文豪ストレイドッグス
□虎の入社員
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あの日から二週間経った。
谷崎は荷物整理をしていると、特徴的な長い銀髪が目に入った。
栞だ。栞はあの日以来、国木田に引っ付いていた。
まるで雛鳥だな、そう谷崎は思うと心の中でクスリと笑った。
国木田の指示はまさに的確で、栞も素直に聞いていた。
「栞、この本を外の倉庫においてきてくれ」
「分かりました」
栞は大量の本を腕の中に収めると、フロアの外へとふらふらと足を進めた。
だがしかし、所詮は少女。大量の本の重さに耐えきれず、体勢を崩しかけた。
「おっと……大丈夫?栞ちゃん」
「谷崎さん……すいませんっ」
体勢を崩した栞を支えたのは谷崎だった。
「それにしてもすごい量だね。運ぶの手伝おうか?」
栞はあたふたと慌てた。
「え、あ、いや、そんな、谷崎さんにご迷惑をかけるわけにはいきませんし、これは私が受け持った仕事ですし……」
「栞ー、谷崎に手伝って貰えー」
遠くの方で国木田が言った。
「えっ……」
「――てなわけで、はい」
谷崎は栞の腕の中にあった本をがさっと取ると、フロアから出て行こうとした。
栞は其の後を慌てて追いかけた。
「……」
「どうしたんだいナオミ。兄貴が心配かい?」
二人が去っている方向をずっと見続けているナオミに晶子が声をかけた。
「いいえ……寧ろ、軽く喜んでいるぐらいですわ。兄様、栞さんを気にしているくらいですし……このままゴールインでも……」
妹の軽い妄想に晶子はため息を漏らす。
「そんなに兄貴のことを気にしているのかい……でもまぁ、あの二人は良い感じだよね」
「ですよね!!?」
ナオミは目を輝かせながら晶子にずいっと近づいた。
「ま、まぁ……栞はどこから来たのかわからないらしいし……過去の記憶は私でも流石に治せないからね……」
晶子は遠い目で息を吐く。
栞の記憶は二週間経った今日でも思い出すことはできない。
本能が思い出させないように規制を掛けているのかもしれないが。
晶子は思案にかけられる中、紅茶を一口口に含んだ。
✿ ✿ ✿
外に出る階段を下りていると、本に白いものが降ってきた。
「あ……雪」
この季節にしては珍しいと思う。
「珍しいな……まぁ、ボクの場合能力も雪関係だから、気にしないけど」
「……能力?」
「あぁ、異能力者のことだよ。栞ちゃんは……あるのかなぁ……?」
うーん、と唸りながら倉庫の鍵穴に鍵を差し込みながら言う。
「……能力」
栞はゆっくりとその単語をもう一回言った。
瞬間、脳裏に暗闇が広がる。
一人の黒ずくめの男、顔に覆いかぶさる大きな手。
「……い」
「おーい、栞ちゃん!?」
「っ!!」
我に返ると、谷崎が心配そうに自分を見ていた。
「あ……大丈夫です、すいません」
「気分が悪くなったらすぐに言ってね」
「はい、ありがとうございます」
栞はにっこりと笑うと、一緒に倉庫の中に入っていった。