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□Present
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※スクアーロ誕
「おはよ…」
「あら、ユウちゃんグッドタイミング!ほら早く早くぅ!」
重い瞼を擦り談話室に入って早々、ルッスーリアに手を引かれ、普段から寝起きが悪い上に昨晩任務が入ってろくに寝ていないユウは更に機嫌が悪くなる。
「もう、なんなの?」
「お、姫のお怒りだぞ」
「寝起きのユウ先輩は恐ろしいですからねー」
ごちゃごちゃ言っているベルとフランに睨みを効かせると二人は口をつぐんだ。
フランは「おー怖い怖い」と後に呟いたが彼には言うだけ無駄か。
「このケーキ、なに?」
「ん?今日はスクアーロの誕生日よん」
ぶっきらぼうに聞いたユウにロウソクを立てていたルッスーリアは鼻歌を歌いながら答える。
「ま、さ、か……」
「そのまーさーかっ!ユウちゃん、最近忙しかったし忘れてても無理ないわよ」
重たかった目を見開き呆然と立ち尽くす。
開いた口が塞がらないとはまさにこの事だ、完全に忘れていた。
彼氏の誕生日を……!
「しししっ、なんつー顔してんだよ」
「今この場にカメラが無いのが惜しいですぅー」
彼女が彼氏の誕生日を忘れるそんな話があるだろうか、プレゼントなんて何も買ってないし、作ってもいない。
というか彼の誕生日を聞いたことさえあやふやなのだが。
会う時間は限られているし、お互い性格上自ら己のことを話そうとしない。
改めて考えるとここまでやってこれてる事すら驚きだ、全く。
「どうしよう……」
ユウは一人自室でため息混じりに呟いた。
何も思いつかない。
こういうの苦手なんだよなぁ。
さっきは嫌がってはいたものの嬉しそうだった。
後にボスの飲んでいたグラスがクリーンヒットしたが。
頬杖をついていた手を解きユウは机に伏した。
「はぁ…このリボンを掛けられるモノは何処に……」
目に付いた真っ赤なリボンを指に絡ませ何気なく尋ねるも返答が返ってくるはずも無く、時間だけが過ぎて行く。
皆と居た時からもう何時間もたち日は暮れてしまった。
このままでは一年に一度の日が終わってしまう。
「待って、リボン……?」
そうだリボン、リボンだ。
ユウは手に持っていたリボンを程良い長さに切り、それを首元で結んだ。
「私が“モノ”になればいい!」
こうなれば仕方ない。
もう時間的にも発想的にも余裕のないユウはプライドを捨て彼の元へと向かった。
*
ノックをして彼の自室に入ると案の定彼と目が合う。
プライドは置いてきた筈なのに自然と手が首に行く。
「おう、ユウか」
普通に言ったであろう低いダニ声がユウには耳元で囁かれた様に脳内に響く。
皆の前と自分の前とでは天地ほどの差があると私は思う。
忙しそうに書類を片付けている時も私の元まで歩み寄ってきてくれる。
そうやって優しく「どうした?」と声をかけてくれる。
そんな彼に私は弱いこと貴方が一番知ってるでしょ。
「ん、その首のもんはなんだぁ」
「これは…スクへのプレゼント。……何でも…お、お申し付けく、ださい」
それを聞いたスクアーロは赤いリボンを見つめたまま固まる。
熱でもあんのかぁ。
ユウはそんなキャラじゃねぇ。
これはただ事ではない。
そして先程ベルとフランに
「彼女さんからのプレゼントは無いみたいですよー」
「ししっ、別れたら喜んで貰うぜ。俺の方がお似合いじゃん」
「同情して欲しいですかー?」
とか言われた事を思い出す。
「な、なんかの冗談かぁ?ゔおぉぉい、ベルとフランが絡んでるのかぁ?…さては幻術!?」
「だーかーらー!何も思いつかなかったから私が直々に屈辱覚悟でプレゼントになってやってるんでしょ!?」
いつも通り上から目線の言葉も顔を赤く染めながらでは効果はない。
多忙だったにも関わらずそんな事を…。
そしてこの一言に限る“可愛い”。
「いらないなら部屋に戻る!」
頬を膨らまし出口へと足を向けた時、背後から暖かい温もりに身を包まれた。
「俺が一番欲しいモノ良く分かってるじゃねぇか」
くつくつと笑い耳元で囁く彼の腕は逃がすものかと腕の力を強める。
顔を埋めていた首筋から耳そして唇へとキスの雨が降る。
始めは優しく次第に激しく。
「夜はなげぇんだ。……今夜は覚悟しろよぉ」
お願い、今晩だけは冷たい雨を降らさないで。
貴方の生まれた日を共に分かち合いたいから。
「Buon compleanno Squalo…」
fin.