BLEACH

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信じたくなかったんだ。
俺はただ、自分の目が疑わしくて、信じられない。
どうしたらいいのか分からない。喉の渇きが堪らなく辛い。
班目一角を倒して、ガンシュを探して花太郎と地下を走って、恋次を倒して、それで今に至る訳だが。

「どういう事だよ…音羽!!」
『………。』
「い、一護さん…っ、音羽さんを知ってるんです、か?」

地上を走っていたら誰かの透き通るような霊圧が近づいて来て。
目の前に花が逆巻いたかと思ったら既にそこには人が、正確には死神が立っていた。
その死神の髪は、顔は、俺がよく知る人物その物で。

「知ってるってレベルじゃねぇよ…お前は、人間じゃなかったのかよ!!なんで…っ」
『私は朽木ルキアの監視を任された』
「………は?」
『だから義骸へと入り、貴方達に近づいた。その方が都合が良かったから。』
「なに、言ってんだよ…それじゃ、お前は…、」

聞きたくなかった。そんな言葉は。
ルキアが尸魂界に行ってしまった時のような気持ではない。
明らかに裏切られたような、そんな無意識の感情。

『…護廷十三隊の中、無所属の死神。』
「嘘、だろ…」
『この状況でこんな嘘ついても仕方ないよ』

無表情に、ただ淡々と告げる音羽は俺の知っている人ではなかった。
ああそうだ、人ではなかった。ルキアと同じように死神だったんだ。
思えば転校生だと言って俺の学校に来た時から不信感はあった。
彼女には霊圧があって、抑えられているはずなのにそれは何故が強かったのだ。

「音羽、俺はお前と戦う気はねぇよ。頼むから…退いてくれ!」
『私だって一護とは戦いたくない。でもね…』
「っ!?!」

言葉が途切れた瞬間、金属がぶつかり合う鋭い音が聞こえた。

『私には、戦う理由がある。』
「音羽…!!」

思いっ切り振り下ろされた斬魄刀を受け止める。
一体その細腕のどこにそんな力があるんだ。

『やっぱり…私の斬魄刀より、…一護の方が強い』
「…音羽、何で…っ!!」
『悔しいな、私だって必死で強くなろうとしたのに』

音羽は俺の目を見て話さない。
俯く様にして、右手を気にするように触っている。
そして何かを決心した様に、右腕の包帯を取った。

「なっ、んだよ…、それ…!」

包帯を取った。それだけなのに、霊圧がぐんっと上がった。
上がってもそれ程の霊圧じゃない。重すぎない。だから怖い。
そして俺は音羽の右手を見て目を見開いた。

「その、手…、」
『…やっぱり気持ち悪いよね。でも、これも私の武器。』

その右手の手の平からは、ぽたぽたと、ゆっくり、何の花かも分からない花弁が落ちていた。
持っていた物を落としているんじゃない。
手の平から、直接溢れているのだ。
俺が何が起こるか分からない恐怖の様な物で動けないでいると、花太郎が震える声で叫んだ。

「だ、駄目です!音羽さん!」
『花太郎…、』
「どうしてですか!!音羽さんは…っ、音羽さんは…っルキアさんと仲が良かったじゃないですか!!それなのに…っ」
「ルキアと…?何で仲が良かったって言うお前が、ここに立ち塞がるんだよ!お前もまさか恋次と同じように…」
『違うの。』
「え…音羽、さん…?」

鋭く、冷たさを込めた声で、音羽が言った。
その声の冷たさに、俺も内心驚いて声が出ない。

『違う。私はルキアの為にここに立ってる訳じゃない。』
「じゃあ、何で…っ、」
『…恋次は、私を見てくれない…、』

ぽつり、そう零した音羽の声は何よりも弱々しかった。
声も、体も震えて、何かを必死に耐えているような、そんな声。

「阿散井、副隊長が…?何を言ってるんですか…あの人は音羽さんの事…っ!」
『私は自分が分からない。ルキアに死んで欲しい訳、ない』

ああそうか、音羽は恋次が、いや、もしかしたら仲間という意味だけかもしれないけど。
暗い表情をして俯く音羽を見つめて、思う。
痛いぐらい、分かるんだ。その気持ち、俺にも。
俺だって、お前の中に存在出来ていないから。

『…無駄話、だったね。…ごめんね一護、斬魄刀は、使わない』
「何言って…、ぐっ?!!?」

『八裂花破』

音羽が静かに手を差し出した瞬間、目の前が赤く染まった。
体のどこから血が出ているのか、分からなかった。
ただ感覚がなく、痛みだけが襲い、その痛みがどこから来るのかも分からない。

『ごめんね、一護…』

視界が、赤黒く染まった。
最後に見えたのは音羽の辛そうな顔と、花太郎の涙が溢れている、顔。
黄緑の光が、遠ざかっていく気がした。

*
音羽視点

一護を斬った。感覚はない。
刀で切った訳じゃないから当たり前だけど。
それでもやっぱり手は震えた。
信頼してないわけじゃない。たった数日一緒にいただけなのに、信用はできたのだから。

『れん、じ…、』

包帯を巻かれ、牢の中で眠る恋次を見つめる。
恋次と一護の戦いは見ていた。恋次の方が強かった、はずなのに。
一護はそれでも勝ってしまった。恋次の思いを背負って。

『恋次、私…どうしたら、いいの…、』

怪我人にこんな事を言うのは間違ってるかもしれない。
でも今、恋次は寝ているのだ。どうせ聞こえてはいないだろう。
私はルキアを助けたい。死んで欲しくなんかない。一緒にいたい。
それなのに、一護に怪我を負わせて、馬鹿みたいだ。

「っ、ぅ…、」
『!!…大丈夫、じゃない…か、』

傷が痛むのか、時折呻き声をあげる恋次に呟く。
固く握られたままの手を、そっと握る。
私なんかより、随分大きな手だ。
きっと何かを取りこぼす事なんてない。
暖かくて、恋次の優しさが伝わってきて。

『これが…強さ?』

恋次の手に触れ、そう呟いた瞬間、私の脳内には恋次とは真逆の色がチラついた。
綺麗な、水浅葱色。何故だろう、この手が強さの証のような手のはずなのに。
私の脳内はそれを否定して、私の手はその温もりを拒絶している。

『…っ、』
「っ…音羽…?」

怖い。そう思う他は無かった。
恋次が目を覚まし、私を心配するように声をかけてくる。
心配するのは私の方なのに、冷汗が全身から溢れ出るようだった。
目の前がよく見えない。

『れ、ん…じ、』
「!?音羽!お、おい、しっかりしろ!」

恋次の声も、手の感覚も無かった。
ただ見えたのは、脳裏に浮かんだあの、空の髪。


記憶の中で
(寒い、冷たい)

私は一体、どうしたらいいの。

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