BLEACH

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『只今戻りました、総隊長』

尸魂界に帰ってすぐ、私は誰に会うともなく総隊長の元へ行った。
タイミングが良かったのか、丁度隊長会議が始まる前だったらしい。
隊長はまだ浮竹隊長と日番谷隊長しか来てないけど。

「うむ、ご苦労じゃった。」
「音羽、大丈夫だったのか?」
『日番谷隊長に心配されるほどの事ではありません。』
「…あのなぁ、」
『と、言いたいところですが…』

そう言う訳にも行かないのだと言う事を全て話した。
破面が襲撃して来たと言う事は既に知っているはずだ。
戦闘内容を詳しく話した後、一護の事も話した。
曖昧だからと話すのを躊躇ったが、言わないのも嫌だ。
一護の動揺からして彼自身も分かっていない様だったし。

「ふむ…、」
『それでは…失礼します』
「…ちょっと待ってくれないか、花ノ宮」
『浮竹隊長?』

いつになく真剣な浮竹隊長に眉を潜める。
浮竹隊長がこういう顔をする時は、大体いい話ではない。
それは私にとって、だけかもしれないが。

「花ノ宮、護廷十三隊に入る気は本当に無いのか?」
『!』
「浮竹!!」

浮竹隊長の言葉に、少なからず私は動揺していたと思う。
日番谷隊長が声を荒げて止めに入るのも聞こえていた。
今まで日番谷隊長だって一度も言った事が無い訳じゃないのに。
そうだ、こんな事何かある度に言われているんだ。
でも今の私に護廷十三隊に入る資格は、無い。そう言えるだろう。

『すみません、今は考えられません』
「そうか…残念だな、」
『…もう、失礼します』
「花ノ宮」

今度は頬を緩めて笑う浮竹隊長に内心ほっとしながら、私は背を向ける。
しかしまたも、いや今度は総隊長の低い声に止められてしまった。
流石に無視をする訳にはいかず、結局また振り返る。

『はい』
「もう一度現世に行く前に、吉良副隊長には話をしておくが良い」
『…?はい…、』

もう一度現世に?いや、それよりもどうしてここでイヅルの名前が出るのだろう。
第一、彼に何を話す事があるのか、今日会った破面の事でも話せと言うのか。

「話す事は分かっておるな」
『え、…あの、…』
「お主がずっと吉良副隊長に話そうか迷っている事じゃ」
『……、』
「今の内に言うておくが良い」

総隊長は知っているのだろうか、私のこの悩みを。
いや、そんなのは気にする事じゃないのかもしれない。

『…失礼します』

総隊長の発言には口出しせず、私は一言呟いてその場を後にした。

*

「音羽!戻ってたなら言ってくれれば…」
『…ごめん』

結局総隊長の言う通り、イヅルの所に来てしまった。
話そうと決めた訳じゃないけど、何だか落ち着かなかったのだ。
もうすぐまた現世に行かなければいけないし。
認めたくはないがそれなりに不安はある。

「現世への偵察、大丈夫だったかい?」
『……うん、』

どうしてだろう、イヅルの目が見れない。手を握り締めて、俯く事しか見えない。
俯いたその先でも、イヅルの存在から目を逸らしたままで。
そんな私をじっと見つめていたイヅルが息を吐きながら優しく言った。

「少し、話そうか」

その言葉に顔上げれば、いつも通りに微笑んだイヅルがいて。
私は黙ったまま頷いてイヅルの後をついて行った。

「暫く三番隊には来てなかったね」
『そう、だね…』
「…今は隊長がいないから、ゆっくりできるよ」

隊長がいないから、その言葉には言いようのない想いが含まれているようで、私は何も返す事が出来なかった。
イヅルは私の為にこんなにもいろんな事をしてくれているというのに。

『イヅル…私、』
「うん?」

思った以上に、自ら開いた口先は震えていた。

『この、手の…虚閃、…破面から、貰ったもの、かもしれない…』
「!!音羽…、」

俯いている私にも、イヅルの表情は容易に想像できた。
だからこそ、余計に顔を上げるなんて事ができなかった。
痛い程の沈黙に押し潰されるように、私は口を開く。

『まだ分からない、でも…ッ、…私、違うの…、こんな、』
「音羽、落ちつい…」
『こんな、こんな…はずじゃ、』

強くなりたかっただけなのに。どうしてこうなったの。
敵から渡されたかもしれないこの力も、その人に会いたいと自分から願う事も。
自分の感情でさえも全てが疎ましく思えてしまう。こんなはずじゃなかった。

「音羽…、まだ誰にも言っていないかい?」
『…うん、』
「そうか…、」

ほっとしたような、イヅルの声。
その声にも、私は嫌な予感を生み出してしまう。

『やっぱり…こんなの、駄目なのかな…』
「…音羽、」
『あの人が敵かもしれないって分かった今も、まだ…私、』

怖くて、震えが落ち着かない私の手を、イヅルが強く握る。
その温もりに縋るように、私は思っている事を全て話した。
今まで抑えていたものを全て、隠している事なんて全く無い様に。
イヅルは驚いたように顔を引き攣らせても、ずっと聞いてくれていた。

「音羽、」
『…?』
「この事、話せる範囲でいいから、もう一人誰かに話しておいてくれないかな」

帰り際、困った様に笑いながら、イヅルはそう言った。
一気に全てを話してしまったから、疲れさせてしまったかもしれない。

『うん…ごめん、ありがとう』
「いいんだ、僕はこれ位しかできないから」

そんな事ないよ、そう言いたかった。
でも私がそんな事を言える立場じゃないって事、分かってる。
だから、ただ目を見つめて、これ以上は口を開かなかった。

『はぁ…、』

三番隊を出てから、ずっと考えている。
イヅルが言っていたのだから誰かに、言わなければ。
でも恋次には言いたくない。何というか今は、気まずいし。
他に、信用できる人…と言えば、

『あ…、朽木隊長…』
「音羽か、」

いつも通り、硬い表情のまま朽木隊長はそこにいた。
なんてタイミングのいい人なんだろうか。
とは言っても、本当は此方から出向きたかったが仕方がない。

『朽木隊長』
「何だ」

表情を全く変えない朽木隊長に臆することも無く、私は言った。

『お話があります』

*
イヅル視点

「はぁ…」

音羽が隊舎を出て行った瞬間、脱力するように座り込んだ。
手を見ると、見て分るほどに震えていた。

「情けないな…、」

思わず自嘲的な笑みが零れるが、もうそう笑うしかなかった。
見たのは、聞いたのは自分なのに、恐れているなんて。
僕がこんな事を知っていいはずないのに、彼女は自分を信じてしまった。
勿論自分は彼女を信頼して信用しているし、頼っている。
でもまさか、あんなに悩んでいるなんて、気が付かなかった。

「それでも…泣かなかったな…、音羽」

話し方からしても、声の震え方からしても、泣きそうだったのに。
涙一滴、目を潤ませる事すらしていなかった。
そんな彼女が泣いた時、どれだけ彼女は苦しんでいるのだろう。
僕には分からない。でも、僕にしか分からない事もある。
彼女が、音羽が話してくれた事が。
きっと今頃朽木隊長に話しているのだと、思う。

「それとも、阿散井君か…いや、無いな」

彼とは今、あまり話したくないと本人が言っていたんだ。
それならやはり朽木隊長の所だろう。ただの憶測だけど。
明日、音羽が現世に行ったら朽木隊長の所へ行こう。
阿散井くんがいないのに行くのは、中々勇気がいるけど。

「現世、…破面が来ないといいけど…」

この後、僕はこの時の自分を恨む事になるとは知らず呑気に考えていた。
破面が、藍染が来ても何とか倒して、どうにかすればいいのだと。

そんな楽観的な考えでどうにか出来る訳が無かったのに。


離した、一瞬が命取り
(無力を呪うべきなのは、)
(きっとそれは僕の方だ)

ずっとその手を離すべきじゃなかった

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