short

□After School Story
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通学路を変えて何日目か分からない。
もうこうして三ヶ月は経っているかもしれない。
学校前を通るだけでも他校の制服は目立って嫌なのに、更に視線を浴びる校門前で待つという行動を私が出来るはずが無い。登下校の道を変えるという事だけで精一杯だ。そのため結果はそれなりで今日に至る。

「もう諦めようかな……」
「なにを諦めるんだい?」

背後から聞き覚えのある声がして振り返ると、そこにはあの時のプラチナブロンドの彼がいた。

「え…」
「“可愛い”他校の生徒がうちの学校の前を通るって噂を聞いたけど、君だったのか」

もう会えないと思っていた本人に突然声を掛けられ動揺する。対して、あの時と変わらぬ同じ笑顔で見つめられ、素直に火照る顔。しかも可愛いなんて言われたら、脈アリではと期待してしまう。

───「あれってピエール様?」
───「きゃー!ピエール様ー!」
───「かっこいいー!」
───「ピエール様と一緒にいる子は…?」
───「なんで……?知り合いなの?」

ピエール様……?
彼のことだろうか。

先程まで騒いでいた女子達はこちらを見てなにやら陰口を言っている。

「着いて来て」

状況を察したピエールにユウは腕を引かれ、言われるがまま着いて行った。



「ごめん…大丈夫?」

やっと二人きりになれる場所まで来ると、ピエールは腕を放した。ピエールは先程の事を気にして俯く隣の顔を覗く。

「…エ…ル………」
「ん?」
「ピエールって言うんですね。とても素敵な名前です」

やっと分かった名前を口に出し、その名前の主に微笑みかけた。だがその必死な笑顔はどこか辛そうに見えた。

「ずっと知りたかったんです。この前、聞き忘れちゃったから───改めてピエールさん、助けて頂きありがとうございました!」

ユウはあの時の様に深々と頭を下げた。ゆっくり頭を上げ、ニコッと笑ったユウの胸には大きなピンク色のハートが夕陽に反射してキラキラと綺麗に輝いていた。

「礼なんて良いよ、当然の事をしたまでだ。それに──」

ピエールの手が熱を帯びたユウの頬に触れる。

「こんなにも可愛らしいお嬢さんを助けられて僕は光栄だよ、ユウ……」

頬から顎にそして唇へ。

唇が離れ遠のく意識……最後のピエールの表情は逆光でユウには見えなかった。
これが私のファーストキス……。


ピエールは意識を手放したユウを抱き上げベンチに下ろした。

「これで良かったんだ」

そう呟く彼の手にはピンクのハートが輝いていた。

これでユウは僕の事を忘れる。
いいんだ、ユウに僕は似合わない。
こちらの世界に足を踏み入れてはいけないんだ。

「ユウ、君に黒は似合わないから……」



「あれ…私なんでこんな所で……」

知らぬ間にベンチに横になっていた。何故ここに、何時からここになどと思い出そうとするがどうしても思い出せない。

「え…あれ、れ……」

突然頬を伝う涙。
止まらぬ涙に訳が変わらず困惑する。

ハンカチかちり紙はないかと自身の鞄から探そうとすると、隣にどこか見覚えのある綺麗に折られたハンカチが置かれていた。

「ピエール…さん……」

ハンカチを見た瞬間に勝手に金髪の彼の名前を口にしていた。


また会える日まで、ハンカチは私が持っていますね。
このハンカチが意図的に置かれたものだとしたら、なんて保証はないがまた会える、そんな気がしてきた。

涙を拭いながらそう思ったユウの胸はピンクに輝いていた。


fin.
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