妖変化
□的場家との因縁
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蓮池は的場家の屋敷に侵入していた。
目的は、何故影霧を攻撃したかということ、蓮池の推測が正しく、咲良の呪詛を的場家が行った場合、なぜそのようなことをしたのか。
蓮池は屋敷に入る前に妖力を操作し、姿が見えないようにした。
そしてひたと屋敷を捜索する。
『しかし、埃くさいなぁ……』
文句を言いながら蓮池は屋敷を歩き回る。
たまに人間とすれ違うが、全く気が付かれない。
蓮池はある一室の前で足を止めた。
襖の少し開いているところから部屋の中を見ると的場と、その部下らしき人間がいた。
「――まったく、人が悪いですよ的場。何故そこまでして酒見家を傘下に入れようとするのですか?」
「酒見家の妖力と術、そして従えている妖は質が良く、何より強力だ。それを的場家傘下に入れたら、的場家はより一層強大な祓い屋になるでしょう」
「的場も人が悪い……。ならばなぜ、傘下になるよう言わず、酒見家の奥方に呪詛をかけ、本日の晩闘った妖に大怪我を負わせたのですか?」
「大切なモノを奪ってから、傘下になるよう申し立てすれば、それほど糸も簡単にできるだろう?」
瞬間、蓮池は鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。
千景にとって大切なモノ。
妻の咲良。
商売道具兼、酒見家家宝の『妖変化』。
そして蓮池たち、従者の妖たち。
全てが、つながった。
蓮池は気力で何とか的場の屋敷の屋根に上がり、水鏡を置いた。
そして、妖力を操作して千景の部屋の机にもうひとつ水鏡を作った。
こうしておけば、的場が不審なことをした場合すぐにわかる。
蓮池はそうすると、自分の主が待つ屋敷に戻った。
千景は目を覚ますと、咲良が微笑みながらこちらを見ていた。
「っ、咲良……いつから……」
「ふふふ、ほんの一時間ほど前からですよ」
「ずっと見ていたのか?」
「ええ」
「……飽きないのか」
千景は髪をくしゃりと握りながら起き上った。
「えぇ。貴方の寝顔、とても綺麗なんだもの。見ていて飽きないわ」
千景は瞬間的に顔を真っ赤にさせた。
「そういえば、蓮池どうした?」
コホン、とワザと咳払いをし、話題を変えた。
「さぁ……?一時間ほど前、調べ物があると、屋敷から出ていきましたが……」
「調べ物?」
すると、二人がいる部屋の襖が開いた。
入ってきたのは、話題の中心の蓮池だった。
『おや、千景。起きたのかい?影霧の容体は?』
呼吸が安定し、ぐっすりと眠っている影霧がそこにいた。
「蓮池、一体何を調べていたんだ?」
蓮池は虚を突かれたかのような顔をしていたが、首筋をポリポリと掻くと咲良の方を見た。
『奥方……』
「あら、いけないことだったの?ごめんなさい」
咲良は苦笑交じりで謝った。
「話せ、蓮池」
『……あぁ』
千景の気迫に押されたのか、蓮池は素直に頷いた。
『いいか。心して聞け。我は的場家の屋敷に潜入してきた』
「何!?」
千景は心底驚いたように蓮池の顔を見ていた。
「どうして……!!」
『奥方の呪詛をかけた犯人を、捜しに行っていた』
「蓮池はもとから的場が怪しいと狙っていたのか!?」
千景はさらに驚き、声を荒げた。
『そう声を荒げるな。影霧が起きるだろう。怪しいと思っているのは我と雹霞、影霧もだ。気が付かん方がおかしい』
蓮池は腕を組みながらそう言った。
影霧は一瞬呻き声を上げたが、すぐに眠りに入った。
「しかし……ちゃんとした証拠がなければ……」
『……そうだのう。良い時間だ。行くぞ』
蓮池は立ち上がり、部屋から出ていこうとした。
「何処へ行く気だ?」
蓮池は少し楽しそうな顔をしながら口の端を釣り上げた。
『的場の尻尾を掴む』