文豪ストレイドッグス
□二つの人格
1ページ/1ページ
――……い
……誰?
――お……い
……五月蝿いなぁ……寝かせてよ……
――おーい、起きろよ、アタシ。
!!
目を覚ますと、そこは真っ暗な世界だった。
「……えっと……」
――よ、アタシ。いや、栞?
「あなたは……」
声のする方を見ると、殆ど自分と同じような格好をした――否、自分と同じ顔をした自分が少し高い位置で座っていた。
――酷いねぇ、この前挨拶しただろ?ミカゲ、神影だよ。
「そうだ……神影……どうして、ここに……」
――アタシはアンタ、アンタはアタシ。二人で一人だ。
「……神影、私と貴方、どちらが本当の私なの?」
――……谷崎さんと同じことを言うのね。
「……少しだけど、記憶があるから」
――やっぱり、覚えていたのね。
神影はふぅ、とため息を吐くと栞を見つめた。
――アンタは、どっちがいいの?
「え?」
――どっちのアタシが、本当だったらいいと思う?
「良いと思う……?」
栞は困惑した顔で神影を見つめた。
――大抵はそうだよ。こうだったら良いな、なんて、人間誰しもそう思うこと一回はあるだろ。あんたはどうする?
「私は……」
強い自分の方がいい。そちらの方が探偵社の力になるだろう。
しかし、それは人格を神影に預けるということだ。
「私は、この人格のままで、貴方の能力を使いたい」
――……!!
神影は驚いて栞を見た。
――アンタ、欲望出しまくってるわね
神影は脚を組み、頬杖をつく。
――アンタはその人格のままでアタシたちの能力を使いたいってのかい?それは無理な話だ。アタシは……
アンタが死にかけた時に、生まれた人格なのだから――
「え……?」
栞は訳が分からなかった。
死にかけた?私が?どうして?
――能力『死神』はアタシたち二人の能力、所有権はアタシにあるが。能力だけを使い、アタシの人格を出すなんて、無理な話だ。
「……そう、よね、そうだよね……わがまま言ったよね、私……ごめんなさい、神影」
――……主導権は栞のままで構わない。だが、『死神』の主導権はアタシだ。それでいいね?
「……それで、いいよ」
神影はそういうのを確認した後、立ち上がり、闇の中へ消えて行った。
消え去る瞬間、神影は栞の頭の中に言った。
――芥川には気をつけろ
と。
.