短編
□月飼い
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あれから長い年月が過ぎた。
ホグワーツの校長となったセブルスは、暗黒の闇を飲み込むように照らす明かりの元、ある窓辺で足を止めた。
自分でもなぜここに来て停止したのか分からない。
長い間ホグワーツに勤めていたというのに、この場に来ることはあってもいつも素通りしていた。
セブルスが杖を振るとあの時の金魚鉢が現れた。
何十年もの間飼い主が面倒を見ていなかったせいで水槽には藻が張ってしまっていたが、中にはちゃんと捕獲した獲物が入っていた。
「おまえと我輩、二人だけだな…」
そう呟くと金魚鉢を抱え煌々と輝く光に背後を照らされながら、静まり返っている湖のほとりへと足を踏み入れる。
ふくろうの鳴き声しか聞こえない。
巨大イカも寝ているようだ。
そんな中、鉢を逆さにして月を湖に返す。
水面に映る月は当然言葉を返すわけもなく、ただただゆらゆらと揺れていた。
「セブっ!──本当はダメなんだけど、今回は見逃してあげる。その代わり手を出さないでよね!」
「おまえなにをいっ「ヴォルデモート!」
「私と一戦交えていただけない?」
「ふっ、見習いの小娘ごときが」
緑の閃光がぶつかり合う。
あの時のナマエの笑顔が今でも忘れられない。
「僕もじきにそっちへ逝くから、もうしばらく待っててくれ──ナマエ」
月光に映し出された顔には一筋の涙が伝っていた。
それを励ますかのように二つの月は明るくセブルスを照らし続けている。
「月を捕らえようと思って」と君が言ったあの日のような美しい三日月だった。
fin.