BLEACH

□朽木白哉
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*尸魂界編後

『朽木隊長』

恋次に用があって六番隊までわざわざ来たというのに本人はいなくて。
仕方なく恋次が帰って来るまで待つことにした。のはいいけれど。
朽木隊長と二人きりと言うのがどれだけ気まずいものか分かるだろうか。
とにかく何か話そうと、話題を適当に考えながら声をかける。
仕事中とかはあまり気にしない。怒られるかもしれないけど。

「何だ」
『朽木隊長と私の斬魄刀って、似てますよね』
「…どういう面で言っておるのだ」

私の言葉に、素早すぎる程の速さで動かしていた手を止めた。
その声に不機嫌さは見られなくて、私は話をつづけた。
斬魄刀の事は前から気になっていたのだ。
いろいろと似ているのに、朽木隊長は思わないのだろうか。

『名前とか…技とか…でしょうか?』
「何故、疑問形なのだ」
『曖昧なもので』

相変わらず無表情だなとか、私が言える事じゃないかもしれないけど。
でも似ているというのは本当に、恋次に聞いてもそうかもな、とか言われたけど。

『似てますよね?』
「…武器としては似ていないだろう」

少し考える素振りを見せて、朽木隊長は淡々と言った。
冷静すぎるというか、何というか。

「音羽は鉄扇、私は刀のままだ」
『それはそうですけど』

確かに始解の形は全然違う。
私は卍解が出来ないし、比べる物じゃないだろう。
それでも、似ている所はある。

『桜舞月と千本桜って似てます』
「…まあ、そうだな」

やっとここで認めてくれた。
というか、大した事を言った訳ではないけれど。
似ているのは桜というところだけではないような、気がする。

『私、桜も出せますよ』
「…器用になったものだな」
『それは、…練習しましたから』

ぽたぽたと、右手から出てくる桜を見つめる。
いつからこんなに器用に出せるようになったかなんて覚えてない。
ただ練習をして、鍛錬をして、考えて考えて繋げた結果だ。
皆の様にまともな強さ何て持っていないのだ。

「それは…誰の為だ」
『え?』
「誰の為に、そうやって強さを求めているのだ」

朽木隊長の言葉に、息が詰まった。
こうやって詮索されるのはあの時以来だ。
私が倒れて四番隊にいた時も、こうやって聞かれた。
何があったのかと、何を隠しているのかと。

「…恋次には言わないと約束しよう」
『朽木、隊長…』
「話してはくれないか、過去の事を」
『ッ!!!』

嗚呼、もう隊長は分かっているのだ。
ただ私が詳細な事を話すのを待っているだけで。
この様子じゃ隊長だけじゃない。きっとイヅルだって。
でも、それでも誰にも言えないのだ。
私自身、40年前のあの日、何があったのかをよく覚えていない。

「音羽」
『…すみ、ません』
「そうか…、手遅れになる前に、何としても話して欲しいのだが」

そう話す朽木隊長はいつもと変わらない表情で、いつもと変わらない声音で。
私はこんな事でも酷く安心した。心のどこかで私は怖いと思っているのだ。
自分でも分かるほど、恐怖は募っている。
何かが自分の中で、自分の周りで変わってしまうと。

『自分自身で、分かる事が少なすぎるんです』
「……」
『彼の容姿も、声も思い出せるのに、名前だけが思い出せない』

朽木隊長に話せる事は無いと分かっている。
酷い事だと周りは言うだろう。それでも、駄目なんだって。

『…これ以上は、言えません』
「十分だ、…すまない」

朽木隊長が謝る事じゃない。
それなのにどうして、そうやって謝るんですか。
それすら言えない私は、結局弱いんだ。
これじゃあ、一生何も分からないままだ。

「隊長!書類貰ってきました!…って、音羽じゃねぇか」
『恋次…』

沈黙が少し広がっていた室内に、待っていた声が響いた。
恋次は私を見て、書類を持ったまま器用に首を傾げる。

「恋次、私は暫く外に出る。後の事は頼んだぞ」
「え!?ちょ、隊長!?」

私が恋次に用があると知っているからか、あるいは別の理由で朽木隊長は隊舎を出て行ってしまった。
おそらく理由は後者だろうが、知らない方が良い。

「…で、音羽はどうかしたのか?」

思えば双極の丘で会ってから初めて顔を合わせる。
ぎこちない空気の中、私は見てしまった。
恋次が持っている書類の中、きっと内容は私の事。

『恋次、それ見せて』
「あ?…っ!だ、駄目だ!これはお前が見ていいもんじゃねぇ!」
『どうして。私の事でしょ、見せて』

明らかに動揺しているのが手に取るように分かった。
きっとその書類は本当に私が見ていい物ではないのだろう。
でも、どうしてそんな書類が六番隊に持ち込まれているのか。

「朽木隊長が処理するもんだ!お前は見るな!」

恋次のその言葉に私は耳を疑った。

『朽木隊長、が…?』
「…そうだ、分かるだろ…見ちゃいけねぇんだって」

どうして、だって、その書類は明らかに私の虚閃に関するもので。
危険だとかどうのこうの言っているものだろう。
総隊長は毎回の様に気にする事では無いと言っていたけれど。

『まさか…、』

いつも私があの技を使うたびに出る波紋を鎮めていてくれたのは朽木隊長だと言うのか。
そして私はそれをずっと知らなかったと言う事か。
何で、それじゃあ朽木隊長が疑問を持つなんて当たり前じゃないか。
ずっと私に過去の事を聞いて来ていたのも納得がいく。

「音羽…」

恋次がそっと肩に手を置いたのが分かった。
でもそれを気にする余裕もなかった。
朽木隊長はどれだけ苦労していたのだろう。
私に知らせずにずっと一人で守っていてくれたのだ。
詳しい事も知らされず、ただ私の身の為に。

『…朽木隊長っ、』

それを知ってもまだ言えないなんて、私は最低だ。


優しさに刺されそうだと
(どこかの私が囁いた)

その距離からの、視線に答えられない

END
 Next→阿散井恋次

ここだけ続く!

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