を踏み出せないでいる自分への怒りがふつふつと湧き上がってきた。



***



「それにしても、よく食べるな!これで何皿目だよ」

ウィンナーをフォークでつつきながら呆れ顔で彼女をみる。

「うるさい!これが所謂やけ食いというやつなのだよ」


意地を張ってそんなことを言っているが今日も悲しそうな表情をしている。

かなりの量を食べつつもテーブルマナーはしっかりしている。
そこら辺はやまり名家の出だなと思う。

これはしばらくかかりそうだ。

「ちょっと、行ってくる」
「え、どこに?今日一日付き合ってくれるっていったじゃない!」

一向に食べ終える気配がないと察し、「戻ってこなかったら先に帰ってて良いから」と告げて店の外に出た。





「おはよう、昨日私を見捨てたバーティくん」

朝食を取ろうと大広間に向かっていると、前方からナマエが来て鉢合わせになった。

「ねえ、何でいってくれなかったの?」
「何を?」
「昨日、デートしたんでしょ?」
「は!?」

何の話をしているのか、さっぱり分からない。

「寮中で噂になってるよ。彼女いるなんて知らなかったよ」
「何を根拠にいってるんだ?」

自分は無実だと知っていながらも冷や汗をかく。

「え、確か、ジュエリー店に居たとかだったかなー。まさか、結婚するの!?」
「馬鹿っ!するわけないだろ!声でけぇよ!」
「で、お相手は誰?同級生?もしかして……他寮の子!?」
「……」

無視を決め込み黙って歩くが、彼女は諦めるはずなく、しつこく聞いてくる。

「ねえ、誰なのよー。私たち、友達でしょ?」
「俺は一度も友達なんて思ったことない」
「え…」

ポカンとした顔をしている彼女の腕を掴み、中庭まで引っ張っていく。
人見の少ない木陰まで来ると掴んでいた手を離し、向き合った。

「ナマエ、好きだ!先輩みたいに格好いいこと言えないけど、ナマエを思う気持ちは誰にも負けない。──だからいつもそんな悲しい顔しないでくれ。“笑顔のおまえは輝いてる”」
「それ、私の落とし文句!」

ローブのポケットから長方形の箱を取り出し、ナマエに渡す。
ナマエが箱を開けると黄緑色のサファイアに魔法でキラキラと輝く頭文字が刻まれているネックレスが入っていた。

「少し細工してみたんだ」

そう言う彼の目下には濃い隈が刻まれているのが分かった。

ナマエはバーティに飛び付いた。

「ありがとう!私も大好きだよ!ねえ、このネックレス着けてくれない?」
「もう少しこうしていたい」

今の顔を見られてはたまらないと、背中に回している腕をよりいっそう強く絞めた。
「苦しい」と言っている彼女を無視して。

そう言いながらも、ナマエは心からの笑顔で微笑んでいた。


fin.

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