短編
□彼方の想い
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澄み渡る青空の下、ナマエは友達とクィディッチ競技場へと向かっていた。
クィディッチをするにはもってこいのコンディションだ。
「ねえナマエ、今日の試合勝てると思う?」
「もちろんよ!何たって、うちには“秘密兵器”のシーカーと頼れるキャプテン兼キーパーがいるんだもの」
そんな会話をしながら呆れる友達をさておき、見方ゴール付近にあるお決まりの観覧席に座る。
ああは言ったもののナマエはあまり自信がなかった。
クィディッチは荒いスポーツだ。
何が起こるかわからない。
それに相手はスリザリン、毎年恒例の卑怯な手を使ってくるに決まってる。
ああ、彼に何かあったら…。
突然ふと今朝の出来事が頭を過ぎった。
ナマエが朝食を取りに大広間に来ると、食べ終わったオリバーがちょうど競技場に向かうところだった。
彼もこちらに気づいたらしく笑顔を向けてやってくる。
「頑張ってね!グリフィンドールの勝利期待してるから!」
「なぁ、もし勝ったら─」
「ん?」
「あーなんでもない!任せとけ!この試合はまちがいなくいただきだ」
試合開始のホイッスルが鳴った。
十五本の箒が一斉に空へ舞い上がる。
“GO、GO、グリフィンドール!”
我に返ったナマエも皆と一緒に見方の応援に加わる。
「さて、クアッフルはたちまちグリフィンドール──」
同寮のリー・ジョーダンがマクゴナガルのお咎めを受けながら実況放送をしている。
「ジョンソン選手ブラッジャーが物凄いスピードで襲うのをかわします」
「いけっいけっ!アンジェリーナ!」
「いまだっ、ゴール――グリフィンドール、先取点!」
グリフィンドールの大歓声が寒空いっぱいに広がる。
一方、スリザリン側からはヤジとため息が上がった。
「スリザリンのマーカス・フリントがクアッフルを――グリフィンドールのキーパー、ウッドが素晴らしい動きで防ぎました」
グリフィンドールの応援席はさらに活気付く。
「オリバー、かっこいい!」
ナマエの声が届いたのか、オリバーはこちらに気づきウインクした。
それから数秒もしないうちの出来事だった。
フリントの打ったブラッジャーがターゲットめがけて飛んでくる。
そのブラッジャーはオリバーの頭部に当たり、彼はみるみる降下していく。
スローモーションを見ているかのようだった。
「オリバーー!!!」
ナマエは試合後、友達の言葉にも耳を貸さずにオリバーの元へと急いだ。
医務室に運ばれた彼は意識がない。
不安な気持ちをぐっと抑えて、ナマエはそれから毎日見舞いに行った。
一日に数回来るので始めのうちは止めていたマダム・ポンフリーも諦めて何も言わなくなるほどだ。
あれから一週間半、未だに彼は目覚めない。
あとから入ってきた生徒も次々と退院して行く。
不安な気持ちは最高潮にまで達していた。
今まで我慢していた分が涙となり頬を伝う。
ナマエはオリバーに被さるようにして崩れた。
「ごめんなさい。全て私のせいだわ……あんなこと頼んだから…試合中によそ見をさせてしまったから。ごめんなさ「なにがおまえのせいだって?」
突然の声に驚き顔を上げるとそこにはついさっきまで意識がなく“何をしても”反応を示さなかった彼の顔があった。
彼は笑顔を向けている。
「ばっかじゃないの!?どれほど心配したと思ってるの!」
「悪かったよ」
そう言いつつも彼の笑顔に誘われて微笑む。
そこへマダム・ポンフリーがやってきた。
「あら、意識が戻ったのね。彼女は毎日面会に来ていたんですよ。今、食事と薬を持ってくるわね。──あと鏡も」
そう言って笑いながら戻っていった。
「ところで試合はどうなったんだ」
「彼方の扱いたシーカーのおかげでグリフィンドールが勝利したわ!」
「ハリーのやつやってくれたんだね。あいつは今年のMVPだな」
ハリーが羨ましいのか同じチームで誇らしいのかオリバーは夢見心地だ。
「ほんとクィディッチ馬鹿。ま、私のMVP賞はいつも彼方に取られちゃうけどね」
「っえ?聞こえなかったからもう一回言って」
彼の顔が赤くなる。
ナマエは一回しか言わないと言いつつも、それが面白く耳元でもう一回囁いた。
「マダム・ポンフリーが来たからもう行くわね」
出口に向かおうと方向を変えたときにあることを思い出し彼に近づき直す。
「そうそう、私たちのチームが勝ったから」
そう言って彼の額にキスをする。
彼の顔にますます赤みがさした。
「何でもお見通しなんだから。残りは元気になってからのお預け」
そう言い残して去って行く彼女の背中をオリバーは見送った。
「まったく、かわいいんだから」
そう彼は一人呟いた。
しかし後にマダム・ポンフリーが来て鏡を渡された時はオリバーの彼女に対するイメージは天使から小悪魔へと変わった。
fin.
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賢者の石でのクィディッチシーン。
落下は映画から。