白の従者(マギ)
□紅玉姫
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お茶会があってから数日後。
青蓮は白龍の鍛練の邪魔にならないようにと、そっと離れたところで手拭いを持って待っていた。
青蓮は目は見えないが、聴覚や嗅覚で周りの気配を見ている。だから、全てが見えないわけではない。
「ちょっとぉ、そこの貴女ぁ?」
突然後ろから話しかけられた。
「はっ、はい!?」
流石に予想していなかったので驚く青蓮。
「そ、そんなに驚かなくてもいいじゃないっ。貴女、白龍ちゃんとこの従者よね?目が見えないっていう噂の……」
「は、はいっ、白龍様の従者をさせていただいている華青蓮です。あの……失礼ですが、貴方様は……?」
「私は練紅玉。煌帝国第八皇女よ」
相手が皇女と知り、慌てて膝をつく青蓮。
「た、大変失礼いたしました!!ご無礼をお許しください……!!」
青蓮の姿を見た紅玉は慌てて青蓮を立たせる。
「そ、そんなかしこまらなくていいのよぉっ。それに、気にしてないしぃ。そんなことより、その、貴方と……」
最後の方は声が小さくなって聞こえない。
「あの、紅玉様……最後の方が、聞こえずらかったのでもう一度言っていただけませんか?」
「あ、貴方と……――」
「?」
「だっ、だからっ!!貴方と友達になりたいの!!私は!!」
紅玉は苛立ち、大声で叫んだ。
「――えぇ!?」
突然の申し立てに驚く青蓮。
「こっ、紅玉様、そのようなこと、私などという下卑た者に言うお言葉ではございませんよ!?」
「そんなことないわぁ。青蓮ちゃんはとても綺麗な子よ。ね、お願い。私とお友達になって?」
紅玉は手拭いを持っていた青蓮の手をぎゅっと握る。
「わっ、私などで……本当に、よろしいのですか?」
「えぇっ。貴女がいいわっ」
「えっと……それじゃあ……よろしくお願いします、紅玉様」
「もうっ。『紅玉様』なんて堅苦しいわねっ。『紅玉』で良いわよ!!」
「それは駄目です紅玉様!!私は使用人ですっ。紅玉様は皇女なのですよ!?」
青蓮は慌ててそれを全否定する。
「もう、私がいいと言ったらいいのよ!?」
「それでも私が自分を許しません!!」
良い、悪い、そんなことを言い合っていると、青蓮の頭に何かが当たった。
「青蓮……お前何を話しているんだ?」
白龍が青蓮の後ろに立っていた。ちなみに、頭にあたった物は白龍がいつも持っている槍である。
「は、白龍様……鍛練は……」
「終わった」
青蓮は手拭いを差し出すと、白龍はそれを無言で受け取る。
「……なんだか、冷たいわね、白龍ちゃん」
紅玉は心配したような目で白龍を見ている。
「……どういうことですか?」
「そのままよ。白龍ちゃん、青蓮ちゃんに対して冷たいわ。もう少し、優しく接してあげればいいのに」
手拭いで顔を拭いていた白龍の手が止まる。
「……そんなこと、出来るならとっくにしていますよ」
「え?」
「何でもないです。それでは、俺たちはこれで。青蓮、行くぞ」
手拭いを青蓮に投げ、青蓮はそれを慌てて掴むと、白龍の足音を聞き分けながら慌てて追いかけて行った。
「もうぅ、白龍ちゃんも素直になればいいのに……」
紅玉はムスッとした顔で二人が消えた方向を見つめていた。
「――あぁ!!」
――紅玉。青蓮に会ったら言っておけ"
先刻、兄王紅炎に言われたことを思い出した。
「たっ、大変!!言うのを忘れていたわ!!青蓮ちゃん!!待ってぇ!!」
紅玉は慌てて二人が消えた方向へ駆け出した。