白の従者(マギ)
□悪夢
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「……はくりゅ、さま……?」
白龍は青蓮の袖を掴んだまま、放そうとはしない。
「どうかされましたか、白龍様」
「……な」
「え?」
「いく、な。行くな。どこにも行くな……俺が寝るまで……何処にも」
その時の白龍は、小さい子が駄々をこねるような、そんな声だった。
「白龍様が仰るのなら。私は白龍様の従者でございます故」
青蓮は微笑むと、側にあった椅子に座った。
「青蓮……青蓮」
「私はここに居ますよ、白龍様」
袖を握っていた白龍の手をそっと袖から外すと、その手を優しく握った。
「今夜は私がずっと側にいます。だからどうか、ゆっくりお休みなさいませ……」
青蓮がそういうと、白龍は安心したように眠りに着いた。
だが、やはり嫌な夢らしく、暫くすると呻き声が再びし始めた。
「うぅ……白蓮兄上……白雄兄上……」
――……白龍様の、お兄様……?
「姉上……俺は……俺は……」
白龍の表情が、苦しそうになっていくのを、眼が見えない青蓮でも分かった。
「っ……」
青蓮はそっと白龍の頭を撫でた。
「白龍様……大丈夫でございますよ……」
「っ……青蓮」
白龍は再び起きて、青蓮を見た。
光が入っていない目で白龍は見つめられていた。
「青蓮……包帯は……?」
白龍は青蓮の目元に触れながら言った。
「あ……今日、昼間に倒れた時から、なんだか包帯が取れていたらしくて。その包帯も見当たらないので、取りっぱなんです」
青蓮は苦笑しながら言った。
「そうか……綺麗な、眼をしているな」
白龍は微笑みながら青蓮の髪を撫でる。
「……ありがとうございます。さぁ、もうお眠りください。私が側に居りますから……」
「そう、か……?」
「はい。誠でございます」
白龍はその言葉に安堵したのか、すぐに寝息を立てた。
「白龍様……」
「――……うぅ」
――やはり、悪夢を見ておられるのですね……
青蓮はどうしようかと思案した。すると突然、頭の中に歌が流れてきた。
昔、小さいころから聞かされていた歌。
青蓮は少し口を開くと、小さいころから聞かされていた歌を口ずさんだ。
「――……」
白龍の呻き声は、何時の間にやら消えていた。
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