BLEACH

□序章
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対極の二人との出会いで、私は闇の底から引き摺り上げられた。


私はこの世で一番花が嫌いだった。
それは突然で、私の心を閉ざすのには十分だった。
何故か私の右手からは花が溢れていて。
花が溢れるのは不規則で、花が姿を現す度に私は疲労していた。

『手、が…、』

感覚なんて最初から無いようなものだ。
この手を気味悪がる人はこの真央霊術院でもいる。
私だってこんな手にはうんざりだ。いつも振り回される。

「ねぇねぇ、花ノ宮さんの噂、知ってる?」
「花の事でしょう?あんな手、初めて見たわ」
「あんな気味の悪い手で、よく戦えるわね」
「でもあの子、強くなる必要がある、とか言われてなかったかしら?」
「あら、それじゃあ気の毒に…強くなんて、成れないわよ」

嫌な、声、嫌いな声。何も聞きたくないし、いい加減耳を塞いでしまいたい。
包帯を巻いたこの腕に刺さる視線が痛い。
花が、花弁が、止まらない、溢れ出てくる。
お願い、止まって。そう願っても聞いてくれる訳などない。

『止まって…っ!』
「……おーい?」
『ッ?!!』
「わ、悪いな、驚かせたか?」
『え、と…あの…っ』

それは突然だったのだ。
それは突然私の前に現れて、その朱色は私を捉えた。
目の前に広がる朱を、初めて私は綺麗だと思った。

「…こんなところで何してんだ?もう授業始まっちまうぞ?」

誰だか知らねぇけど。そう付け足して男は言った。
この人は知らないのだろうか。私の手の問題を。

『あの…私は、…その、知っているでしょう。私の手は…まともじゃない』
「ふーん?」
『ふーん…って、』

あまりにも素っ気ないその返事に気が抜ける。
大抵の人は驚いて顔を引き攣らせたり、するのに。
それでもこの男は違った様で、突然私の腕を掴んで言ったのだ。

「んじゃ、見せてみろ。」
『えっ!?』

驚きすぎて抵抗など出来なかった。
ただ、包帯を解かれて、腕を観察されるのを見ていることしか出来なかった。

『あ、の…そろそろ…、』
「すげぇ…っ」
『…えっ?』

いい加減この人も授業に行かないと怒られるのでは。
今更だと思いながらも声をかけると、思い掛けない返事が返って来た。

「お前、これ…すげぇよ!俺にでも分かる…!」
『え…え、なに、が…?』
「この花、霊力が籠ってる!」

その言葉に、目を見開いて耳を疑った。
霊力が、この花に籠ってる?どうして、花の中に?嫌悪感が、募る。

『そん…な、なんで…っ』
「落ち込むなよ、これ、武器になるかもしれないぜ?」
『え…っ、ぶ、き…?』
「ああ。お前だけの、な」

数々な疑問も、嫌悪感も、その言葉で全て消え去った。
武器。その言葉は私にとって何よりも魅力的だった。
私だけの、たった一つの限りある武器。
それなら私にもまだ、強くなる術がある。

『…取り敢えず、それ、返して貰っても良いです、か?』
「ん、包帯か?まだ使うのかよ」
『だって…隠さないと、』
「勿体ねぇな、綺麗なのに」

再び紡がれた驚愕の言葉に、私は息を飲んだ。
そんな言葉、この腕に対して一度も言われた事などない。

『き、れい…?この、花が…?』
「ああ、それを持ってるお前もな。緑の髪なんて中々いねぇよ」

最後の方は意味が分からなかったが、嬉しかった。
ただ純粋な気持ちでそんな事を言われたのは初めてで。

「っと、流石に戻らねぇと」
『あ…ま、待って!彼方の…名前は?』

こんな事滅多にない。誰かが話し掛けてくれるなんて。
―――こんなに誰かに心を動かされるなんて。
名前を聞いておかなければ、損と言うもの。

「ああ、俺は阿散井恋次、お前は?」
『っ、花ノ宮…音羽、です…。』
「んじゃ、また会おうぜ、音羽!敬語は無しな!」

まさか聞き返されると思わなかったが、ゆっくりと答えた。
口にする名を、噛み砕くように。
普通なら馴れ馴れしいと思う彼の態度にも、私は穏やかな気持ちになるばかりだった。

『阿散井、恋次…、恋次…。』

私の心を変えてくれたただ一人の生徒の名を、刻み込むように呟いた。


全ての始まり、事の始まり。
(ありがとう、彼方のお蔭で私は)
(明日、もっとずっと、強くなれる)

この先に起こる事なんて、何も知らずに。

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