BLEACH

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*音羽視点

「おい、ウルキオラ…こいつ、」
「間違いない、そいつが標的だ。それに後ろの死神…」
「あ?」
「いや、何でもない。」

卍解した一護と破面が戦っているのを黙って見ていた。
大きい方の破面は力は途轍もなく強いようだが、それだけだ。
小回りが利く一護の方が強く、圧倒しているように見える。

「………、」

ふと、後ろにいる破面がじっとこちらを見ているのに気が付いた。
手を出す気はないようだけど、無表情で見つめてくる姿は不気味だ。
織姫達に危害が加わらないよう自分の背中へ隠すが、織姫を見ている訳では無いらしい。

「くそ…っ!」
『一護!!』

もう一人の破面に集中していたせいで、一護がどうなっているか見ていなかった。
目を外している間に何があったのか、一護の動きが止まっている。
それに、霊圧も尋常じゃない程に揺れて、不安定になっていておかしい。

「黒崎くん!!!」
『織姫!』「来るな井上っ!!!」

私と一護の声が、重なって掻き消された。
一護に駆け寄ろうとした織姫は簡単に弾き出される。
あの怪我はマズい、そう感じて織姫が地面に叩きだされる前に受け止める。
血が、額と腕から溢れ出ている。左腕はもう折れていた。

『織姫、…動けないと思うけど、動かないで』
「ご、ごめ…なさ、花ノ宮さ…」
『喋らないで』

自分の腕の包帯を外して織姫の傷口の止血に使う。
気休めだけど、無いよりはきっとマシだろう。
包帯をすべて巻き終えて、一護の方へ視線を向ける。

「終わりだガキ!!潰れて消えろ!!!」

殴られ続けている一護の元に、瞬歩で割り込む。

「音羽…、」
「何だお前…?」
『…これ以上一護に、手出しはさせない』

振り下ろされた拳を斬魄刀で受け止め、相手を見据える。
正直私の攻撃が破面に聞くとは思えないし、勝てるとも思わない。
でも、やらなくてはどうしようもない。私は戦えるのだと担架を切って来たのだから。
一撃で終わるとも思えないが、破面の顔面に向けて右手をかざす。

『…虚閃』
「!!!!」

自分の手の平から押し出された虚閃に、自分も押されそうになりながら何とか堪える。
一応命中はしたらしいが、爆発の煙でどうなっているか分からない。
相手にもこちらが見えていないうちに、後ろに倒れたままの一護を見る。

『一護、立てる?』
「…音羽、お前…今の、」
『………、』

きっと死神の私が虚閃を出した事に驚いているのだろう。
その目はどういう事だと、問い詰めるように見開かれている。
でも、今は一護に話すべき時じゃない。今は目の前の敵だ。

「ウールーキーオーラァ、」
「…やはり、こいつも藍染様が言っていた死神だ」
「ああ…あの死神か、」
「そうだ。ヤミー、そいつは殺すな」

やはり私の虚閃では全く太刀打ちできない様だ。でもまだ私には斬魄刀がある。
最近解放していないから、腕が鈍っているかもしれないが仕方がない。

「んじゃあ、こいつはどうすんだよ」
「…もう用は無い、」
『逃げるつもり?』
「貴様に止めるほどの力があるのか?」

明らかに挑発と分かるような言い方だ。
確かにこのまま帰ってもらった方が安全かもしれない。
その方が、私にとっても一護達にとっても良いのかもしれない。
それでも、

『…咲き誇れ、”桜舞月”!』
「!!!」

斬魄刀の解放と共に、刀と腕から一気に花弁が散り乱れる。
もう慣れてしまったけど、これは視界が悪くなるしどうにかしたい。
霊力が上がることの影響だから、仕方ないと言えば仕方ないけど。

「驚いたな…そんな形もあるのか」
『…ッ!!!』
「敵うと思ったか?」

瞬歩で背後に回ったというのに、簡単に防がれてしまった。
というか、皮膚の上にあるものが硬くて鉄扇でも刃が通らない。
一々馬鹿にしたような口調がとても頭に来る。

「俺達と同じ力だろう、それは」
『……何の事?』

斬魄刀の話だろうか。思えば目の前の破面も、後ろの大きい破面も腰に刀を差している。
それにしたって、なんだか言い方が…妙だ。
目の前の破面は無表情だった口を微妙に上げて、私に言った。

「覚えていないのか?…グリムジョーの事を」

グリムジョー、その名を聞いた瞬間、頭を殴られたような衝撃が走った。
それはその名を聞いたからなのか、後ろにいた大きい破面に殴り飛ばされたからなのか。

「音羽!!」
『が…ッ、あ…ぅっ、』
「ヤミー、」
「連れて行くんだろ?だったら大人しい方がいいじゃねぇか」

何だか最近はよく殴られる気がするな、とか呑気なこと考えて。
最初から素直に全身からでも何でも、花を出しておけば良かったとか。
そんなの結果論だって分かってるけど、痛くてうまく思考が回らない。
倒れた私の所にゆっくりと近づいてくる足が見えた。

「ヤミー、待て」
「うるせぇな、足くらい潰した方が良いだろ!!」

思いっ切り、風が逆巻くほどの勢いで腕が振り上げられる。
咄嗟に、花を咲かそうと腕を持ち上げるが、間に合わない。
潰される、それでも目を閉じず、相手を見据えていた。
腕が完璧に振り下ろされると感じた時、私と破面の腕の間に何かが割り込んだ。

『え…、』
「遅くなってスイマセーン。黒崎サン、花ノ宮さん♪」
『浦原さ…』
「大丈夫っスか?随分ボロボロみたいですけど」

こんな状況でも呑気な声に、自然と体の力が抜けた。そうか、私は気が付いていたんだ。
この破面達を見た時から、彼と同類だと、気が付いていたから体がうまく動かなくなっていた。
グリムジョーと言っていただろうか、きっと私はその名を知っている。
だけどそれが何だか思い出せなくて、余計に頭が痛くなるばかりで。

「…行くぞ、ヤミー」
「そいつは連れてかねぇのか?」
「藍染様も言っていただろう、その死神はあいつに連れて来させると」
「…そうかよ。」

私が何の手出しもできないまま、破面の二人は虚圏へと帰ってしまった。
どうしてこんな事になったのだろう、私は何もできなかった。

『…っ、』
「大丈夫か、花ノ宮」
『夜一さん…すみません、』

立ち上がろうとしても血を流し過ぎたのか、眩暈がして立っていられない。
でもそんな事は言っていられないのだ。今すぐにでも尸魂界に帰らなくては。
自分でも焦り過ぎだと分かるほどに、気持ちばかりが前を向いていた。
恐怖を、感じているはずなのに、どうしてか気持ちは逸るばかりで。

「これからどうするんスか?」
『尸魂界に…帰ります、じゃないと…』
「そうですか…では、お送りしましょう」
『ありがとう、ございます…』

そのあと私は適当な応急処置をして貰い、尸魂界へと帰った。
一護にはお礼を言われたけど、そこまで言われるような事はしていない。
今日の事で分かってしまった。私は、弱い。強くなってなんかない。

『だから…会えないの、かな』

もう何も考えたくなかった。
ただ、過去に会った彼の事ばかりが頭を埋めていた。

会いたいと、純粋にそう思う自分がいる事に気が付いた。


首を絞めて、夢を見た
(一体どれぐらい強くなれば)
(彼は私を認めてくれるのだろうか)

何かが手の内を離れた、そんな気がした

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