book
□Cachaça
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※性別不詳夢主
「あ、ライ」
“おかえり〜”と手を挙げる彼の目の前には、空き瓶の山と顔を真っ赤にしてうつ伏せに倒れているバーボンがいた。
この様子から見るに、今日もバーボンは完敗…といったところか。
「あと任せていい?スコッチは早々に寝やがったし僕も帰るよ」
しかし、バトンタッチと俺の肩に手を置き、席を立とうと起こした身体は数秒も経たずに同じ場所に戻された。
「まだしょーぶはおわってなぁい!」
「はいはい」
もうひと勝負と意気込むベロンベロンに酔っ払ったバーボンの頭をポンポンと撫でて遇う。
「バーボンには甘いな、いつも」
「なんだかほっとけ無くてね。ライもそうでしょ?」
ギャンギャン吠えていたかと思ったら既に眠りについている寝顔を一瞥した。瞳を閉じていると長い睫毛が一層際立つ。
それを愛おしそうに見つめブロンドの髪をすくい上げている光景に胸がチクリと傷んだ。
「だが面倒だぞ。荷が重いんじゃないか?彼のお守りもあの方の任務も……レディには」
「……ふぅん?どうしてそう思うの?」
「何となく」
「そう。じゃあ試してみる?」
心外だとでもいうように、自身の着ている服に手をかける。ただワイシャツのボタンを外しているだけなのにゆっくりと見せ付けるような妙に色っぽい手つきに目が離せない。第三ボタンまでくると毎回ターゲットにやっている百発百中と噂のハニートラップかの如く慣れた手つきで俺をソファーに押し倒し馬乗りになって誘惑してくる。あまりにも目に毒なこの状況、己の欲望が湧き出てくる。今直ぐにでも抱き潰したい。めちゃくちゃにしたい。……早く俺のモノにしたい。
「とんだ罠だな」
「これが仕事なんでね」
そんな感情を必死に押し殺し両手を上げて早々降参ポーズをすると「残念」と呟きながらも尚顔を近づける。
「まっ、でも僕は君たちみたいな秘密も弱みも無いよ」
そう耳元で囁くとコンコンとサイドテーブルを叩いた。
「どういう意味だ」
「さあ……でも僕は───」
「カシャッサぁ〜」
肝心な所を酔っ払いによって良くも悪くも遮られた。知らぬが仏とはよく言ったものだ、知りたくないアンサーを想像し内心安堵する自分もいる。君もそうなのだろう、バーボン。
「おやおや、大きな子供ですこと。背中乗れる?」
君は“我々”の味方なのかそれとも敵なのか。
君は俺達を知っているようだが、俺は君を何一つ知らない。こんなにも俺達は心を掻き回され、君に依存していると言うのに。もしも、敵だった時、俺は…………。
「子守唄は勘弁して」と言いながらバーボンを寝室に運ぶ“彼女”の後ろ姿をただ見つめていた。
君は一体何者なんだ。
「君を知りたい」
fin.