BLEACH

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「花ノ宮さん…」
『先に言うけど、帰って来いって話は聞かないから』
「ッ!」
『…尤も、貴女だって帰れるとは思わないけど』

グリムジョーの塔に来たのはウルキオラだった。織姫に言われて私を呼びに来たという彼はいつも通りの無表情で、本当に言われたから来たという体らしく。特に断る理由もなく了承して、真っ白な壁が広がる廊下を歩いて来た。一緒について来てくれたグリムジョーには扉の前で待ってもらっているから、この部屋の中には織姫と二人きりだ。
部屋に入って早々、織姫が私に話すであろう内容を封じ込める。私はもう帰る気なんて無いのだ。これ以上この心を揺さぶるのはやめてほしい。有無を言わさぬ言い方に考えを変えたのか、恐る恐ると言う風に織姫は口を開いた。

「どうして、花ノ宮さんはここに…」
『グリムジョーの力を私が持っているから』
「破面の、力…?」
『私は100年前から、死神全員を裏切っていたも同然の事をしてるの』
「そんな…」
『それでもグリムジョーに再会出来たのが、私は嬉しかった』

織姫から目を逸らさず、真っ直ぐに私の思っている事を伝える。私は出ていく気はない。グリムジョーの傍に居たいんだと、それは伝えるべきだと思ったのだ。それでも分からないと言うように首を傾げる織姫に溜息を吐いて、一緒にいたいの、と直球で伝える。ソファに腰掛けながら隣に座る織姫を横目で見つめる。
私の言葉を聞いて何を思ったのか、織姫は逸らしていた顔を勢いよく此方に向けてもしかして…と震える声で問いかけてきた。

「それって…、」
『…好きよ、言わないけどね』
「それで…いいの?」
『傍にいろって言ってくれただけで満足だって、思ってる』
「殺されると…しても?」
『私はもう、グリムジョーがする事は全て受け止める覚悟、出来てるから』
「花ノ宮さん…」
『今の私の全ては彼だから、例え殺されるとしても…本望なの』

織姫の目を見て微笑めば、何と言って良いのか分からないと言うように俯いて言葉を詰まらせていた。織姫の言いたい事も分かる。彼はきっと私を殺すのだろう。仕方なく殺すにしろ、殺したいと願って殺すにしろ、結局のところ結果は同じだ。何だっていいのだ。そんな過程の理由など私には関係ない。
私は彼を好きで、彼は私に傍に居ろと言う、それだけで私は満足なのだから。


*


分厚い壁の向こうで交わされる会話に耳を傾けながら、じっと壁に寄り掛かって目を閉じる。こんな事をしても、きっと声を抑えているであろう音羽の声も藍染が連れて来たあの女の声も話をしていると言う程度にしか聞こえはしない。
思えば音羽が来てからはずっとアイツの傍にいて、こうして一人になるのは久しぶりかもしれない。流石に一緒に寝たりはしないが基本的にアイツが寝るまでは傍にいたし、その後自分もすぐに寝ていたから余り大差はない。自分とは違った暖かい体温がそこに無いだけで、これ程までに虚しくなる物なのか。
そうして何をする訳でもなくただ聞こえない会話に耳を傾けていると、一本道の通路から先程どこかへ行ったウルキオラが帰ってきた。

「入らないのか」
「あの女に危険はねぇだろ」
「…グリムジョー、」

何かを含んだ様な言い方で名前を呼ぶウルキオラに視線だけで返事をすると、一つか細いため息を吐いて俺と向き直る。そういうところは、音羽に少し似ていると思う。
俺の心中を知ってか知らずか、ウルキオラは廊下に響かない静かな声で「お前は音羽をどうしたいんだ」と言った。予想通りの問いかけだった。おそらく藍染以外の十刃は同じ様な事を考えているだろう。
意識を一瞬だけ部屋の向こうへ向けてから、俺はウルキオラに視線を戻して何の気は無しに伝える。

「殺してぇんだよ」
「……音羽をか」
「アイツ以外に誰がいるっつーんだ」
「そうか…ならば早く行動を起こす事だな」
「あ?」

「藍染様に掠め取られる前に」

一瞬、嫌な空気が全身を吹き抜けて行ったような感覚があった。それと同時に思い出す泣いていた音羽の顔。助けて、と行った彼女の表情が頭にこびり付いていて喉がひり付いた様に声が出なかった。
俺がじっと固まったまま動かないのを確認してか、ウルキオラは俺に背を向けてどこかへと去ってしまった。

「…うるせぇよ、」

ぼそりと呟いた驚くほど掠れた声は、シンと静まり返った廊下の向こうへと消えていった。

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