BLEACH

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「あの…浦原さん、」
「はい?何でしょう」

地下勉強部屋まで夜一さんに連れて来てもらったのは良いけど、何をしたら良いのか分からない。
目の前では恋次くんと茶渡くんが戦っているし、どうして二人が、なんて聞ける立場じゃないけど。

「…何だか二人とも、」

空気が、重い。二人とも感じるものは違うけど、どちらにしてもピリピリして切羽詰まっているような。
茶渡くんは何となく分かるけど、恋次君は…やっぱり花ノ宮さんの事、かな。

「…阿散井さんも、相当参ってるみたいですからねぇ」
「恋次くんも…?」
「ええ、それはもう、好きな人が奪われたとあっては…元気でいる事も難しいでしょう」
「そう…なんですか」

やっぱり考えていた通りだったけど、直接人から聞くと心が痛む。
好きな人、そんなに大切な人が自分の前から姿を消して危険なところに行ってしまったら。
その時の気持ちは私もよく分かる。黒崎君はよく、何も言わずに消えちゃうから。

「何でも、尸魂界にいる同期さんにも怒られたみたいですし」
「同期さん?」
「阿散井さんと花ノ宮さんの同期さんですよ。阿散井さん曰く、彼女を一番大切にしてる人らしいッス」

その人には、心当たりがあった。会った事は無いけど、確か尸魂界に行った時に花ノ宮さんが言っていたイヅルさんだと、思う。
と、浦原さんが息を切らしている恋次君に向かって口元に笑みを浮かべながら言った。

「……ですよね?」
「あんまり喋らないで欲しいんすけど…」
「まあまあ、良いじゃないですか」

取り敢えず休憩でもするのか、卍解を解いた恋次君が近くまで寄ってくる。
茶渡君はボロボロなのに、恋次君にはそれらしい傷が全然ない。

「恋次くん」
「あ?」
「その…恋次くんは、信じてるよね?花ノ宮さんの事…」

不安はある。もし恋次くんが花ノ宮さんの事、信じてくれていなかったら。
でもそんな質問、失礼だったのかもしれない。
恋次くんは疲れ果てた顔にニヒルな笑みを浮かべて力強く言った。

「…当たり前だろ、何年アイツと一緒にいると思ってやがる」

思えば、私なんかが言っていい事じゃなかったんだと思う。
何年も、何十年も花ノ宮さんと一緒にいた恋次くんに、私みたいに数か月しか一緒にいなかった人間が。

「そう、だよね…ごめんなさい」

別に大丈夫だと言って笑う恋次くんは優しくて、花ノ宮さんとお似合いだなあと余計な事を考えてしまう。
でも私のそんな思考を遮るように、恋次くんは遠い目をしながら小さく呟いた。

「吉良にも、同じ事言われたんだよ」
「…え?」
「おやおや、信用されてないんスねぇ」

浦原さんの言い方に恋次くんは自嘲的な笑みを浮かべて、少し俯いた。
もしかしたら恋次くんは少しだけ疑ったのかもしれない。それは責められる事じゃないけど。もしかしたら。

「そうかも、しんねぇな」
「…恋次くん、」
「結局俺は、あいつの事を何にも考えてなかったんだよ」

そう言って話す恋次くんはとても辛そうで、でも、次は必ず助けるって意思がすごく伝わって来た。
きっと花ノ宮さんだって皆に会いたいって、話がしたいって思ってるはずだよ。
どうして花ノ宮さんが虚圏に行っちゃったのかは分からないけど、私の周りの人はみんな信じてる。
黒崎くんや恋次くんは今でも助けに行きそうな勢いで、逆に不安になるぐらい。

「私も…戦いたいです。…花ノ宮さんを、助けたい」
「…そうですか、それなら」

ハッキリ言いましょう、浦原さんが私と恋次くんに背を向けてそう言った。
何をハッキリ言うのだろうと首を傾げていると、浦原さんが信じられないような言葉を吐いた。

「貴方には今回、戦線から外れていただきます」
「……え?」

言っている意味が分からなくて、ああ、どうして、それじゃ、私は花ノ宮さんを助けられない。

私なんかの力じゃ、助けられないの…?

*
恋次視点

「どういう事か、説明してくれるよね?阿散井くん」
「…ああ、」

尸魂界に連絡を入れて直ぐ、吉良が電話に出て急かすように言った。
その声には怒りと、焦りと、悔しさが混じっていて、どうしようもない気持ちになった。
それでも何も言わない訳には行かなくて、全てを包み隠さず話した。

「…やっぱり、僕も付いて行くべきだった…」
「………、」
「僕はキミに言ったはずだ、護って欲しいと」
「わ、分かってんだよ!そんなこと…」

俺を責めるような言葉なのに、その言い方は全く俺を責めて居なくて。
むしろ自分自身を責めている様な吉良の口調に俺は自分の無力さを思い知った。

「…阿散井くん、気持ちばかり優先しても、良い事なんて何もないと思うよ」
「っ!!!」

それに留めの一言だ。吉良は全部分かってたんだ、俺の事も、音羽の事も。

「(くそっ!分かってんだよ…!)」
“『…ごめんね、…恋次』”
「…分かってんだよ…俺は、」

アイツを守るって、決めたんだ、決めたはずなのに気がつけなかった。

「本当に…俺はあいつをどうしたいんだよ…!!」

曖昧すぎる自分の気持ちが鬱陶しくて、ただお前に会いたいと願ったんだ。

*
音羽視点

「ウルキオラ、入ります」

あの時聞こえた低い声と共に、広間の大きな扉が再び開いた。
入って来たのは真っ白い細身の破面と、大きい破面の二人。
見た目からして細身の人がウルキオラと言うのだろう、その見た目だけでも強そうだ。
周りの重い空気に触れているうち、無意識にグリムジョーの服を掴んでいた。

『……っ、』
「…あの小さいのがウルキオラで、でかいのがヤミーだ、覚えとけ」
『あ、う、うん…』

前から聞こえた不機嫌そうな声に慌てて手を離して返事をする。
なんだかやっぱり、敵だからと言うのもあるけど破面は怖い人ばっかりだ。
グリムジョーの後ろについて部屋に入って来た時に話しかけてくれた褐色の女の人は良い人そうだったけど。
もう一人話しかけて来た頭の後ろに何だかよく分からない物がうちわの様になっていた人は怖そうだった。

「好きな者を連れて行くといい」
「…了解しました」

そうして周りを見渡して、思考を巡らしている間にも着々と話は進んでいく。
どうしたって何の話をしているのかは分からないから、余計に怖い。
と、藍染と話していたはずのウルキオラが私を見ている事に気が付き、見つめ返す。
無表情なその目に見られていると感じると何だか背筋が寒くなるが何とか耐える。

「…お前も連いて来い、音羽」
『え…、』
「おい、待てよウルキオラ」

その意味の分からない言葉に私が反応する前に、グリムジョーが声を遮った。

「何だ?」
「行くって現世に行くんだろうが、こいつを連れてく必要ねぇだろ」
「俺は決定権を与えられた。これは藍染様の決定と同じだ、異論は認めない」
「…くそっ、」

ちょっと待って、今グリムジョーは現世に行くと言っていた?現世って、みんながいる、現世?
ウルキオラの反応を見る限りそれは嘘ではないようだけど、私が行く事は確定したようだ。
でも現世に行くと聞いた私は嬉しさが込み上げる訳では無く、ただ恐怖が募っていた。
だって現世には死神のみんなも、それに平子さんだっているかもしれないのに。

「そういう事だ、グリムジョー。…キミも一緒に行ってくるかい?」
「………、」

藍染様のその言葉にハッとして俯いていた顔を上げると、目線だけでグリムジョーが此方を見ていた。
行くかどうか迷っているのか、でも正直ここにいるメンバーに付いて行くのは怖いし辛い。
だから声を出さず、目線だけで必死に訴えた。また無意識に服を掴みながら、一緒にいて欲しいと。

「…行きます」
『!』
「……だ、そうだよウルキオラ」
「分かりました、藍染様」

どうやら伝わったみたいで良かったけど、きっとグリムジョーは一護を殺しに行くんだろうなって、そう思う。
きっと行くと言ったのは私の為じゃなくて、一護のところに行く為で、それを口に出すべきじゃないと分かっていた。

『…ありがとう、』
「お前の為じゃねぇよ」

分かり切った返答を聞きながら、私はただグリムジョーのその背を見つめていた。

*
日番谷視点

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!ムカつく!!」
「うるさいわねぇ、黙ってなさいよ」

綾瀬川と松本がギャーギャー騒がしく喧嘩し始めて、剣との対話が掻き乱される。

「ったく…落ち着いて出来ねぇのかアイツらは…!」
「………」
「?どうかしたか、班目」
「いや…日番谷隊長も、落ち着け無いんじゃないかと」

その班目の言葉に若干ギクリとした。が、それを表に出さないように繕いながら、空を見上げて言った。

「アイツらがうるせぇからな」
「…まあ、分かりますよ、俺も落ち着け無いっすから」
「……そうだな、」

その言い方は間違いなく俺の言った事とは違う意味を含んでいる事に、俺は気が付いた。
それは明らかに俺の本音と一致していて、俺はそれを認めるしかなかったのだ。
いつもそこにいるはずだった一人の死神がいなくなっただけで、何てザマだと思う。

「情けねぇな」
「それだけ大切って事っすよ」
「そうかもな…俺が気が付いて無かっただけか、」

きっと思っている事は全員同じだ。だからこそ感情が制御できないんだろう。
俺も、班目も、綾瀬川も、松本も、ここにいない奴らだってそうだ。

「ったく…」
「た、隊長、あれ…」
「あ?どうした松も…、と…、」
「?!あれは…」
「どうなってやがる!!」

松本が一人唖然として空を見つめ、小刻みに震えていた。
その視線の先を全員で見ると、そこには空間の裂け目が見えていた。
いくらなんでも早すぎると口に出すより早く、バキンッと空から音が聞こえて。

「破面?!1…2…、5体!?」
「いや、待てよ弓親…あの左にいる奴…」

班目の冷静な、それでいて焦ったような言い方に目を凝らしてみれば、そこにいたのは。
あの独特な髪の毛の色に、細身の女。それは明らかに破面では無くて、

「音羽…!?」

俺はその姿を見て、無事だと安心したと同時に喉が渇くような息苦しさが襲う。

「確かに音羽だけど、一角…、」
「ああ…何だ、あの真っ白い服は…に、」
「え?に?」
「に…似合ってんじゃねぇか…」
「はぁ!?今はそれどころじゃないだろハゲ!!」
「う、うるせぇよ!!」
「お前ら…、」

班目が言いたい事は分からなくもないが、本当に今はそれどころじゃない。
それにまた騒いでいるうちに空と同じ髪色をした破面と共にどこかへ行ってしまった。

「――――っ!!」

音羽が俺達の頭上から消える瞬間、一瞬だけ眼が合った気がした。

「…音羽ッ!!」

一体お前は、何を抱えて、何を思って、何をしたくて、そんなところにいるんだ。

*
一護視点

「…よォ、探したぜ死神」

平子達のいる地下から出た瞬間、そいつの姿はそこにあった。
それに、もう一人。グリムジョーの後ろにはあの日消えた死神がいた。

「…こっちのセリフだぜ、」

勿論グリムジョーの事だって探していたが、それより後ろの奴を俺はずっと探してた。
虚圏にいるのだから探すも何も無いかもしれないが、それでもその姿をずっと。

「音羽、お前が何でそこにいるのかは知らねぇが…皆お前を信じてるぜ」
『…っ、』
「くだらねぇ事話してんじゃねぇよ、てめぇの相手は俺だ」

俺の言葉に目を伏せて、もう聞きたくないと顔を背ける音羽に少し胸が痛んだ。
そんな様子の音羽に気が付いているのかいないのか、グリムジョーが音羽を背に隠すようにして前に出た。

「分かってる…見せてやるよ、俺がどれだけ変わったのかをな!!」
「…下がってろ、音羽」
『……分かった、』

黙ってグリムジョーの言う通りに後ろに下がる音羽に奥歯を噛み締める。
もう少し手を伸ばせば届きそうなのに、自分の無力さに情けなくなって来る。

「…行くぜ」

今までずっと、毎日修業して来たんだ。必ずこいつを倒して、音羽を連れて帰ってやる。
顔に手をかけて、一気に霊圧を圧縮するように手の内に込める。そして、

「な、なんだそりゃ…?!」
『何で…一護が…』

目を見開いて驚いている二人に説明してる暇なんかねぇ、仮面が維持できている間に終わらせる。
思いっきり加速して全力で刀を振り下ろすが、やはり受け止められる。でもこれは想定内だ。

「月牙…」
「!!」
「天 衝ッ!!!」

月牙天衝を打つ一瞬前、後ろにいた音羽が何かを叫ぼうとしたのか、グリムジョーに向かって手を伸ばしているのが見えた。

*

一発目の月牙天衝で深手を負わせて、ずっと有利な戦闘をしていた。
その時の音羽の顔は極力見ないように心掛けた。見てしまったら、攻撃の手を緩めそうで。
けれどとっくに俺の仮面の限界は来ていて、仮面が割れた瞬間の至近距離でグリムジョーは勝ち誇ったように言った。

「終わりだ、死神」
「くそっ!!!」
「…てめぇにアイツは渡せねぇなァ!!」

グリムジョーのその言葉に、目を見開く。今のは、…どういう意味だ?
でもよく考えろ、その言葉の意味なんてこの状況じゃ一つしか考えられないだろ。

「な…、お前まさか…」
「お喋りはしめぇだ!!」

瞬間、地面に叩きつけられる自分の体。全身の骨が軋む音が聞こえた。

「はっ…は、…くそっ、」
「仮面がどうなってんのかは知らねぇが…今はもう、出せねぇ」

そう言って俺の元まで来て、腕を剣で貫かれて縫い止める。

「なァ、そうだろ?」
「!!!」

虚閃の構えを本当の意味の目の前で取られる。この距離では完全に避けられない。
受け止める事さえもできない。どうしたらいい、どうしたらいいと、脳が鬱陶しい程に叫んでいる。

「頭ごと消してやるよ!!!」

もう駄目だと頭の片隅のどこかで考えた瞬間、体全体を覆う程の冷気を感じた。

「!!…な…?!」
『?!』

「次の舞 白漣」

次の瞬間、強大な力の霊圧に覆われた氷で俺の目の前にいた敵は、動かなくなった。
そして俺とは対峙していなかった彼女も共に、敵と見做されて動かなくなった。


その距離、目に見える距離
(また壁が俺の前に)
(お前との間を邪魔するんだ)

何度手を伸ばしても、俺の拙い手では届かなくて

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