妖変化

□的場家との因縁
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――数十年前。


当時の酒見家当主酒見千景(ちかげ)は妻を貰い、温厚に暮らしていた。



『妖変化』はその時からあり、蓮池も同様、千景に仕えていた。



「……蓮池」



『どうした、我が主よ』



「……俺は、幸せ者だな。お前みたいな妖や、妻のような美人と一緒に暮らせて」



『いきなり何を言い出すかと思えば……呆れたものだな。人間は、そのようなもので幸せを感じるのか』



蓮池は縁側に座っていた千景の後ろに立っていた。


「……人間はそういうものだよ。蓮池もきっと、分かる時が来るさ」


『我には分からん。いつになったら分かるのだ?』


「……それは、蓮池の心によるなぁ。俺の子供かもしれんし、もしかしたら孫かもしれん。蓮池は、そのときまで酒見家に仕えてくれているかどうかの疑問だが」


『……フン。我は先代と契約を交わした時から、未来永劫、酒見家に仕えると志を立てておる。案ずるな、我はどこにも行かん。貴様の孫や玄孫の側で守ろう』


蓮池は遠い方を見ながら微笑みながら言った。


「……ありがとう、蓮池」



「あなた、蓮池?そんなところに居たら風邪をひきますよ。中にお入りなさい」


居間の方から千景の妻、咲良(さくら)が顔を出した。


『奥方。貴殿の方が体が弱いのだ。暖かいところに入られよ』


「ですが蓮池。妖である貴方も風邪に似た症状が出るのではございませんか?」


『……奥方。我は風邪をひきませぬ。そのような症状も出たことはありませぬ。それよりも、我が主の方に気を留めてやりませぬか?先程から殺気が怖いので』


咲良が蓮池の陰から顔を出して千景の方を見ると、ものすごい形相で咲良を見ていた。


「あなた?いかがされたのです?」


「咲良……お前は俺より蓮池を選ぶのか?」


「フフフ、嫉妬ですか?可愛いですね、千景は。蓮池は女性型の妖なので、つい話が弾んでしまって。千景も中に入りましょう?おいしいお茶があるんですよ」


咲良は千景の側まで行くと手を引いて居間の中へ入れ、お茶を置いた。




「……いただきます」




ズッ……と千景は咲良が入れてくれたお茶を一口含んだ。



「……美味い」



「よかったです。おいしい和菓子もあるのですよ。蓮池もいかがです?」


『いや、我は遠慮しよう。あまり甘いものは好きではないからな』


「……そうですか……では、今度は蓮池も食べれるようなお菓子を用意しておきますね」




『……恩に着る』




蓮池はそういうと『妖変化』を持って先代の仏壇にの前に座った。



『……どうだ?これが心配していた千景だぞ?案ずることはない。咲良と、我と、雹霞や影霧(カゲキリ)もおる。妖である我が仏壇というものの前に座るというのも滑稽だがな。



酒見家は我が守りきる。だから安心して地獄にでも落ちろ』




蓮池はそういうと仏壇の前から立ち上がり、居間に戻った。



「あぁ、蓮池。『妖変化』を持ってどこに行っていたんだ?」



和菓子を食べていた千景が蓮池に話しかけた。



『……いや、少し先代に話していただけさ。アヤツは、貴殿のことを心配していたのでな』



「どういう感じでだ?」



『アイツに妻はできるのか、『妖変化』を使いこなせるか、ちゃんと飯は炊けるのか、的場家との関係を崩さずにできるのか……まぁ、的場家との関係は崩れると思うが』



「あんのクソ先代……!!なんで的場家との関係が崩れるとか蓮池はわかるんだ?確かに、今の的場家当主は俺とは反りが合わないが、話し合いとかなんなりしたら何とかなると思うが」



『……貴様の思考回路はいつからそんな甘ったるくなった!!』


蓮池は千景の頭を鷲掴みするとグッと力を入れた。


「い、痛い痛い痛い!!蓮池離せ!!痛い痛い痛い!!おま、おい!!仮にも主である俺に……」



『良いか千景!!』



蓮池が名前を呼ぶのは真剣な話をするときや、怒っている時である。



「……」



『的場家と名取家、そして酒見家は今や祓い屋の一角を担っているんだぞ!!それを仲良く関係を保っているなど、他の祓い屋の隙を突くだけだ!!』



「だが、そこを協力して一緒に強力な妖を調伏させれば……」



「……甘いですわ」



二人の間に入ったのは妻の咲良。


「……咲良?」


「この和菓子、砂糖が効きすぎていますわ。体に悪いかも……千景、この和菓子、甘いですわ」



先程のやり取りとは全然関係のないことを言う咲良。



蓮池と千景は顔を見合わせ、吹き出した。


「咲良……お前……おかしいだろ、今の流れ的に」


「何がですか?私はただこの和菓子を食べていただけですよ」


『……主、貴殿の負けだ。奥方に勝てるものなど、この世界広しといえど、誰もおらぬ』


「そうだな」


蓮池と千景は同時に笑って席に着いた。
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