妖変化
□的場家との因縁
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咲良が倒れてから、丸三日が経った。
千景はそれから咲良の側を一歩も離れていない。
『……主』
影霧が千景に声をかけた。
『……そろそろ、眠りに着かれよ。もう丸三日は経つ。これ以上睡眠をとらないのは……』
「……咲良が目を覚ますまで、俺はここに居る」
『主……』
それを見かねたのか、蓮池は軽く舌打ちをした。
『……雹霞、しばらく一人で結界を張れ。一瞬で片が付く』
『――心得た』
蓮池は咲良の結界からいったん抜け出した。そこの間を呪いが咲良に入り込もうとしたのを雹霞が素早く氷で固まらせた。
『……咲良殿……早く目を覚ましてくれ……』
雹霞はぽつりと呟いた。
『――おい、千景』
千景と影霧の側に蓮池がやってきた。
『貴様、いつまでここに居るつもりだ?ここにいても、咲良は目は覚まさん』
「……それでも、俺は咲良が……」
『咲良がなんだ、咲良が居なくては貴様は何もできんのか』
千景は一瞬蓮池の方を見たが、俯いて乾いた笑い声を出した。
「……ハハ、そうかもな……咲良が居ないと俺は……ただの木偶の坊だ」
『主……!!』
『影霧、下がってろ』
影霧に下がるよう促すと、蓮池は渾身の一撃で千景の頬を殴った。
『っ、蓮池!?』
影霧は状況が把握できず、蓮池を止めようとした。
『――止めるな、影霧』
結界を張っている雹霞が静止の声をかけた。
『雹霞……!?』
『気にするな、蓮池は先代がこのような状況に陥った時にも同じことをやっていた。気にするな』
『……了承した』
蓮池はというと、吹っ飛んだ千景のもとへ行き、胸ぐらをつかんだ。
『……いいか千景。咲良は今闘っているんだ。我と雹霞の結界を張っているが、最低限の呪詛だけが入ってしまうが、何とか咲良は持ちこたえている。これは、我と雹霞も闘っている。
お前だけが咲良が倒れて悲しんでいると思うな!!
我や雹霞、影霧も、前を向いて最善の行動をとっている!!
貴様はどうだ!?ここでウジウジしているだけだろう!!
貴様は我らの主で、酒見家当主なのだろう!?しっかり前を向いて、何が最善なのか、何が一番咲良にとって良いことなのか、考えろ、酒見家当主、酒見千景!!』
千景は蓮池の顔を見て目を見開いた。
蓮池が、泣いていた。
感情を出さない、あの蓮池が。
水龍の、水を操る、蓮池が。
「……あぁ、そう……だな。悪い……蓮池、雹霞、影霧……俺ばっか……ウジウジして……」
『――で、どうするんだ?これから』
千景は自分の胸ぐらをつかんでいた蓮池の手をやんわりと取り払った。
「そんなの、決まっている」
先程までの絶望の目から、決意を決めた目に変わっていた。
「――俺の妻、咲良に呪詛をかけた愚か者を見つけ出す」
妖三匹はそれを聞いて口元に笑みを浮かべた。
『それが、我らが主だ』
蓮池はそういうと結界張りに戻った。
「――影霧」
『何ですか?我が主よ』
「徹底的に蔵の書物を探る。灯りの用意と、お前も手伝ってくれ」
影霧は久しぶりに見た主の晴れ晴れとした顔に、笑顔を向けた。
『心得た』