妖変化

□的場家との因縁
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パリンッ。









千景のお茶碗が音を立てて割れた。



「キャッ……」



『奥方、怪我はしていないか?』



蓮池は咲良に駆け寄り、茶碗を拾い上げた。



「駄目ねぇ……いきなり手の力が抜けちゃって……。それにしても……嫌な予感がするわ……」



咲良は苦笑いをしながら茶碗を拾うのを手伝った。



『……主……』



「蓮池、心配なの?」



咲良は蓮池を見上げた。



『……少し』



「それじゃあ、行ってきなさい。私の事はほっぽいていいから」



咲良はニコ、と笑い蓮池を見た。



『それでは、主の命令を無視する形になってしまう!!それだけは絶対駄目だ!!』


蓮池は慌てて拒否をした。


「そうなの?」


『そうだ』


「それじゃあ……私を結界の中に入れておけばいいんじゃないのかしら?」


蓮池はポカンと口を開き、咲良を見つめた。咲良といえば、蓮池に変わらず笑みを向けている。


『……しかし』


「蓮池、行きなさい」


主の妻に言われ、蓮池はコクリと頷いた。


『……結界』


蓮池は咲良を結界の中に収めた。


『……すまない奥方。すぐに戻る』


「行ってらっしゃい、気を付けて」


『御意』


蓮池は光の速さで千景たちのもとに飛び立った。







暫く攻防の連続だったが、やがて終止符が打たれた。



影霧が的場の式を討ったのだ。



『ぐあぁっ……!!』



『よしっ!!』



「ちっ……やはり、あの式では無理があったか」



的場は小さく舌打ちをすると、袖から呪符を取り出し、影霧に投げた。



『影霧!!』


『っ!!』


その呪符は瞬間的に矢となり、影霧の腹部を貫通した。


影霧は力なくその場に倒れこむ。


『影霧!!しっかりしろ、おい!!』


雹霞は影霧に駆け寄り、傷の具合を見た。


出血がひどく、血がなかなか止まらない。


雹霞は少し荒療治だが、氷の塊で傷口を押さえた。

『貴様……!!』


その時、神気が雹霞の頬をすり抜けた。


瞬間、雨が降り注ぐ。


そこにいたのは、鬼の形相の蓮池だった。


『蓮池……!!お前、奥方は……』


『奥方は大丈夫だ、我の強力な結界の中におる。それより……』


蓮池は影霧をチラと見てから的場を睨みつけた。


『これは一体どういうことだ、雹霞』


声には怒気をはらんでおり、妖気は殺気を帯びていた。


『……的場が投げた呪符が矢に変わり、影霧の腹部を貫いた……』


『――ほう』


蓮池は剣呑な目で的場を見ながら返事をした。


『……蓮池?』


『雹霞、影霧を連れて屋敷に戻れ。奥方の側から離れるな。いいな』


蓮池の背中から思いが伝わった雹霞は、影霧を背負い、屋敷へ向かって飛び立った。


「させるか」


的場はもう一枚呪符を取り出し、雹霞に向かって投げた。



『それはこっちのセリフだ』


蓮池は、妖気を操り、近くにある川から水を引き上げ呪符を跳ね返した。



『大事な仲間を傷つけた罰だ。許さんぞ』



蓮池は水を自由自在に操り、水の壁を築いた。


「っ」


そして的場の周りを水の球体で囲んだ。


「これはっ……」



『罰だ』


蓮池は短く答えると、水の球体を一斉に的場にぶつけた。



瞬間、上がる水柱。









的場が目を開けると、そこにはもう蓮池はいなかった。


「……小癪な真似を」


的場の呟いた声は、風に乗って消えた。
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