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□第一章 貴方の世界へ
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なまえは冷気を感じ目を覚ました。

「寒い……」

布団を引っ張ろうとするが、手に触れたものは湿った、握るとカサカサと音を立てるものだった。

(枯れ葉…?)

窓から入ったのだろうか、いやそんなはずはない。
窓は鍵をかけてあるはずだし、こんな湿った葉が風に吹かれて入ってくるはずがない。

なまえは改めて布団をかけるべく電気を点けようと上半身を起こす。
しかし目の前に飛び込んできた世界は自分の部屋とは大違いの薄暗い森だった。

「ここどこ!?」

自分は夢遊病だったのかなどと考えてみるがありえないことだろうし、まだ夢の中にいるのだとも思い頬をつねってみるとジワジワと痛みを感じる。
自分は誘拐されたのだろうか、だとしたらその犯人が見当たらない。

「もしかして……」

夢小説とかにあるトリップ?!
ヒロインがアニメや漫画などの世界に飛び込むという…。

「だとしても、ここはどこなのー?!」


突然の見知らぬ地、しかも夜の森にただ一人という状況に動揺する。
夜行性の動物たちの少しの羽音でさえ敏感に反応してしまう。
あちこちから聞こえる音に身を縮めていると周りの他の音とは違う音が近づいてくることに気が付いた。

(足音!?)


カサカサカサッ


すごいスピードでこちらに向かってくる。
しかも一人ではなく複数人いるようだ。

この場から逃げようと試みるが足が竦んで動けない。
すると近くで叫び声が上がった。

「「「うわああああっ!!!」」」

誰かにやられたのだろうか。
足音は変わらず近づいてくる。

(絶対絶命!)

なまえは瞳を閉じた。


「う゛お゛ぉい!!女ぁ!!」

(う゛お゛ぉい…?)

どこかで聞いたことがあるようなダミ声になまえはゆっくりと瞼を開く。
薄暗い中だが長い銀髪に義手についた刀を持つ男が見下ろすように立っているのが視界に入ってきた。


「え…うそぉーーー!!!」

伸びた前髪と隊服からすると10年後の世界なのだろう。
まさか“家庭教師ヒットマンREBORN!”の世界にトリップしたなんて…!

信じられない。


「ジャッポネーゼか……貴様やつらの仲間かぁ?」
「違います!!違います!!」

なまえは少し先に倒れている黒い物体を一瞥し、首と両手をぶんぶんと振る。

それにしても殺気が凄まじい。

(ツナが腰抜かすのも無理ないよ…)


今にも殺りますよオーラが半端なく伝わってくる。

「私はただの一般人です!スクちゃん、お願いだから殺さないでー!」
「う゛お゛ぉい!離れろぉ!!つーか、スクちゃん呼びすんなあああ!!」

スクアーロは立ち上がる気力がないため足にしがみついているなまえを足を振って剥がそうとする。

「しらばっくれやがって。3枚に卸してやるぜぇ!」

スクアーロは刀を振り上げなまえの目の前に突きつける。

「ちょっ、待って!タンマタンマ!本当に一般人なんだって!!自分でも分からないけど、違う次元の世界にいたのに、この世界に飛んできちゃったんだって!!」

顔を上げ必死で説明するなまえとスクアーロの瞳が初めて合う。

その瞳にスクアーロの動きが止まった。


「はぁ、どうせならザンザスに殺られたかったなぁ…」

スクアーロの考えていることなど知るはずもなく殺されると思っているなまえは呟いた。

「お前本当は死にてぇのかぁ!?」
「いやいや!そういうわけではない!!」


なまえは再び首と両手をぶんぶんと振った。

「まあ、どっちにしろボスんとこにお前を連れて行く」
「ほんと!?」

なまえの顔がニヤける。
一気にパァっと明るくなったなまえを見てスクアーロはため息をつく。

「変わったやつだぁ」

スクアーロはため息混じりに吐き捨てる。

「なんて名だぁ?」
「みょうじなまえ」

名前を聞くとスクアーロはリングに炎を点し、匣を開口した。
中からは雨の炎を纏った鮫が出てきた。

「アーロ!」
「乗れ」

アーロに乗ることが出来るなんてと感激しながら、なまえは軽々と先に乗ったスクアーロに助けられアーロの上に乗った。



落ちないようになまえはスクアーロに(嫌がらないのが不思議だが)しがみ付き、高いところからの景色に見入っていた。
遠くの空はすでに明るくなってきている。
風で後ろに飛んでくるスクアーロの長い髪を終始払いのけていると、スクアーロが言葉を発した。

「異次元から来たと言ったなぁ。何故俺の名前やボスさん、アーロを知っている?」
「そりゃあ……。この世界の知識はここにびっしり詰まっているから」

そう言いながらなまえは自分の頭を突く。

「情報源は漫画…なんだけど……」

なまえは気まずそうに言った。

「…どういうことだぁ」

スクアーロは眉間に皺を寄せた顔で振り返る。

「信じられないだろうけど、私は“家庭教師ヒットマンREBORN!”っていう漫画でこの世界を知ったの…」
「ヒットマンリボーンってぇのは沢田綱吉のとこの赤ん坊のことかぁ?つっても今は赤ん坊じゃねぇか」
「それってどういう――もしかして、虹の呪いが解けたの?」
「ああ」

なまえは安堵のため息をついた。


確かに物語を実際に体験してみたかったが何の能力もない自分が戦闘に参加したら即死、そして足手まといになってしまうだろう。

平和が一番だ。

「話を戻して、その漫画にスクアーロやヴァリアーの皆、そしてツナたちのこれまでの活躍が描かれていたの。──でも、ここは物語の後の世界のようだけれど…」

しばらく沈黙が流れた。


今スクアーロは何を考えているのだろうか。

自分が漫画のキャラクターであることに衝撃を受けているのだろうか、それともこんな何の確信もない話聞いてられないと思っているのだろうか。


こんな話信じられなくて当然だ。
出会ったばかりの女が調子のいいでっち上げの大嘘を付いていると思っているだろう。

(これから殺されるのか…)

まあザンザスに殺されるなら本願だと思っているとスクアーロが口を開いた。

「…元の世界に帰りてぇか……?」

なまえはスクアーロの言葉に目を見開く。

(私のことを気にしてくれるの…?)

それに先ほどの話を信じてくれたのだろうか。

「半分半分かな。この世界にトリップできたらなってずっと思ってたから。…さっきの話、信じてくれるの?」
「信じがたい内容だがなぁ」

こんな人だっただろうか。
いつも怒鳴り散らしている“カス鮫”という人物ではないようだ。


「…ありがとうございます」
「う゛お゛ぉい!何だ急に!」
「なんか嬉しくて」
「嬉しいなら泣くなぁ!」

やっぱり変わってなかったと思いながら手で涙を拭い、慌てているスクアーロに微笑んで見せた。
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