BLEACH

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「だから俺も行くって言ってんだろ!」

瀞霊廷から現世へと続く扉の前に、男の声が響き渡る。
突然大声を上げた彼に、その場にいた者の視線が彼に注がれる。

『…だから、大丈夫だって…』
「何かあったらどうすんだ!?」
『偵察だけだし…』
「そこで敵が来たらどうするんだよ!!」

どうしようか、彼は全く引いてくれる気配がない。
私はこれから藍染との戦いに向けて、現世に偵察に行く。
それぐらいは一人で出来ると何度も言っているのに。
先程からずっと恋次が一緒に行くと言って聞かないのだ。

『私だって戦える』
「…だ、だけどよ…っ、」
『心配し過ぎ。大丈夫だから待ってて』
「お、おい!」

恋次をその辺の死神に押し付けてさっさと扉の中に足をかける。
いい加減これぐらいの任務、一人でも行けるのに。
でも今は、どうしてそうやってしつこく来るのか分かっているからむず痒い。

「いいのか?一緒に行かなくても」
『浮竹隊長までそんな事言わないで下さい』
「ははは、悪いな。でも誰だってあんな事の後じゃ心配もするさ」

浮竹隊長が言っている事は分かるけど、それでもたかが偵察だ。
少ない人数をどうにかしてまで裂く事ではない。

『…もう、行きます』
「ああ、そうだな。…気を付けて行けよ」
『勿論です』

本気で心配そうな浮竹隊長に背を向け、私は走った。
断崖はいろいろと面倒なのだ。蝶をつけていても。

『現世、久しぶり…でもない、か』

私達死神からしたら私が現世にいた頃なんて人間にとっての昨日のようなものだ。
でも私はあまり現世を覚えていない。
何よりあの時はルキアを見ているので精一杯だったし。

『一護…会えるかな』

どこにいるのかも分からないけど、きっと霊圧を探れば一発で分かるだろう。
とにかく早く空座町に出てしまおうと、私は走るスピードを速めて行った。

*

『?何か…』

空座町に到着した私は一護の霊圧を探した。
一護は普通に家にいるようだけれど、織姫と…茶渡?
この二人の霊圧がざわついているような気がする。
別に敵に会っていて助けてやる義理は無いけど、気になる。

『仕方ない…恋次に怒られそうだし』

行くならなるべく早い方が良いと、瞬歩で織姫がいる場所まで移動する。
二、三回で織姫と茶渡がいる後ろの道路まで着いた。
どうやら二人は誰かと話しているようで、敵に会っている訳ではなさそうだ。

「あんたらは、ここで…」
『何してるの?』
「うわぁ!?え、あ、花ノ宮さん?!」
「!」

織姫の前に立ちながら相手を見て、私自身目を見開く。
織姫達と話していた二人の人間の内、一人に見覚えがあったからだ。
いや、正確にいえば知っている人は人ではないけれど。

『平子…隊長?!』
「…オマエ、音羽か?!」
「な、なんや真子、知り合いか?」

駄目だ、上手く言葉が出ない。隣の人は誰だろう。死神?
何て言葉を出して、何を言えばいいのか分からない。
正確には今は隊長じゃないけど、私は隊長だった平子さんしか知らない。
だって、初めて会ったあの時の彼は紛れもなく隊長だったのだから。

「音羽…、オマエ…死神に…、」
『…どうして織姫と平子隊長が…、』
「花ノ宮さん…平子くんとお知り合いなの?」
『知り合いっていうか…、…っ!?』
「ひよ里!!」

いろいろな事が頭の中で混ざって、織姫の質問にも何て答えようか悩む。
けど、その質問に答える前に平子隊長と一緒にいた人が突然切り掛かって来た。

『斬魄刀…?』
「なんや、それなりの力はあるみたいやなァ」

どうして突然切り掛かって来たのかとか、そんな事を考えてる暇は無かった。
というより、この人も斬魄刀を使ってるなら死神なのか、だったのか。

「真子の知り合いかなんか知らへんけど、あんたはここで死にィ」
『な…、』
「!…す、スンマセンっ、したーーーーーーーー!!」
『ちょ、平子隊長!?』

何だか理不尽な事を言われた瞬間、平子隊長がひよ里という人を連れて行ってしまった。
平子隊長だって、話したい事が沢山あるのに。逃げられてしまった気分だ。
でもきっと、今更追いかけても追いつけないだろう。

「あ、あの…花ノ宮さん」
『…なに?』
「平子隊長って…平子くんは、死神なの?花ノ宮さんのお知り合い?」
『死神かどうかは…今は分からない。それに、知り合いっていうか…』

きっと織姫は彼の存在に疑問を抱いているのだろう。
制服を着ていたところから見るにしても、学生なはずは無い。
だからこそ、先の言葉を言うのは躊躇われた。
そこまでハッキリ言える事じゃないから。

『私が死神になるきっかけになった人…だと思う』
「…それって、」

その先の織姫の言葉は、続かなかった。
一瞬にして、先程までは微塵も感じてなかった重い霊圧が現れたのだ。
それと同時に、道路を歩いていた人が次々に倒れだした。

「な、なにこれ…っ!人が…」
「無駄だ、井上。もう…死んでる」
『……二人とも、ここを動かないで』

この重い霊圧、誰が来たのかも何が起きているのかも分からない。
でも、危険だと言う事は嫌という程、分かる。
これは私でも、ましてや織姫たちでどうにかできる事ではない。

「でも…花ノ宮さんっ!」
『私は一護を呼んでくる。…きっと気づいてるから』
「ま、待て、花ノ宮」
「…行っちゃった、」

茶渡の止める声も、ちゃんと聞こえていた。
一護に負担を掛けたくないのだろうが、そんな事を言ってる場合じゃない。
このまま二人を敵の所に向かわせていれば、間違いなく死んでしまう。
それだけは何としても避けなければならない。

『一護…、』

探っていた一護の霊圧が、上がっている。
きっと気が付いて死神化したのだろう。
急いで合流して、どうにかしないと。

『間に合え…っ』

既に死んでいる人はもうどうしようもないが、これ以上被害を拡大させる訳にはいかない。
織姫と茶渡が、重い霊圧の近くへ進んでいると、この時私はもう気が付いていた。

*
織姫視点

「茶渡くん…私、」
「分かってる。花ノ宮と一護が来るまでだ」
「うん…。」

重い、重い、怖い。怖いよ。得体のしれない何かに向かっている足は震えてる。
花ノ宮さんは黒崎くんの所に行ってしまったけど、黒崎くんに負担はかけたくない。
だから、花ノ宮さんが来る前に、私達で終わらせられたら。
それが一番良いのに、茶渡くんは一人で戦ってしまった。
私には戦う力がなくて、それは仕方のない事だけど。

「…頼んだぞ、井上」

そう言って私の前を走っていた茶渡くんの霊圧も違う意味で重くて。
私にも、分かってたはずなのに。ちゃんと、気が付いていたはずなのに。
茶渡くんには覚悟があって、生き残る人を助けるために言っていたって。

「ごめんね…茶渡くん、私が…、」

私がもっと強かったなら、もっと強く、誰かを守れるぐらい強かったら。
茶渡くんも、たつきちゃんも、みんなみんな、私が早く助けられたのに。

「…双天帰盾」
「何だ、こいつ…」

目の前の大きい人も、後ろにいる人も、私が追い返してみんなを安心させなきゃ。
黒崎くんにも、花ノ宮さんにも頼っちゃ駄目だ。私が、

「椿鬼!!」
「お?」
「孤天斬盾…私は、」

みんなみんな、私が絶対に、守るから。

「拒絶するッ!!!」

でもそれも、敵わなかった。

「何だ…蠅か?」
「そ、そんな…椿鬼くん…っ、」

呆気なく椿鬼くんは潰されてしまった。
殺せと、後ろの人が言うのが耳に届いて体が動かなくなる。
もう駄目だと、目を閉じようとした時、私の前に二つの影が現れた。

「何だテメェらは?!」
「…黒崎くん、花ノ宮さん」
『遅くなってごめん、織姫』
「ご、ごめんね…私が、もっと、もっと…強かったら、」
「謝らないでくれ、井上」

私を守るようにして前に立つ二人はやっぱり強くて。
私なんかじゃ敵わないなって、余計に痛感した。

「音羽、井上を頼む」
『…うん、無理しないでね』
「分かってる」

花ノ宮さんが私の腕を引っ張って、離れたところまで行く。
きっと黒崎くんは私達を守るために一人で戦って、花ノ宮さんに私達を任せたんだ。
闘いでの数の多さも、強さは分からないけど、花ノ宮さんが頼れるから。

「行くぜ…卍ッ解!!!」

黒崎くんの霊圧が、重く、濃くなっていく気がした。


無力な感情戦
(まるでそれを知らない)
(別人に変わって行く様で)

怖くて、何もかもが変わってしまった様で

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