BLEACH

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*現世

「で、どこの教室でしたっけ?」
「あれ、忘れちゃった〜」
「どうするんすか!!」
『1-3ですよ…』
「おお、さっすが!まあ、一回来てるもんね〜」

騒がしい。自分もその内の一人なのだが、周りの生徒の視線が痛い。
そもそももっと静かに歩けば良いだけの話なのに。
きっとこの人達には何を言っても無駄だろう。私は早々に諦めていた。

『あ、ここです』
「ホラ、開けろ!」

生徒の痛いほどの視線を背に、私は一度は登校してた教室へと入る。
まあ皆にとっては初めてだ。…彼女以外は、だけど。

「おーす!元気か一護!」
「れ…恋次!一角!弓親!乱菊さん!冬獅郎!!」
「日番谷隊長、だ!」
「そ、それに…音羽まで…」
『私はついで?』

一護の驚きっぷりに感心しつつ、ついでの様に扱われて少し頭に来る。
こんな所で怒っていても仕方ないと分かってはいるけれど。

「っていうか、何で現世に来てんだ?」
『破面との戦いに備えて…』
「あらん…なんだって?」
「音羽、その話は後にしろ」

ここじゃ駄目だ、そう日番谷隊長が低い声で言った。
確かに周りを見れば、一護のクラスメイト達の視線が私達に全て注がれていた。

『…移動します?』
「そうだな…ったく、めんどくせぇな…」
『日番谷隊長がそんな事言ってて良いんですか?』
「う゛…っ」

私の言葉に日番谷隊長は、現世に来てからもう何度目か分からない溜息を吐いた。
それでも結局は何でもやってしまうところが凄いと思う。

「んじゃ、一護の家に行こうぜ」
「何でだよ!?」
「そこしかねぇだろうが」
「いや、おい!恋次!ってお前ら!!待てって!!」

恋次の言葉に続くようにして私達は教室を出た。
死神の姿になって瞬歩で言った方が随分と速いけど。
というか、本音はこの外見じゃ目立つから嫌なだけで。

『目立つ…』
「今更気にすんな」

気にすんなって一角さんに言われると余計気になるような。
言ったら叩き潰されそうだから言わないけど。

「そうだぞ音羽、それに…その、」
『?』
「制服…似合ってんぞ」

恋次の突然の言葉に一瞬心臓が跳ね上がった。
本当に一瞬、一瞬だけだけど。

『ありがとう』
「反応薄ッ?!」
「てめぇの言い方が悪いんだろうが」
「ほんっと…一角さんにだけは言われたくねぇっす」

ワイワイと騒ぎながら歩くうちに、あっという間に一護の家へ着いた。
一護の家族に見られる訳にもいかなず、全員で窓から部屋へと入る。
と、窓を開けた瞬間、聞きなれた大声が響いた。

「遅いぞ!!待ちくたびれたではないか!!」
『ルキア、』
「説明の準備は万端だ!さっさとせんか!!」

何だかご立腹なルキアに怒鳴られ、全員が部屋の中へと入る。
やっぱり走ってでも早く来た方が良かったんじゃないのか。

「説明って何だよ?」
「馬鹿者!貴様に説明する事だろうが!」
『破面の事だよ、一護』
「あ、ああ…なるほどな、」

一護が明らかに迷惑そうな顔をしているが、気にしない。
というか正直、そんな事は気にしていられないのだ。
渋る一護を全員で完全スルーして説明をする。
渋っていた割には中々真面目な表情で聞いていたけど。
そういえば、破面の話の途中で思い出した事があった。

『一護、修行してたって本当?』
「ん?お、おう…まあ、何とかなると思うぜ」

いいな、とは言わなかった。言うと気まずくなりそうだから。
一護は修行をする度に、いや、戦っている最中でさえも強くなる。
羨ましいと、心から思う。自分の力だけで登り詰められるのは。

「あ、そういえば…」
『?』
「お前さ、平子って…知ってるか?」

一護のその言葉に、慌てて恋次の方を見る。
どうやら騒いでいるようで、此方の会話は聞こえていないようだ。

「悪い、ここでしない方が良かったか?」
『大丈夫、…でも、なんで平子たい…平子さんの事、』
「(平子さん?!)…何か、よろしく言っといてくれって言われてさ」

自分で言えよな、とかブツブツ言っている一護に先の言葉を促す。
そしてその言葉を聞いた瞬間、私は胸が締め付けられるような思いがした。

「後…待てなくてごめんな、って言ってたぜ」

どうして、直接言ってくれないですか、平子隊長。

*
グリムジョー視点

「おかえり、ウルキオラ」

薄暗い、部屋と呼べるかも分からない室内に凛とした男の声が響く。
全てを見通したようなこの声が、俺はあまり好きじゃない。

「さあ、見せてくれ。キミが見た全てを」
「はい。…どうぞ、ご覧下さい」

ウルキオラが目玉を潰した瞬間、辺り一帯に細かい破片が舞う。
同時にその場にいた全員が目を閉じてその映像を、記憶を見る。
その記憶は俺からしたら散々なモンだ。
これは殺す価値がねぇんじゃない、殺せなかっただけだろうが。

「何か言ったか、グリムジョー」
「微温ィって言ってんだよ、俺なら一撃で殺してたぜ」

表情が無いんじゃないかと思うほど冷静な物言いに頭に血が上る。
そうだ、俺がその場に行っていたら、俺なら一撃で終わらせていたのに。

「…それは最後まで見てから言うんだな」
「あ?」
「良いから目を閉じろ」

ウルキオラの凄まじい物言いに、他の奴らも気になるのか目を閉じる。
横目で見た藍染が目を閉じていたから、これは俺も閉じた方が良いのだろう。
黙って目を閉じた、暫くは黒崎一護って奴が殴られているだけだ。
そのままヤミーが止めを刺そうとした時、そいつは現れた。
死覇装を身に纏った珍しい髪色の死神の姿に、思わず俺は目を開けた。

「おい…ウルキオラ、テメェ…こいつ、」
「…気が付いたかい、グリムジョー」
「!藍染…サマ、」

藍染様、そう言いながらも感情の抑えが利かず睨んでしまう。
しかし目線の先にいる男は怒る事もせず笑いながら俺を見た。

「覚えているだろう?キミが力を分け与えた子だ」
「…まさか、」

藍染の言葉に周りの何も知らない破面が騒ぎ出す。
俺の従属官達にはあの日に話してあるから知っているはずだが。
騒ぎの声なんて聞こえないと言うように、藍染は続ける。

「彼女は花ノ宮音羽、死神だ」

その名前が、俺の全身に響いて反響しているようだった。
40年以上前聞いた、あの声とリンクしていた。

「音羽…、」
「……そろそろ彼女も此方に来る頃だ」

俺の顔を見ながらほくそ笑む藍染に嫌な予感しかしない。
此方に来る?それはあの日に俺に言わせた言葉と関係があるのか。
あの言葉を、音羽は覚えているのだろうか。

「何の事……ですか」
「迎えに行かなくてはいけないね。グリムジョー?」
「!!…はい、藍染サマ」

やはり、そうか。俺に迎えに行かせるつもりだ。
俺は不安だった。彼女が俺の事を覚えているのだろうか。

ただ俺は、40年前からずっと、あいつを忘れた事なんか無かった。

*

「よー、よーってば!」
「ん?何だよ一護」
「何だよじゃねぇよ!お前らいつ帰るんだ?」

一護は呆れたようにと言うか、面倒臭そうな顔をして呟く。
その問いに、何を言っているんだという目で見ながら答える。

『私達、戦いが終わるまで帰らないよ』
「突然奴らが来ても尸魂界にいては意味が無いからな!」
「…寝る場所とかどうすんだよ」

更に深い溜息を吐きながら一護は言う。
思えばこんな大人数をこの家に泊める訳にはいかないだろう。
すると、一護の言葉を聞いた一角さんと弓親が立ち上がった。

「俺達は出て行くから安心しろ」
「そうそう、元から世話になるつもりは無いよ」

それだけ言うと、一護の言葉も聞かずに二人一緒に窓から出て行ってしまった。
いつも思う事だが、十一番隊の人は互いに仲が良い。特に、あの二人が。
私がいつになくどうでもいい事で感心していると、日番谷隊長と乱菊さんも一緒に立ち上がった。

「とりあえず私は織姫に泊めてもらうわ!」
「…俺は行かねぇからな」
「そんな〜隊長も行きましょうよ〜!」

そしてその二人も、仲良く一緒に窓から出て行ってしまった。
あの二人も何だかんだ言って仲がいいし、隊長と副隊長はこんなものか。
いやでも、と六番隊を思い出してそんな事無いなと思い直す。

『恋次は、どうするの』
「俺は浦原さんって人の所に行くぜ、聞きてぇ事もあるしな」
「浦原は変態だから気を付けろよ!」

ルキアの言葉に、流石に男相手には大丈夫だろうというツッコミはしなかった。
正直浦原さんと恋次が話してるところとか想像できないが大丈夫だろうか。
私が一応心配はして悩んでいると、当たり前の様に恋次が言った。

「おら、行くぞ音羽」
『え?』
「ん?」

何言ってるの、と視線で訴えて、沈黙が落ちた。
一護とルキアは何だかよく分かってないようだった。
沈黙に耐えるのも面倒で、溜息を吐きながら恋次へ言った。

『私は一護の家に泊まるけど?』
「はぁ!?な、何言ってんだよ、駄目だ!」
『何で?』

私の言葉に突然焦りだす恋次を怪訝な目で見つめる。
別にいいじゃないか、どこに居たって変わりはないんだし。
それにルキアといた方が楽しそうだし、一護に話も聞きたし。

「俺と一緒で良いだろ!」
『そっちのが危険そう』
「?!」

恋次が呼び止める声が聞こえたが、構わずにルキアと家へ入った。
というか、本当は浦原さんの所に行きたくないだけなんだけど。
あの人なら余計な気を利かせて二人きりにとかさせられそうだし。
恋次と今二人きりになるなんてご免だ。これは私の我儘だけど。

『一護のベッド綺麗過ぎ…』
「あまり使っていないからだろうな」

ふと、一護の部屋から家の前の道路が見えた。
二人はまだ何か話しているようで、内容は聞こえてこない。

「…残念だったな、恋次」
「おい一護その顔やめろ。ずっげぇ腹立つ」

まあ何だかんだ言ってあの二人、仲良いし。
きっと放置していても大丈夫だろう。

『あ、喧嘩してる』


記憶の片隅、欠片の芽
(話しておけば良かったなんて)
(そんなのは自分勝手な我儘だ)

目に見える程咲いた時はもう、手遅れだった。

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