touken

□馴れ合い嫌い
1ページ/1ページ


念願の望みが叶って近侍に指名された主命狂が束の間、無事にカンストし次に練度の高い俺が近侍に固定になった。馴れ合いは不要だ。俺は何時でもこの座を譲ってやるというのに、長谷部は外されることを惜しみはしたが俺には何も言ってこない。何故だ。

「大倶利伽羅〜!」

今日も主が近侍を呼んでいる。

「ごめん、少し手を貸してくれる?」

何だと声のする方へ近寄って行くと主の目の前には中途半端に土が掘られた大根があった。
主なら堂々としていれば良いものの、ここの審神者はある程度手が空くと自分も生活しているからと内番の手伝いを買って出る。その為、今日は当番の秋田藤四郎と燭台切光忠とで畑にいる。何故か俺も一緒に。

「疲れたでしょ?光忠達にも丁度休憩入れさせたし、私達も少し休もうか」
「馴れ合うつもりはない」
「またまた」

俺の反応を照れと思っているのかいつも冗談を言ったかのように取られてしまう。「私は大倶利伽羅の事好きだよ?」そう言って主は休憩用に誰かが置いた木陰下の大木に腰掛け、隣をぽんぽんと叩き微笑んだ。

いつもそうだ。こいつはしれっと恥ずかしみもなくこんなことを言ってのける。相手の気持ちを知りもしないで。
どうも一緒にいると調子が狂う。

「いつも思うけど大倶利伽羅の髪って本当にお洒落だよね!そうだ、今度私も真似していい?」

他の奴にもこんなことを言っているのだろう。だが本心の様に聞こえてしまう、そんな澄んだ瞳で言わないで欲しい。

「この前、おつかい中に新しく出来た甘味屋を見つけたんだけど今度一緒に行かない?」
「興味ないな」
「そうなの?ずんだ餅好きだよね?ずんだもあるかもよ」
「どうでもいい。俺に構うな」
「そっか、光忠が作ったずんだ餅の方が美味しいもんね」

そっかそっかと隣で頷く。

何なんだこいつは。
いつも思うが人の話を聞いているのか。今まで俺のような奴はいなかったと顕現した際にへし切長谷部から聞いた。所詮問題児とでも思っているのだろうに。

「この前五虎退から聞いたよ、虎くんを探すの一緒に手伝ってくれたんだって?」

持ってきた飲料水を飲んでいたかと思うと主はふと思い出した様に口を開いた。

ああ、小虎が一匹いないと涙目で困っていたから共に探してやったあの時のことか。結局あの件は縁の下で眠っているのを発見し一件落着した。
困っている奴は助ける。当然のことだ。

「やっぱり優しいね、伽羅ちゃんは」
「やめろ」
「はいはい、大倶……伽羅ちゃん!」
「はぁ…俺は犬かなにかか」

嫌がる呼び方をわざと呼び、よーしよしよしと以前主とインターネットという物で見た某動物研究家の如く頭を髪がぼさぼさくしゃくしゃになるほど撫でてくる。やられっ放しでは癪に障るのでやり返してやると「おわっ、やったなぁー」と先程の倍の速さで頭上で手が往復し出した。それを同じように返す。

「ちょっ、やめっ!立ち上がるのはずるい!」
「先にやり出したのはあんただ」
「そうでした」

聞き分け良く認めたかと思えば主は笑い出す。

休憩が終わり、光忠達が畑へ向かうのを見るとお互い髪の毛ぼさぼさになりながらも同じに畑仕事へと戻った。



「伽羅ちゃん、何か良いことでもあった?」
「別にない」
「そう」

収穫した大根を運びながら燭台切は普段と雰囲気の異なる大倶利伽羅を見て嬉しそうに呟いた。

「伽羅ちゃん、最近主にべったりだもんね」
「あいつが勝手に着いてくるだけだ」
「そうかなー」

ムキになって「そうだ」と強く断定する大倶利伽羅に「伽羅ちゃんに足りないのは素直さかな」と言う燭台切は我慢出来ずに笑い出す。

主に対して「おい」と1日に何回呼び止めているか本人は知っているだろうか。見ているだけでも2、3回では済まないはずだ。そして顕現したての頃は僕とも必要最低限のことしか話さなかったにも関わらず、最近では他の刀剣男士とも会話をしている姿を見る他、表情や雰囲気も明らかに良いものとなり短刀達にも話しかけられている光景を良く見る。全くもってこの変化を早く貞ちゃんと鶴さんにも見せてあげたい。

「皆と仲良くなったのも、主のおかげだね」

あと、主の説得を受け入れ近侍の交代を我慢してくれた長谷部くんにも感謝だね。
主に後で報告しようと燭台切は鼻歌を歌いながら厨へと向かった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ