touken
□office lovers
1ページ/2ページ
※バレンタイン企画
※現パロ
「長谷部くん!」
「長谷部先輩、これ良かったら受け取ってください!」
「どうも」
本日何回目か分からない贈呈式を私は遠くの机から覗き見た。
だが長谷部は目の前のパソコンに目を向けたまま相変わらずの仏頂面でそれを受け取る。義理チョコに紛れて本命も沢山あるだろうに流石に可哀想だ。まあそういう冷たい態度も含めて好いている女性社員も多いのだろうが。
今日はバレンタインデーだからかいつもよりオフィスに活気がある様に感じる。それに私は断ったがバレンタインに合わせてか今日は飲み会があるようだ。
皆男性社員たちは女性社員にチョコレートを貰ってそれを自慢するかのように自分の机上に並べているが長谷部のは明らかに多く、机の端に無造作に山積みになっている。
それに私が妬かないと言ったら嘘になるかな…。
*
皆が帰った後のオフィスは暗闇に包まれ昼間とはがらんと変わりとても静かだ。
だがその中の一つ、明かりのついたパソコンはカタカタとタイピングを鳴らしている。
「調子はどう?社畜さん?」
「先輩!」
その漏れる光の元はやはり長谷部だった。
昼間の仏頂面はどこへやら声のした方に目を向けるとぱぁっと表情が明るくなる。その反応に自然と口が緩む。
「犬みたい……」
周りとの態度の差にいつも飼い犬か!とついつっこみたくなってしまう。
今にも尻尾を振り出しそうな忠犬っぷりに何処と無く優越感を感じる。
「ねえ、“主”って言ってみて」
「何故ですか?」
「良いから!お願い!」
「先輩の願いとあらば……あ、る、じ?」
私の願いに目を丸くさせた彼であったがもう一度頼み込めば快く承諾してくれる。
「……ふふっ」
机越しに立っている私の顔を覗き込むようにして首を傾げる姿が子犬のようでつい笑ってしまった。
「もう、なんですか?」
「ふふっ、別に!……手伝おうか?」
「大丈夫です、もうすぐ終わります!先輩の手を煩わせる訳には行きませんから。───それとも…今夜の飲み会………先輩も参加なさるのですか」
視線は画面に向けているが会話の間に合わせて長谷部の表情が曇って行くのが見てわかる。
「私は参加しないよ!長谷部がいるからね」
「…ですよね!あと残りすぐに終わらせます!」
ずっと気にしていたのだろうか、曇り空が一気に晴れて笑顔が眩しい。私の言葉でスイッチが入ったのか長谷部は笑顔で黙々と机に向かう。
今にも桜が舞い出しそうな喜びようが可愛過ぎてときめいてしまう私は末期だろうか。彼の私に対する想いや他の女性達以上に私は長谷部という男の虜になってしまっている気がする。
重い女だと嫌われたりしないだろうか…ふとそんな不安が頭を過ぎった。