妖変化
□約束の加速
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『――……とまぁ、こうして的場家と酒見家は和解をした。咲良は瑠華の父を生み、そして瑠華の母親は瑠華を生んだ。
そしてそれが今月の末、その和解の条件が果たされる』
蓮池は長い間遠くの方を見て話していた。
「今月!?すぐじゃないか!!……ところで、酒見の両親は……」
『主の両親は主を産み付けた後、事故にあい、すぐに儚くなった。主は千景と咲良によって育てられたようなものだ。
……その分、千景は主に毎日のように謝っていた』
「……そう、か。蓮池、ありがとう」
夏目はいまだ眠っている瑠華の顔をそっと見た。
「……酒見……」
夏目はポツリと呟いた。
すると瑠華の瞼が揺れた。
「……ん」
うっすらと目を開く瑠華。周りを見渡し、夏目を見つけると、声をかけた。
「夏目……君?」
「酒見!!大丈夫か!?」
「……大、丈夫……なの、かな?」
『失礼するぞ、主。夏目殿、すまないが暫く部屋を出てくれ。傷口を見るのでな』
夏目は慌てて立ち上げると、部屋を後にした。
『……これは驚いた。もう傷口がふさがっておる』
「本当だ……桜羅のおかげだね」
腹部にあった傷口は桜羅が憑依している間に沢山の回復力を瑠華に注いでいたので、蓮池が昔話をしている間に完治していた。
「ありがとう、桜羅」
傍らにあった『妖変化』の中に入っている桜羅に礼を告げると、瑠華は部屋の外で待っていた夏目に声をかけた。
「夏目君、ごめんね変なことに巻き込んじゃって……私が桜を見に行こうなんて言わなかったら……」
「いや、酒見は悪くないよ。俺が行くって言わなかったら……」
「あの桜はね、おばあちゃんとおじいちゃんの出会いの場所でもあるんだって」
瑠華は夏目の隣に座った。夏目もそれに合わせて腰を下ろす。
「出会いって?」
「おじいちゃんとおばあちゃん、当時では珍しい恋愛結婚だったんだって。出会ったのが例の桜の木の下。おじいちゃん、蓮池に化けてたらしいんだけど、おばあちゃんそれを見抜いちゃったらしくて。だから、結婚したんだって」
「……そうか」
「……夏目君」
「……どうした?」
瑠華の声色が真面目なものになったので夏目はそちらを見た。
「……もし、もしもだよ……。的場と私がもし……婚儀を上げることになったら……蓮池や雹霞、白蒼、桜羅達……『妖変化』を預かってくれないかな」
「っ!?」
瑠華の瞳は潤っていた。そこから読み取れる感情は、恐怖や憎悪だった。
「……どうして、それを俺に言うんだ?」
「……蓮池から聞いたよね、おじいちゃんたちの酒見家と的場家の先代たちの因縁を。和解の条件を」
「なんで知って……」
「蓮池が、傷の具合を見てくれてるとき言ったの」
「蓮池……」
その時襖から蓮池が覗き見していたので軽く睨んでやると蓮池は肩をすくめて廊下から奥の方へ出て行った。
「蓮池?どこへ行く気だ?」
『何、少し台所へ寄って茶でも出そうと思ってな。斑も来い。美味い菓子があるぞ』
「何!?行く行く!!甘味!!」
ニャンコ先生は蓮池の後ろについて行った。
「……ったく、ニャンコ先生は……」
「斑様も意外だなぁ。甘いもの好きなんだ」
「あと烏賊と酒も好きだぞ」
「え、本当?猫ってイカ食べちゃ駄目なんでしょ?」
「ニャンコ先生だから食べちゃうんだよ」
「アハハ、なにそれっ」
瑠華は夏目に笑顔を向けた。
「……酒見は笑っている方が似合うな」
「えっ……」
「そのままでいい。笑っていてくれ。だから……『妖変化』は……的場さんとの結婚は……」
夏目は自分が何を言えばいいのかわからず、しどろもどろになっていた。
「……ありがとう、夏目君。元気出た」
それでもなお、瑠華は涙目だった。
「……」
夏目は瑠華を腕の中に入れた。
「……夏目……君……?」
「っ、あ、わ、悪い……」
夏目はすぐに瑠華を放した。
「夏目?なにをしておる」
そこにタイミングよくニャンコ先生がやってきた。
「ニャンコ先生……蓮池は?」
『我はここに居るぞ』
そこにお盆の上にお茶を乗せた蓮池がやってきた。
「蓮池、お茶ありがとう」
『これも我の役目なのでな。夏目殿、主。部屋に入ろう。体に障るぞ』
夏目と瑠華は顔を見合わせ、笑うと、部屋の中に入っていった。