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□Last Flight
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最終日のラストフライト後、日付を越えCWCでは打ち上げ会が行われた。
「最後のプレショー、良かったぞ。当初の頃とは大違いだな、成長したな」
「ありがとうございます」
「お疲れ様!」
滅多に褒められない先輩に褒められ満更でもない表情になる。
周りを見ると私達のようにあちらこちらで各々を褒め称える暖かい声が飛び交っていた。
共に日々安全なフライトかつミッションクリアを目指して気象研究に励んできた皆ともこの慣れ親しんだ本部ともお別れ。
本部は水中観察員たちに譲り、皆それぞれ新たな道へと進むのだ。
「ユウ、お疲れ」
「スコットさんもお疲れ様です」
通りすがりにスコットさんはそう言い、私の肩をポンポンと優しく叩いた。
「それにしても今日は整備クルーも一段と大忙しだったな」
「結局僕、安全保証の1号機には乗れなかったよ」
「最後までデイビスに流れをもってかれたなぁー」
皆がお酒を嗜み揃って昔から先程のことまで会話に花を咲かせる中、ユウだけはうろうろと辺りを徘徊していた。
あのお調子者のトラブルメーカーが見当たらない。
「デイビス、デイビスは?」
「そう言えば、あの後から見ていないな」
何処にいるのだとあたりを見回しているとスコットさんが言った。
本日の主役に近い人物がどこに行ったのだ。
「またベースに呼び出されてるのかな?」
「失礼ですね、この私でも最終日までは呼び出したりしません」
背後から聞こえてきた冷静な声に血の気が引いたがベースは穏やかな笑顔でこちらに微笑みかけていた。
「寧ろその逆ですよ」
「逆…?」
「ユウっ!」
逆とはどういうことかと問いかけようとした時、探していた人物が大声で私の名前を呼びながらこちらに向かってきた。
「デイビス!どこにいたの?探した、って…え?」
「来い!」
問いただそうとした途端、デイビスに腕を掴まれ引っ張られる。
早足で前を歩くデイビスにユウは半分引きずられる形になっている。
「ええぇ、何!?」
「良いから来いよ!」
状況が掴めないで言われるがままについて行く。
だがしばらく黙ってついて行くと立ち止まった先にはストームライダー2号機があった。
「お前をどうしても乗せてやりたくて……お手をどうぞ、レディ?」
私の為だけに本当のラストフライトを?
目頭が熱くなるのを感じながら差し出すデイビスの手を取った。
エスコートされてコックピットに入るとデイビスの隣の席に座るよう指示される。
「緑のチカチカ、チェック。おやつのピーナッツ───」
「チェック!」
置かれてあったピーナッツを指しながら先に言葉を引き継いた。
彼に笑顔を向けたつもりだがしっかり笑えただろうか。
これがデイビスとの最後の思い出。
めいいっぱい楽しもう。
「あ!そうそう!はい、これ」
大げさに突然何かを思い出した身振りをしデイビスは取り出した紙を私に突きつけた。
何だろうとその紙を読み進めると視線が下に行くに連れてみるみるユウの目は見開いていった。
「デイビス!これって……」
ユウの手にある紙に書かれたことはこの私を正式にCWCの正社員として採用するという内容。
何かの冗談か?と問いかけるとニヤニヤしながらデイビスは口を開いた。
「ベースに直談判して頼み込んだんだ。ユウは長い間CWCに真面目に貢献してきただろってね。まあ皆を救ったことだし、半分はキャプテン・デイビスとしての権限だな!」
笑うデイビスに対してユウの顔が曇っているのを見て「ユウが嫌じゃなきゃだが…」と付け足した。
「まさか!なんだが夢のような話で信じられなくて…。嬉しいよ!ありがとうっ!」
「うわっ」
瞳から雫を流しながらデイビスに飛び付いた。
これで彼と今まで通り一緒にいられる…。
そして移転はしてしまうが大好きな職場とも一緒に…。
「おいおい、泣くのはまだ早いだろ?」
そう言いながらもハンカチを差し出して私を優しく包み込んでくれる。
本当に彼は優しい人だ。
「しっかり捕まってろよ、ストームライダー発進!」
外は生憎の雨模様だったがストームライダーは空へ飛び立つ。
対流圏を越え成層圏に達すると先程の雨空はどこへやら今まで見たことないほど美しい景色が私達の目の前に現れた。
それと同時にデイビスは自動操縦に切り替える。
「これをユウに見せてやりたかったのさ」
「綺麗……」
「だろ?ユウもな」
珍しく真面目な顔で言うものだから照れて「ふざけないで」と小突く。
「素直じゃないなぁー」
「じゃあ、愛してる…!」
「“じゃあ”ってなんだよ、“じゃあ”って」
「いいじゃん別に!」
頬を膨らませそっぽを向くがそれはすぐ元に戻された。
「俺も愛してる」
向きを変えられたと思ったらその手が顎に添えられる。
デイビスとの距離が縮まり二人の唇が重なった。
この時を噛み締める様にゆっくりと…。
───素敵なラストフライトをありがとう
これからの未来を暗示するかのようにオレンジ色の朝日が私達を包み込んだ。
新たな冒険に向けてストームライダー、発進!
fin.