BLEACH

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朽木隊長は怒っていたのだろうか。
相変わらず表情筋があるのかと疑うぐらいの無表情で話されては声が詰まる。
それは私が言える事じゃないかもしれないけど。

『…でも、流石に…言えない、よ』

あの夢の事を話して、きっと朽木隊長はくだらないとは言わないだろう。
ちゃんと理解しようとしてくれるのだろう。
でも、思い出してしまったのだ。あの日の事を。

『水浅葱の色…、』

まだ死神にもなれず、今よりずっと弱い自分だった頃。
月の下で照らされた仮面と、珍しい髪の色を見た。
迎えに来るといった彼は、未だに姿を見せないままだ。

『私…変わってないのかな…』

ただ、名前と顔が曖昧で、あの時感じた手の冷たさだけが残っていた。
考えてるうちにまた段々と頭が痛くなって来て、もう一度寝ようかと布団を被った。
が、それを妨げるように勢いよく扉が開いた。

「おい!音羽!!!!」
『っっっ!?!?!!』

扉を開ける音に足して大声で名前を呼ばれ、こちらも勢いよく体を起こす。
突然の事で混乱して心臓がバクバクとうるさい。
起き上がって深呼吸をしていると、まさにその音を出した張本人が私を見た。

「何だ、寝てたのか」
『一角さん…、』
「悪いが寝てる暇はねーぞ」

そこに現れたのは十一番隊第三席の班目一角さんだった。
というか、

『寝てる暇はないって…?』
「ああ、」

一拍おいて、溜めてから一角さんは不敵に笑いながら言った。

「更木隊長からお呼び出しだ」

その言葉に、私は嫌な予感を拭う事はできなかった。

*
剣八視点

「だ、だから!花ノ宮さんは…」

さっきから花ノ宮さん花ノ宮さんってうるせぇな、こいつ。
第一何で音羽の事を知ってやがるんだ?

「音羽は死神だっつってんだろ」
「あ、あの、会わせて下さい!!私…花ノ宮さんと話したいことが、」
「うるせぇな…おい弓親、一角はまだか」
「さあ…案外襲っちゃったりしてるかも、なんてね」

弓親のその言葉に頭の中で何かが切れそうになる。
ふふふ、と気味の悪い笑みを浮かべている弓親を叩き伏せようと刀の柄を握った。
しかしその刀を抜き取る前に、勢いよく扉が開いた。うるせぇ。

「誰がンな事するか!」
「あ、一角。遅かったね」
「遅かったね、じゃねぇよ…ったく、」

いつでもどこでも無駄口をたたくのか、こいつらは。

「おい、一角」
「あっ、隊長!ちゃんと連れて来ましたよっと」
『……っ、』

目の前にぐいっと引っ張られた音羽がバランスを崩して俺の前に転がり込む。
俺をゆっくりと見上げるその顔には明らかな動揺が読み取れて、思わず吹き出す。

「よお…音羽、気分はどうだ?」
『…更木隊長、』
「悪いな、音羽。俺も具合が悪いお前を連れ出したくは無かったんだが隊長がどうしてもって…」
「また一角は…、美しくないね」
「んだとテメェ!!」
『……はぁ、』

取り敢えず汚い言い訳を言ってる一角は後で絞めるとして、だ。

「おい音羽、お前倒れたってどういう事だ」
『え、っ…』
「…何があった。旅禍にやられたのか」

未だ座ったままの音羽に詰め寄る。
きっと立たないんじゃねぇな、立てないのか。
思えばこいつの霊圧はずっと不安定に揺れたままだ。

『更木隊長、私は大丈夫です、だから…』
「誰だ。どの旅禍にやられた」
「ち、違います!!私達じゃないです!」
「…あ?」

突然後ろから聞こえてきた声に顔を顰める。
音羽に至っては俺の体で誰か見えないのか、軽く首を捻っている。

「というか…あの、花ノ宮さん…だよね?」
『っ!!!!!』

女が俺の横を通って音羽の前に出てくる。
状況が読み込めない俺達が黙って見つめる。
チラリと、音羽の表情を盗み見て、目を見開く。
音羽はいつもの無表情的な顔のまま、目を思いっきり見開いていた。
こんな音羽の顔は見た事がない。ただでさえ表情が硬いと言うのに。

「んだ?織姫ちゃんと知り合いか?」
「黙ってろ、一角」
「…う、ウッス」

目を細めて、じっと音羽を見つめる。
その表情の一つも、見逃さないように。

*
音羽視点

喉が乾く。掠れた声すら出てこなかった。
ただ目の前にいる人間を見つめて、目を見開く事しかできなかった。

「花ノ宮さん…?」
『……っ!織姫…、』
「良かった!ちゃんと会えた!!」

何とか振り絞って出した言葉は彼女の名で。
そんな私を気にも止めずにはしゃぐ姿は現世で見た時と何ら変わりはない。

『どうして…ここに、』
「…うん、朽木さんを助けに来たの。そしたら花ノ宮さんの霊圧が…、だから…会いたくて」
『そ、っか…、』
「…ごめんね。…でも花ノ宮さんが死神なんて…信じられないよ」

織姫の言葉に、唇を噛み締める。
正直な話、私は井上織姫という人間が苦手だ。
まさかその人に、こんなところで会うなんて。

「私、花ノ宮さんの事…ちゃんと知りたいの。だから…『更木隊長』花ノ宮さ…」
「…何だ?」
『用があるので、失礼します』
「ま、待って!!花ノ宮さん…っ!!」

もうこれ以上話したくない。と言っても、言葉なんてあまり交わしてないが。
待って、と必死で言ってくる織姫を無視して立ち上がる。

「…何かあんのか?」
『…あります』

そう、ただ話すのが嫌でこの部屋から出ていくのではない。
先程からずっと気になっている事がある。
周りの霊圧が鋭くなっていくに連れ、どんどん揺れが激しくなってる。

『イヅルの霊圧が…揺らいでる』
「あっ、おい!音羽!!」
「あ〜行っちゃったね。残念」

一角さんと弓親の声が響いてきたが、構わず屋根をけって飛び越える。
何だろう、イヅルに近づくに連れ、肌寒い。

『イヅル…っ!』

恐怖も全部、不安で押し潰されそうだった。

*
剣八視点

「イヅル…吉良か」
「なーんか、音羽っていっつもイヅルイヅルって言ってません?」

女を残してさっさと行っちまいやがった。何て神経してんだ、あいつは。
一角の言う通りあいつはいつもイヅルイヅルって言ってたけどな、これはねぇだろ。

「音羽にとっては大切な人なんだよ、一角には分からないだろうけど」
「んだと…弓親、テメェ…」
「いちいち喧嘩すんじゃねぇよ、めんどくせぇな」

音羽と吉良がどうだとかこうだとか、大声上げて怒鳴りあう二人を止める。
思えば音羽は吉良といる時ぐらいしか無邪気な顔はしねぇとか誰かが言ってたか。

「つーか…よくこんな所から吉良の霊圧なんて分かんな」
「音羽ってその辺は敏感だよ、何故かね」
「へー…、」

それだけ大事なんだよ、と弓親が微笑んで言う。
いくら同期と言えど、流石に懐きすぎかとも思うが、それは言うべきでは無いのだろう。
きっと吉良も音羽を大切に思ってるし、音羽は言うまでも無くだ。
それは互いに分かっている事で、戦友というのか、親友というのか。

「…ま、音羽は仲間なら誰でも大切に思ってるけどね」
「敵にはびっくりするぐれぇ容赦ねぇけどな」
「そこも魅力だろ?」
「黙れ、オカッパ」
「うるさいな、ハゲ」

ああ、また喧嘩かこいつらは。
一体一時間程で何回喧嘩したら気が済むんだ。

「…隊長、音羽って昔からあんな感じなんすかね」
「学生時代は知らねぇが、入ったばかりの時とは変わってねぇな。」
「へー…つか、隊長って案外音羽と付き合い長いっすね」
「まあな」

もう最初に会った時からどれぐらい経ったのだろうか。
そう思い返してみれば、あいつは随分成長した。
背も伸びて、大人びて、強くなっていった。

「…変わんねぇな、」

外見以外は、何も変わってない。
俺が見て来て、ずっと誰より強くなろうとしていた。

「あの頃と、何も」

目に焼き付いているあの黄緑の鮮やかさも。


表裏一体、本当は
(目で追っていた事を認めたくねぇ)
(ただ、本当にそれだけだった)

君はずっと他の人を見つめていたというのに

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