touken

□心からの想いを
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※バレンタイン企画


穏やかな昼下がり。
私は遠征から帰り、縁側で一人日向ぼっこをしているうち一番の古株に声をかけた。

「まんばぁ〜!……くん」
「何だその申し訳程度の“くん”は。それにその呼び方はやめろと何度も───」
「ごめんごめん。ねえねえ、バレンタインデーって知ってる?」

呆れた目でため息を吐いたと思ったらバレンタインという言葉にびくりと肩を震わせる彼。何だろうと首を傾げていると想像した反応とは違う反応が帰ってきた。

「う、五月蝿い!……い、い今暫く待ってろ」

それだけ言い放つと山姥切は立ち上がりどこかへ行ってしまった。

なんだなんだ、何が起こっている。
怒鳴られることはあったが、すぐさま退出という今まで無かった反応に戸惑いを隠せない。まさかこんな審神者は嫌だと遂に痺れを切らしたとか…。今から本体持ってきて切られたり……。

有り得なくもない悪い事ばかり浮かんでくる自分の頭を抱えた。

「主さん?どうしかしましたか?」

頭を抱えて項垂れる姿が目に入ったのか顔を上げると洗濯カゴを持ったまま心配そうにこちらを見る堀川国広がいた。

「堀川くぅーん!」

ナイスタイミングと言うように汗ばむ手で手招きをする。
兄弟でありルームメイトでもある為、何か知ってるのではないかと言う希望から先程の山姥切との出来事を全て話して聞かせた。すると案の定、何か心当たりがあるのか堀川の口が緩んだ。

「ふふっ、それは違いますよ!僕の口からは言えませんけど」

堀川は「楽しみにしていて下さい」とだけ言い残し、残りの選択を干しに行ってしまった。
主命でも駄目だと言うのだから仕方ない。
そもそも“主命だ”だけで通用するのは彼だけだろうが。

それから暫くしないうちに山姥切は予想していた本体ではない何かを持って帰ってきた。

「これを、あんたに」
「え………」

目の前に差し出されたのは色とりどりの綺麗な花束だった。

「いつも…ありがとう。写しの俺を選んでここまでこの本丸を引っ張って来てくれた訳だし…一応…あんたには感謝してる」

そう言いながら山姥切は被っている布を引っ張り赤面する顔を隠した。

一方、差し出された本人は今までで聞いたことのなかった感謝の意にポロリと涙が頬を伝った。

彼の事だ、悩みに悩んで今に至るのだろう。
きっとこの花も遠征先で探して積んできたのだろう。そう考えると尚更目頭が熱くなってくる。

「──おいっ」
「ごめん……嬉しくてつい…」

泣いていることに気づき慌てる山姥切に対して私は涙を拭い微笑んで見せた。

「さっきのはプロポーズととっても良いのかな?」
「はぁ、違う!……花束なんて渡さなくてもあんたの頭は年中花畑だったか」
「ごめんなさい!私が悪かったからその花束下さいっ!」

私がいつもの様に茶化すと花束を没収されそうになり慌てて謝る。

山姥切は「あんたって人は…」と再び花束を差し出しため息を吐いた。こんな状況、照れてしまって茶化さないではいられないではないか。

「とっても綺麗な花束、ありがとう!でもそれよりもまんばの方が綺麗かな」
「……綺麗とか…言うな」

プレゼントを渡し終えて隣に座った彼の顔を覗き込み、口説いてみせる。いつも通りの何気ない返答だが、その一つでも今日は普段よりも照れている様に感じた。

花束を眺めているとふと小さく畳まれ、花の中に紛れている紙切れを発見した。

「これは?」
「……文だ、頼むから後で読んでくれ…」
「今じゃ駄目なの?……恥ずかしい?」
「……五月蝿い!」
「はいはい」

軽返事をし払い除けようとする手を余所に頭を正確に言えば布だがわしゃわしゃと撫でる。
つい可愛くていつも意地悪をしたくなってしまう。そんなに照れるような事が書かれているのだろうか、今から読むのが楽しみだ。

「はい、これは私からね」

和柄のラッピングで包まれた袋を渡す。

「自分でクッキー焼いてみたんだ」

山姥切が受け取ってそれを透明な部分から袋越しに覗くと中には山姥切のイラストや紋が描かれているアイシングクッキーが入っていた。

「懐かしいよね、初めの頃はこの本丸も二人きりで負け戦ばっかりで私は何事も失敗ばかりで……。でも側でいつもまんばが手を差し伸べてくれたからここまで来れたんだよ。山姥切国広を選んで後悔したことなんて一度もない。山姥切国広が私の初期刀で良かったと心から思っているよ───こちらこそいつもありがとう。こんな審神者だけどこれからも宜しくね、大好きだよ」

ついつらつらと熱が入って長く告白とも取れる内容を語ってしまった。また引かれただろうかと隣を振り向くと布で隠れて表情は読み取れないが俯き、地面を見つめる彼があった。
その演説が終わるまで隣で大人しく聞いていた彼は暫く間があった後で口を開いた。

「俺も…」
「ん…?ごめん、聞こえなかった!もう一回言って!」

聞き取れるか聞き取れないかの小さな声で呟いた一言。
何とか聞き取れたが、どうしてももう一回しっかり聞きたくてにやける顔を抑えもう一度言うように頼む。

「…俺も……」
「え……?ごめんもう一回!ラスト!お願い!」
「……あーっ!あんたを好いている!!!そら、これで聞こえたか!?」

顔を赤らめ半場ヤケクソ状態で放った声は思いの外大きく、周りにいた刀剣男士達の耳にも入る程で笑っている者もいれば私同様に驚いて目を見開いている者もいた。
その失態に今にも顔から湯気が出そうな彼は布を深く被って庭の遠くへ走って行ってしまった。

「なんだ、あの可愛い生き物は……」

縁側に取り残された彼女は一人呟いた。
暫くこのことを思い出しては上機嫌で過ごせそうだ。それにしてもなんで欧米式のバレンタインだったんだろうか。

疑問を胸に翌日バレンタインの日にお菓子をくれた刀剣男士達に尋ねてみるとどうやら短刀達が私と見た海外ドラマの影響だったようで……。誤解を正してしまったため来年は山姥切からのは貰えないのかと考えると少し寂しいものがあった。

「あ、主さん!」
「お、堀川くん!まんばは?」
「相変わらず部屋で布に包まって蹲ってるよ、最近乾燥するから助かってはいるけど……」

やはりそうなってしまったかと苦笑いを返す。

「あとあのクッキー主さんがあげたんだよね、僕らに自慢した後大事そうに棚に飾ってあるよ」
「食べていいのに…!」
「大変!主さん鼻血出てるよ!」

可愛すぎか!私を喜ばせて血液不足で殺す気か!
まあ、昨日貰った手紙を花束と一緒に飾っている私も人の事は言えないのだが…。

改めて審神者やってて良かったと切実に思えた。
これは私が出動するべきだと決意し堀川の心配を大丈夫だと振りほどき、半分飾ってあるクッキーを茶化す目的も含めて山姥切のいる部屋へと向かった。


fin.

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