BLEACH

□2
1ページ/1ページ

暗闇を彷徨う夢を見た。
自分がそこに存在しているかすらも分からない。そんな夢。
刀はあるのに力が使えない。花弁も言う事を聞かない。
昔の自分に戻ったみたいで嫌で、嫌で、怖くて仕方がなかった。

「"…俺の手を取るか?女、"」

なんだか懐かしい声が聞こえた。
それと同時に、闇に光が差して、視界が開いて。

「…花ノ宮!」
『っ!!!…はっ、はぁ…、っ!』
「大丈夫かい?」

夢の強い光に驚き目を見開くと、目の前いっぱいに広がったのは浮竹隊長の顔だった。
少し起き上がると、体中汗べったりだった。
相当魘されていたのか、浮竹隊長が心配そうに顔を歪めた。

『浮竹…っ隊長…?ここは…』
「ああ、四番隊の隊舎だよ。花ノ宮が倒れたって聞いて、これでも焦ったんだぞ?」
『すみません…迷惑を、かけました…、』
「いや、怪我をしたとかじゃなくて良かったよ。」

恐らく私が倒れたと聞いて駆けつけてくれたのだろう。
本当に情けない事をしてしまった。突然倒れるなんて。
恋次だって怪我してるのに、きっと心配して…恋次?

『…あの、浮竹隊長』
「ん?」
『今、あの、恋次は…』

どこにいるんですか。そう言葉を続けるつもりだった。
しかしそれは叶わず、座ったままの私達を重い霊圧が襲った。
重い、明らかな殺気が籠った霊圧。

「っ、この霊圧…」
『朽木、隊長…?…ぅっ!!』
「花ノ宮!!」
『だ、いじょうぶ、です…、』
「…すまないが、俺は行く。安静にしていてくれ。」

何かあったのだろうか。何があったのだろうか。
きっと来たのは旅禍と言われている一護達だ。どうしよう、危ない。
一護と過ごした時間は短いし、何より彼は死神と呼ぶには不完全な存在だけど。
それでも、恋次に思いを託された彼を、見殺しにするというのか。また、私は。

『恋次…、』

これも全部、恋次の為。ルキアの為。死神の、みんなの為。
決して旅禍の為じゃないのだ。この思いは。
ああ、もう。

『分かんないよ…っ』

*
浮竹視点

「白夜!!待て、こいつらはどうするんだ!?」

牢へと続く橋の上からさっさと去ろうとする白夜を呼び止めようと叫ぶ。
それでも本当に興味が失せたのか、白夜は振り向く事無く言った。

「好きにしろ。」

淡々と告げる白夜に、今はまだ四番隊の隊舎で寝ているであろう死神の事を思い出す。
ああそうだ、こいつには言った方が良いかもしれないな。

「白夜、お前だから言うが、…花ノ宮がつい先刻、倒れたんだ。」
「!!!!」
「今は四番隊で休んで…って、人の話は最後まで聞けよな…はは。」

牢に向けていた視線を戻すと、既にそこに白夜の姿は無かった。
全く、彼女の事になって気を荒立てるのはやめろと何度言ったら聞くのだろうか。
彼にとっては彼女もルキアと同じく、妹のように思っているからだろうか。

「…本当、難義な奴だよ」

今頃質問攻めにあっているであろう花ノ宮を思ってため息をつきながら空を見る。
死神代行だという彼が消えた空は、まだ青かった。

*
織姫視点

「うまく入り込めて良かったね!石田君!」
「う、うん…そうだね、井上さん…。」

第二十席とかいう男の人を石田君が避けてくれてから今、私達はどこかも分からない道を歩いている。
どこか分からない。でも怖くはない。
空だって見える。黒崎君の霊圧だって感じる。
それに、さっき一瞬感じた霊圧。黒崎君の霊圧が一瞬薄くなった時に感じた霊圧。

「あの、ね…石田君、」
「…分かってるよ。あれは間違いなく、花ノ宮さんの霊圧だ」
「うん…だよね。でも、どうして…」

どうして、人間のはずの彼女がここにいるのだろう。
朽木さんを助けに来た?でも、二人が話してるのは見たことがない。
それなら、どうして、花ノ宮さんがここにいるの?
余計な事は喋らなくて、感情を表に出さなくて、それでも笑ってくれた時の顔は、覚えてる。
すごく綺麗で、思わず見とれちゃうぐらいだった。

「どうしたのかな…花ノ宮さん。」
「井上さん、…これは可能性の話なんだけど…」
「うん…?」
「花ノ宮さんはもしかしたら、死神かもしれない」
「…えっ?」

石田君が放った言葉に、思わず耳を疑った。
死神?花ノ宮さんが、もう死んでて、その、死神…そんなの、有り得な…

「有り得るんだ、井上さん」
「どう、して…?だって花ノ宮さんは…!」
「…おかしいと思わないかい?花ノ宮さんに霊圧があるって事が」
「……あ、そんな、でも…」

可能性、なんて物じゃなかった。
石田君の言葉は確かに的を得ていて、私を混乱させる。
否定したかった。仲良くなった子が、死神だってことを。
それなら花ノ宮さんは私より何倍も年上で、なんだか、どうして。

「どうして…教えて、くれなかったのかな…」
「井上さん…、」

自分の口から出た言葉は明らかな肯定の言葉で。
無茶なことを言ってるのは分かってる。でも、言って欲しかった。
私も人と違うから、花ノ宮さんと感じは違っても同じなんだよって。
言いたかったの。

「石田君、私…花ノ宮さんに、会いたい」
「それなら現世で…」
「ううん、今ここで、死神の姿の花ノ宮さんと会いたいの。」

困らせてるかもしれない。ただでさえ危険なのに、こんな事言ってる自分が憎いけど。
それでも、会って話がしたかった。
何とか誰にも会わずに…――――なんて、やっぱり無謀だった。

「私が音羽の所に行かせると思うかネ」
「「!!!!」」

やっぱり駄目だ。怖いなあ、この空間も、尸魂界も。
突然現れた死神姿の男に、私は声を出す事すら出来なかった。

*
白夜視点

一時も油断してはならぬ。そう思い続けてきた。
得体の知られぬ力を持つ故、いつか何かに内側から侵されると。
思っていたことが的中してしまったようだ。

「何故何も言わぬ」
『…何も無いからですが』
「そうか、ならば今回の事は何と説明するつもりだ」

顔を顰めながら話す音羽に、若干の苛立ちを覚える。
何と問いただしても「何もない」「大丈夫」と淡々と繰り返すだけで。
何もなければこんなに霊力がボロボロに、しかも内側がなるはずがない。

『…それは、』
「何を隠している、音羽」
『言いたく、ありません。朽木隊長に言うと、恋次に伝わってしまいますから』

悲しげに視線を落としながら、音羽は呟く。
何がそこまで音羽の口を閉ざしていると言うのだろう。
私には言えぬ事か、そう問うても無駄なようだ。

「良かろう、ならば好きにするがいい」
『………、』
「…暫くそこを動くな、安静にしていろ」

立ち上がり、音羽から視線を外して扉へ向かう。
何か言いたげな音羽を無視してそのまま部屋を出た。

「…私では、不足だというのか」

やはり恋次ではないと駄目か。
元より私は音羽に恋情を抱いているわけではない。
恋情でなくとも守りたいという意思はあるのだ。彼女がそれを望まぬとも。
音羽は強い。きっと私の助けがいらぬ時もあるだろう。

「話しては、くれぬのか」

その内に秘めた、過去の事を。



天界まわって、月の下
(私が気づかぬとでも思うたか)
(その右腕から放たれる虚閃の事を)

ただひたすら、その声を待っていた。

Next3

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ