BLEACH

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『っ、グリムジョー!』
「………」

無機質な白い塔の中に響く音は酷く乾いていて、それ以上の言葉を口にする事は出来なかった。現世に帰ってきて藍染に報告をしてすぐ、周りの目を気にすることなく私の腕を引いて歩き出した。それから一言も言葉を発していない。
元から振り払う意味もないけれど、この空気は何だか痛くて怖い。腕を掴む手の力が強すぎて気を抜けば折られてしまいそうでそれほど自分は貧弱なのだと思い知らされる。
悶々と腕を離されて千切られないように早足で付いていけば、いつの間にかグリムジョーの部屋へ着いていた様でいつも通り部屋へと入る。
入ったまでは良かったのだ。入ったまでは良かったのに、入った瞬間に所謂姫抱きと言う奴で抱えられてそのまま無駄に大きいベッドへと投げられる。
幸い弾力性のある布団で、そこまでダメージは無い。しかし状況が読み込めない上に何だか寒い気配を感じて、慌てて上体を起こして下の方へ目線を向ければ既にグリムジョーはベッドに乗り上げていた。

『え…ちょ、』

待って、その言葉も出ない程強く片手で肩を押さえつけられて起こした状態を再び布団へと沈まされる。力の加減なんて全く考えてない、私相手に必要かどうかも分からないが。
現世に行ったのが間違いだったのだろうかと今更考えても仕方ないと分かってはいるけど、どうしてこんな事になっているのだろう。全て何も考えずに生きてきた私が悪いのだろうか。
殺されるのか、どうせ抵抗らしい抵抗が出来るとも思わない。そもそも私に力を与えてくれたのはグリムジョーだ。彼に貰ったこの力で、私はどれだけ命を長引かせているのだろう。私の命を長引かせていたのが彼なら、終わらせるのも彼にする権利があるだろう。

そう、思ったのに。

「……っ、」
『いっ…!?』

何というか衝撃的過ぎて頭が混乱している。殺されるならいいかと諦めた瞬間、左の首筋に噛み付かれた。しかも結構容赦のない噛み付きで、多分この生温かさは血が出ているんだと思う。
血の出ている場所に更に歯を突き立てられて痛みで涙が浮かぶ。嫌だとも言えず、抵抗らしい抵抗もせずに痛みに耐えて固く目を閉じる。何してるんだろう、私。
暫くして満足したのか、やっと首元から気配が消えた。横に背けていたままの顔を戻して薄く眼を開けた。
ぼやける視界の中に見えたグリムジョーの顔はよく分からない複雑な顔をしていて、こんな顔もするのかと嫌に冷静な頭で考える。もしかして彼にこんな事をさせているのも、全て自分のせいかもしれない。この首に残るであろう歯形はきっと、ここから完全に出られないという意味も籠っているのだろう。逃げる気なんて無いのに。
一瞬目を閉じて名前を呼びながら、痛みに耐えて両手でグリムジョーの首元に手を伸ばす。指先に触れた仮面が肌と同じように酷く冷たくて、何だかやるせない気持ちになった。

『…グリムジョー、』
「…………」
『大丈夫、私は尸魂界に戻らないし、ここから離れたりしないから…だから、大丈夫』

仮面を指でゆっくりと撫でて、髪と同じ色をした薄い浅葱色の目をじっと見つめる。逃げないから、背も向けないから。そう願った。私がそうである様に、彼もまた逃げないで欲しいと願うから。
いつまでそうしていただろうか、酷く長いように感じた時間はきっと一瞬だろう。一度瞬きをすれば目の前、首を少しでも動かせば触れそうな場所に顔が迫っていて。息が詰まった。

『え…』
「震えてる奴が言う言葉じゃねぇよ」

抵抗の言葉を紡ごうとした口を妙に優しく、塞がれた。その行為の意味を私は知っているけれど、果たして彼は知っているのだろうか。破面の彼が。
突然の事に目を見開いてグリムジョーの顔を凝視する。体が全く言う事を聞かないように全然動いてくれない。今、何が起きたのだろう。
暫く見つめていればまた一度塞がれて、底から冷えた様な声でぼそりと言われた。

「テメェら死神の心も人間の感情も分かんねぇ、それでも俺から離れるな」

その言葉に黙って頷いて抵抗する事を、やめた。


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