BLEACH

□平子真子
1ページ/1ページ

*平子達隊長採就任後

「そういえば、花ノ宮さんは何で死神になったんスか?」

ふらふらと瀞霊廷内を歩いていると、突然浦原さんが話しかけて来た。
唐突に話しかけて来たのは良いとしよう。内容としては突然すぎるが。
というか、

『何故浦原さんがここにいるんですか』
「ちょっくら見に来ただけっスよ〜、すぐ帰るんで安心してください」
『そういう問題じゃ…、』

本当、そういう問題じゃない。
それは本人も分かっているはずだろう。
何たって彼はこの瀞霊廷を、永久追放されたのだから。
それなのに何なのだこの楽観的考えは。

「それは置いておいて、どうなんスか?」
『…?』
「だから、死神になった理由っスよ」
『ああ…、』

浦原さんにしては珍しい質問だ。
こんな詮索するような質問を、なんて。
それも嫌にまじめな顔で話しているし。

『私は…』

「オレが誘ったんやで?…なあ、音羽」

『…平子隊長、重いです』
「おお、すまんすまん」

突然肩に腕をかけられ、圧し掛かられる。
正直言ってとても重い。言ってる事は合ってるけれど。
とにかくと、上から退いて貰って体勢を立て直す。

「平子隊長が、スか?」
『まあ…そう、ですね』
「何やその言い方!もっと良い感じに言えや」

手持ちの扇子で口元を隠しながら浦原さんは言った。
ハッキリとその問いに答えるのも気が引けて、曖昧に答えた。
が、その所為で平子隊長がまた圧し掛かって来た。
重い、けど平子隊長は恋次よりは重くなくて助かった。

『そんな無茶苦茶な』
「無茶やないやろ!」

思えばこんな会話を、この人と出来るなんて、あの頃は思っても見なかった。
彼は私にとってその時目指すべき目標で、彼のお蔭で未来が出来た言っても良い。
その後、恋次とグリムジョーに会って、いろいろとあって記憶から追いやられていたけれど。
私を導いてくれた人はここにいる。今、私の隣というか真上に。

「…というか、どこで誘ったんスか?」
「んー、よお覚えとらんわ。音羽、話したり。オレの勇姿を!」
『そうですね…、確か、100年位…前でしょうか』

あの時、私はまだまだ幼かった。
平子隊長の腰程度の慎重だった。
それが今はぐんと近くなって。

『あの時の私はまだ、一人きりでした』

*

約100年前、私は虚という物に初めて襲われた。
何度か見た事はあった。でも襲われる前にいつも死神が来て、倒してくれた。
どの死神も、みんな強かった。すごく強くて、羨ましいと思っていた。
それが、その憧れる思いで虚の近くに行った。襲われるとは思わなかったのだ。
今思えば、馬鹿な事をしたと思う。

『……っ!!…ぅくっ!!』

虚の遠吠えも、私の足を重くする材料になって。
この時初めて泣きそうになった。ここに来てから、初めて。
それでも必死に走った。どこに行けばいいのかも分からずに。

『っ…なん、…行き止まり、とか…』

有り得ないと、思った。
こんな所で普通道が途切れるものかと。
それでも目の前には石の壁があって。
絶望的だった。もう死んでしまうと思った。
まさに虚の鋭い腕が振り下ろされようという時、癖のある声が響いた。

「何や?随分遠くまで来とるやないかい。」

一瞬だった。
目の前を一閃の風が吹いて、虚は倒された。
何が起こったのかと、周りを見て気が付いた。
その服装を見て、一瞬で分かったのだ。

『しに、がみ…』
「ん?おお、大丈夫かいな」
『大丈夫、です…』
「平子隊長、怖がらせては駄目ですよ」
「分かっとるわ」

もう一人、茂みの中から死神が出て来た。
こちらは茶髪に眼鏡の、優しそうな人だ。
この二人が、後に分かる平子隊長と藍染だ。

「にしても珍しいですね、こんな一人だけを狙うなんて」
「この髪の所為やないんか?」
『っ!!』

自分の髪を指さされて、思わず体が強張る。
というか、髪の毛なら目の前の金髪の彼にも言えると思うのだけれど。

「…キミ、霊力があるね?」
『え…』
「おい藍染、何を…」
「霊力があるから…いや、もしかして分からないのかい?」

平子というの人が止めるのも気にせず、藍染という人がぐいぐい質問してくる。
何なんだこの人は。優しそうな顔して、目がギラギラしていて怖い。

「ちょお待ち、藍染」
「…何ですか、平子隊長」
「自分のせいで怖がっとるやんけ」
「ああ、すみません…では代わりに、平子隊長が」
「…はあ、」

平子さんが藍染さんの代わりに座り込んだままの私に近づき、囁いた。
きっと、藍染さんには聞こえていないだろう。

「…名前は何て言うんや」
『花ノ宮…音羽、』
「音羽か、……」

私の名前を聞いて黙り込んだ平子さんに、不安が募る。
私は何かしただろうか。名前しか言ってないけれど。
でもその不安は不要だった。
そして平子さんから放たれた次の一言に、私は目を見開いた。

「音羽、死神になり」

意味が分からなかった。
この人は何を言っているのだろうと。
どうして私が、死神になるのだと。

「死神になるまで、音羽…オレが、待ってる」
『どう、して…』
「詳しくは話せへん。でも、いつか分かる」

どうしてと、そう言うしかなかった。
立ち上がって消えていくその人を、目で追う事しかできなかった。
待ってと、その手を伸ばす事さえ、私には出来なかった。

「…待ってんで、音羽」

その言葉に返す言葉さえも、私は持っていなかった

*

『で、結局私が死神になった時、平子隊長はいなかったんですよね』
「仕方ないやろ…藍染のせいやで!」

やれ藍染がどうだとか虚がどうだとか、そんな事を喚いている隊長を無視して浦原さんを見る。
どうやら考え込んでいるようで、帽子に隠れた顔は見えなかった。

『…浦原さん?』
「花ノ宮さん」
『はい?』

顔を覗き込むように名前を呼ぶと、私が目を見る前に浦原さんは顔を上げた。
低い声を出す浦原さんに何ですかと返事をする。

「まだ、花閃は撃てるんスか?」
『え?』
「いえ…ちょっと気になっただけです、が…」

どうやらまだ考え込んでいるようだ。
いい加減ハッキリ言ってもらいたいが、無理矢理聞いても仕方がない。

『撃てますよ、ほら』
「?!ちょ、音羽!危ないやろ!死んでまうで!!」

広い道の上に薄い花弁を張って虚閃を打つ。
こんな威力じゃ死ぬどころかどこかに打ち付けて血が出るぐらいだろうけど。
平子隊長に当てる気は全く無いので良しとする。

「そうっスか、ならいいんスよ」
『何か問題があったんですか?』
「いえ…、ただ、」

もう帰ってしまうのか、踵を返して門を開きながら浦原さんはニヤリと笑った。

「"彼"の事が跡形もないんじゃ、寂しいと思いましてね」

そう言うと、それじゃ、と言って現世へと帰ってしまった。
浦原さんの言った言葉に、体は素直に反応する。

「何やあいつ…」
『…平子隊長』
「ん?」
『私って…、そんなに、分かりやすい、ですか?』
「!……せやなァ、」

平子隊長の顔をまともに見れなかった。
ただ俯いて、地面を見つめる事しかできなかった。

「オレらにとったら…十分、分かり易いで」

そう言って頭を撫でてくれる平子隊長はやっぱり優しくて。
どうしたらいいか、分からなかった。
浦原さんの言葉を聞いて、見透かされたと、思った。
グリムジョーの事はもう、踏ん切りがついたと思っていたのに。
そんなこと、全然、無かったのだと。

「何や、泣いとんのか?」
『泣いてないです、よ』

まだ撫で続けている平子隊長の手をゆっくり払って顔を見る。
突然顔を上げたからか、ぽかんとしている隊長の顔は面白くて。
笑いながら、私は言った。

『泣くのはあの時で最後って、決めましたから』
「…ほー、」

ニヤニヤと笑っている平子隊長に微笑んで、私は隊舎に向かう。
きっと日番谷隊長が仕事を溜め込んでいる頃だろう。
乱菊さんはいつも通り仕事をしてないだろうし。
と、ある事を思い出して立ち止る。

『平子隊長、待たせてすみません』
「ん?」
『やっと、"死神"に、なれましたから』

死覇装の中にある隊の紋章を見せて、笑う。
きっと今が、私にとっての死神の始まりだろう。
日番谷隊長の下で戦える、今が。

「…報告すんのが遅いねん」

心の底から、そんなか細く笑う平子隊長は初めて見た。
その笑みを見て、私は思う。
きっとこれで私は落ち着いて戦っていけるだろう。
恋次も、日番谷隊長も、平子隊長もいる。
私は大丈夫だ。強く、もっと強くなって戦える。

待っていてくれて、ありがとうございました。


過去は背中、今は横顔
(やっと追いついて来たんや)
(もう心配はいらへんな)

共に歩めるという喜びの軌跡に感謝しよう

END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ