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□貴方を信じて
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※葉山文子成り代わり



彼が亡くなったという知らせを聞いてから早数年。
戦場に出ていってから彼を考え想わない日などなかった。
だが届いたのは突然の悲報。
私はそれがどうしても受け入れられずに彼について手当たり次第情報を集めた。
そして生きているという事実が分かり、ついに突き止めたと思いきや、ベトナムに経った後という事を知った。

「また来たんですかい」
「なんかここに居ればいつか正人さんが帰ってくるんじゃないかって…そんな気がして……。患者が来たら手伝うわ、だから居させて」
「あんたも物好きだね」

“も”という言葉には自身も含まれているのだろう。
何せベトナムまで正人さんの安否を確認しに行ったのだから。

その点、間くんを尊敬する。
私にはそんな勇気もツテもない、ただ無事を祈って待っていることしか出来ないのだ。

「俺はベトナムで藪さんに会ってきたが、藪さんはそうやすやすと死ぬような男じゃないですよ」

間くんは優しく微笑んで私にそう告げると部屋を出ていった。


部屋に一人になったユウは椅子に腰掛け机の上に置かれてあった写真立てを手に取った。

そこには微笑む正人さんと私の写真が飾られていた。

「愛してくれてたんだよね…?」

何も連絡無しに死んだと嘘をつかれたのだ、自信はない。

でも例え貴方が私に対して何の感情が無くても、私は人生で最初で最後に好きになった貴方の無事を祈ります。





北ベトナムの攻撃が激しくなり簡易病院も次々と破壊され仕方なく一時帰国してきた。
そんな藪の視界に入ったのは机に伏せて眠っている一人の女性だった。

「ユウ……」

もう二度と会えないと思っていた最愛の人が今目の前に居る。
見間違いかともう一度しっかりと見てもやっぱりユウだ。
何故ここにいるのだろうか。

眠っている彼女をのぞき込むと大切そうに自身が以前飾っていた自分たちの写真を握っていた。

「ずっと忘れずに待っててくれたんだね、ユウ」

ヒロポン中毒の事を隠し、死んだと言うことにした自分をずっと信じて待っていてくれた。
目頭が熱くなるのを感じる。

今こそ渡さなくては…!

音を立てないように机の中から渡せず仕舞いだった婚約指輪を取り出し薬指に嵌めた。

「「愛してる」」

起きていたのかと驚く彼にユウは最大の笑顔で抱きつき頬を濡らした。

「君に謝りたい、 すまなかっ───」

ギュッときつく抱きつき返し心から申し訳なさそうに謝る藪にユウは彼の口に指を当てて言葉を制した。

「それは後で聞くから……おかえり」
「ユウ……ただいま」

無事で良かったと胸を撫で下ろすユウの涙を人差し指で拭う彼もまた頬を濡らしていた。
こっそりと涙脆い二人を部屋の入口で間と岡本は笑顔で見つめていた。

「うぅ…素敵ですね!おめでとうございます!」
「岡本先輩っ!」

突然飛び出したかと思ったら貰い泣きしている岡本を慌てて間は制する。

「まさか藪さんにこんなに素敵な奥さんがいるなんて半信半疑だったんですが、本当だったんですね!」
「じつは俺も」
「おい!お前らー!失礼だなー!」
「ふふっ」

仲睦まじいやり取りにユウは口角を上げ、今度こそどこまでも貴方に付いていきます、と心に誓った。

だからこれからは独りで抱え込まないでね…。


fin.

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