BLEACH

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目を合わせる暇など、全く無かった。
乱菊さんがイヅルを倒した瞬間、天挺空羅で通達が来た。
桃が藍染に刺され、日番谷隊長までもが倒されたと。
信じられなかった。それ以上に恐怖が湧き上がって来た。
一体藍染達は何をしようとしているのかと、不思議でならなかった。
やはり警戒していて良かったのだ。
下手をしたらあの時私も殺されていたかもしれない。

『乱菊さん…本当に、藍染隊長が裏切ったのでしょうか』
「…分からないわ。でも、もし本当にそうだとしたら…」

その先は、言われなくても分かった。
乱菊さんも言う必要はないと思っているのだろう。
それ以上は何も、言わなかった。
何より私は、本当に彼が桃を刺し、日番谷隊長を倒したとしたなら。
もう彼は私の敵だと、そう言えるだろう。
桃は大事な同期の友達だ。
日番谷隊長は私の憧れで、私はあの人の戦い方が好きだ。
それを、藍染隊長は踏み躙ったと言う事か。

『…乱菊さん、』
「なに?」

乱菊さんの少し前を走りながら、振り返らずに言う。

『先に、行っても良いですか』
「…気をつけなさいよ。無茶したら許さないから」
『大丈夫。…ありがとう』

何も言わずにそう言ってくれるのだから、本当に乱菊さんはいい人だと思う。
いつも私を見て、気にしてくれて。
感謝の言葉なんて、中々言う機会は無いけど、本当は死ぬほど感謝してる。
日番谷隊長を紹介してくれた時も、私の事を考えてくれていたからだ。
だから、そんな私を支えて救ってくれた皆を傷つけた藍染を許さない。

何があっても、そう誓って私は堅い地を蹴った。

*
藍染視点

実に簡単な作業だった。
雛森くんを殺すのも、日番谷くんを倒すのも。
しかし駄目だ、目の前の阿散井くんは中々面倒だ。
一向に朽木ルキアを離そうとしないのもそうだが、抵抗が鬱陶しい。
こんな事では、彼女がいなくなったら阿散井くんはどうなってしまうのだろうか。
そんな事は僕の知った事ではないが。

「立つんだ、朽木ルキア」
「……っ、」

まあ今ではその鬱陶しい彼は地に沈んでいるわけだが。
どうやら旅禍の少年は未だ意識があると見える。
大したものだが、あの状態で意識があってもどうしようもないだろう。
ただ、僕の話を聞く事ができるぐらいが利点と言えるか。

「幸い君はすぐに発見され、僕は四十六号室を…」

瞬間、強大な音と、僕の後ろに二つの霊圧。

「『藍染!!』」

正体は見るまでも無く分かったが、これは面白い組み合わせだ。
目の前から大剣が襲って来ても、花の刃が襲って来ようと僕は動じない。
こんなものなら、片手で捻じ伏せられる。

「…珍しい組み合わせだね。狛村くん、花ノ宮くん」
「下がっておれ、花ノ宮」
『…分かりました』

嗚呼、彼女はなんて怖い目をしているのだろう。
狛村くんの言っている事に従っているあたり、冷静は保っているようだが。
まさに今僕を殺したくて仕方がない、そんな顔だ。
でも狛村くんじゃあ相手にはならない。分かりきっている事だろう?

「破道の九十<黒棺>」
「!!!!」
『狛村隊長!!』

明らかに動揺したような顔で悲痛な声を上げる彼女に向き合う。
次は自分だと分かっているのだろう、刀に手をかける。
でも、彼女には斬魄刀より強い力がある事を僕は知っている。

「違うな、それじゃない」
『………、』
「キミにはまだ武器があるだろう?」

目に見えて不快そうな顔をする彼女に微笑む。
僕は知っている。君のその授けられた能力を。
手を伸ばして手に入れた、その力の強さを。

『だったら何だと…』
「撃ってみれば良い、今」

そう言うと、侮辱されたと感じたのだろう、乱暴に包帯を引き千切って言った。

『これで勝てるとは思いませんが』

でも倒す。そう、言われているような目だ。
ただ僕は目の前で腕を構える彼女を見つめて、ほくそ笑む。
早く、この僕に向けてその力を見せてくれと。
そして証明してくれ。キミが本当に僕が捜していた死神だと。

『花閃』
「!!!!」

眩しく、光り輝く閃光が僕を貫いた。
…はずも無く、僕は片手でそれを制した。
光が薄れた先には、明らかに消耗したと言うように苦しそうに立っている花ノ宮くんが見えた。

「…やはりそうか、」
『なに、を…』

そう、これで確定した。
彼女こそが僕が40年以上前から探し続けていた死神だと。

「覚えているだろう?40年前の事を」
『な…んで、その事…』
「…ンの、話だよ…っ、音羽ッ」
「ああ、そうか…忘れていたよ」

未だに意識があるという旅禍の少年の事を忘れていた。
それ程に彼女との再会は僕にとって大きいのだ。
そしてきっと、ここにいない彼にとっても…。

『一、護…っ』
「…まあいい、連れて行くまで…眠っていてくれ」
『!…ッが!!』

思いっきり刀の柄を打ち付ければ、それは簡単に倒れた。
仕方がないだろう、先程の術で相当体力を消耗したのだから。
でも実際、あの術は普通の死神が何の鍛錬もなしに打てば自分の術で気を失うどころが怪我を負うほどだ。
それに負けず体力消耗だけに留めているのは彼女の鍛錬の成果か。

「て、めぇ…っ、藍染…っ!」
「安心すると良い、彼女には何もしない」

もう既に一撃打っているのは数の内じゃない。
大した傷もつかないだろうから。
朽木ルキアに近づき、腕を体へと突き刺す。
そして、その体から小さな球体状のものが出て来た。

「<崩玉>…これが、驚いたな」

それは想像よりも小さく、妙な色をしていた。
別に、だからどうと言う事は無いのだかけれど。
さて、崩玉は手に入れた。探していた死神も見つけた。
あとはもう、この場から去る事だけだ。

「殺せ、ギン」
「…しゃあないなァ、射殺せ<神鎗>」

ギンの斬魄刀で朽木ルキア殺させる、つもりだった。
だが、その刀が朽木ルキアに突き刺さる事は無かった。

倒れたままの花ノ宮くんを一瞥し、その乱入者を見据える。

*

正確に言うと乱入者は一人ではなかった。
朽木ルキアをギンの斬魄刀から救うために義兄の朽木白哉が来た。
その後も続々と死神達がやって来てはもう終わりだと。
こんな事で勝った気でいるのか、この死神達は。

『っ…ぅ、』
「音羽ちゃん、大丈夫かい?」
『京楽隊長…、大丈夫、です…』

どうやら音羽はもう今の段階では連れて行けないようだ。
しっかりと、京楽と浮竹に守られている。
なるほど、二人は既に僕が誰を狙っているのか知っていると言う訳だ。

「キミの迎えはもうすぐ来るよ、…音羽」
「…藍染よ、こちらの死神は何人たりとも渡しはせぬぞ」
「自分の意志で来るなら自由だ。例えこの尸魂界に縛られていようと、ね」

総隊長の言葉に冷たく返す。そう、意味は無いのだ。
どんなに必死にここに縛り付けようが、自分の意志で歩いてしまえば簡単に離れてしまう。
もう一度音羽を見ると、飛び出して来ようとしたのか、浮竹に腕を掴まれ止められていた。
僕としては飛び込んで来てくれたら連れて行きやすいのだけれど。

「藍染隊長、…あの子に迎えに来させた方がええんやないのですか?」
「それもそうだね…、それならば…もう行くとしよう」

「時間だ」

死神の隊長格がそろっている中、僕達は虚圏へ行くために足を踏み入れた。

「さようなら、死神の諸君」

「そしてさようなら、旅禍の少年」

「そして…また会おう、音羽」

誰の声も聞こえはしない。
誰の声も僕に届きはしない。
誰も、僕を止める事はできない。


欺きの序章
(必ず彼女はこちらへ来る)
(そういう物語なんだ、これは)

全ては僕の思いのままに動き出す

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