BLEACH

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「ったく…恋次の奴、全力で殴りやがって…」

部屋に戻って来た一護は相当ボロボロな顔をしていた。
というか、窓から喧嘩の様子は見ていたから知っていたけど。
一護と喧嘩をしている時の恋次は普段より格段に幼く見える。
それでも何百年も生きた死神かと言いたくなる程に。

『織姫、呼ぶ?』
「いや、流石にこんな事で呼べねぇよ…」
『自業自得だしね』
「ハッキリ言うな…」

深い溜息を吐いている様子とは裏腹に、一護は普段より元気そうだ。
それが何故かは知らないが、ここにやって来た時とは違って良かった。

「それにしても、音羽は最近元気が無いな!」
『えっ』
「ああ、俺を心配するよりお前の方が心配だぜ!」

突然、一護とルキアがずいっと顔を近づけてくる。
心を読まれたのかは知らないが、目線でどうしたのかと訴えられる。
そんな風に見られても、悲しい事に言える事など何もない。
本当はみんなに話して、どうにかしたいとは思っているけれど。
今はその苦しいほどの優しさで、十分なのだ。

『何もないよ、疲れただけ』
「……本当か?」
『本当。…少し寝させてもらう』
「おう…って、お前それ俺のベッド!!」

たまたま座っていた一護の布団に潜りながら私は聞いた。
私自身で響いてくるような、聞いた事が無いはずなのに慣れ親しんだような声を。

「”…起きろ、主よ”」

その声が脳内を揺るがすのと同時に、私は深い眠りに落ちた。

*

『…っ?』

 目を開けるとそこは知らない景色に包まれていた。
どうしてここにいるのかは分からないが、どうやら夢の中の様だ。

「起きたか」
『っ!?』

特にする事もないと座ろうとした瞬間、後ろから声をかけられる。
突然すぎて思わず振り返った私は言葉を失った。

『桜、舞月…、』
「久しいな、我が主よ」

ふっと、口調に似合わず微笑む姿は知っていた。
いつ以来だろうか、人の姿を見るのは。
普段は九尾狐の姿で実体化しているから覚えていない。
彼いわく、人形は精神世界でしか出来ないらしいし。

『何で、今…』
「悩んでいる様だったからな」

その言葉に、何故かとは聞かなかった。
斬魄刀と主は一心同体。その事は分かってるつもりだ。

「空が見えるか」
『空…?』

桜舞月の言う通り、近くにあった窓から空は見えた。
しかしその空は、見ていて気持ちのいい空ではない。
曇っていて、淀んで…沈んでる。

「主が心から笑えば、この空は晴れるのだ」
『え…』
「主が泣けば、雨が降る。悩めば、空は曇る」

私の姿を見ずに、ずっと空を見つめている。
その横顔は悲しそうで、少し胸が痛んだ。

「笑え、主よ」

俯きがちだった私の顔を無理矢理上に上げながら、彼は言った。

「私は主の笑った顔が好きだ。それに…晴れた空もな」

触れれば消えてしまいそうな笑顔がそこにあった。
そしてそれは、私が触れても消えなくて。
何だかどうしようもなく、泣きたくなった。

「さて、もう行け。」

言うだけ言うと、桜舞月は窓に座って私から視線を逸らした。
スッと涙は引っ込んだが、行けと言われても。

『夢の覚め方、私知らない』
「夢ではないが…起きようと思えば起きる」

説明が面倒だと、その背中が語っていた。
自分勝手なところも相変わらずらしい。
もう用がないならさっさと起きようと背を向けた。
しかしそれは叶わず、後ろの声に呼び止められる。

「待て」
『…何?』
「主よ、後悔だけはするな」

桜舞月の言葉に、思わず彼の姿を見に納める。

『…変な顔、』
「刺されたいのか?」

酷くドスの利いた声で鉄扇を喉に突き付けられる。
刺さないと分かってるから怖くはないけど。

「まあいい…、それでこそ我が主だ」
『貶してる?』
「逆だ」

鉄扇を喉から離し、また空を見上げてしまう。
そして一言、ぽつりと呟いた。

「雨が降りそうだ」

瞬間、見ていた景色が歪み、私は現実に引き戻された。

*
一護視点

「無防備すぎだろ…」

自分のベッドで無防備に眠る死神を見つめて溜息を吐く。
本当にこいつは自覚がないのか、なんて考えて。
この死神はきっと、恋次のものなんだと勝手に決めつける。
でもそれ程の事を思わないと、抑えられそうにないのだ。

「音羽」

好きとか嫌いとか、そういう事の前に俺は人間で。
まあもう色々まとめて叶わないって事ぐらいは分かってるつもりだ。
それでもその存在を目の前にすると耐えられなくなる。
いっその事、奪ってしまおうかと感じるぐらい。
幸い今は、恋次も吉良って人もいないし。邪魔な奴はいない。

「…………、」

ギシッと、二人分の重みでベッドが軋む音がする。
その音さえ俺を止める要素にはならず、彼女の顔の横に手をついた。
そしてまさに俺と音羽の唇が触れそうになった瞬間、

「…何をしている、一護」
「っっっ?!!?!」

背後から低い声が聞こえ、慌てて音羽から飛び退いた。
声の主の姿を見るのが恐ろしい。声からしてそいつの表情が容易に予想できる。
それでもゆっくりと、それはもうゆっくりと振り返ると、怒りMAXなルキアが仁王立ちで立っていた。

「ちっ、違うんだルキア!これは…っ、」
「……全く、貴様と言う奴は…」

殴られるかと思いきや、ルキアは俺の事を一睨みして溜息を吐いただけだった。
呆然と構えの体制を取ったままの俺に対してまた溜息を吐きながら、ルキアは言った。

「好きな者に対しての気持ちなど、他者には分からぬ」
「怒ってないのかよ?」
「怒っておるわ!しかし音羽も悪いだろう。こやつの寝床で寝るなど…」

余程疲れているのか、そうルキアが小さく呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。
こいつらは音羽に対してどう思っているのだろうか。
それに、最近悩んでいるような元気のない音羽の何を知っているのだろう。

「強く、なりてぇなぁ…」

好きな奴から頼られる位、護れる位に強くならないと、駄目だ。

*現世
グリムジョー視点

命令違反、そんな事はどうでもいいんだ。
元から藍染の命令を守るつもりなんてねぇ。

「…揃ったか」

それにしても現世は霊子が薄くて息苦しい。
息苦しい理由はそれだけじゃねぇが、まあいい。
とにかく今はあの死神を見つけてぶっ殺すのが先だ。

「ウルキオラの報告にない複数の霊圧を確認した」
「ああ…メチャメチャ増えてやがる…!」

尸魂界の援軍はどうせ雑魚だ。どうでもいい。
ただその霊圧の中に、微かに覚えている霊圧があった。

「………」
「グリムジョー、」
「…うるせぇ」

やっとここまで来たんだ、藍染に逆らってまで。
こんな所で汚ねぇ死神なんかに邪魔されてたまるか。

「…行くぜ、」
「………」
「霊圧のある奴は、一匹残らず皆殺しだ」

全員で探査神経を全開にして霊圧を補足する。
強そうな霊圧、の横に覚えのある霊圧。
目を開けた時には全員向かうべき方向へ目線を向けてた。

「ねー、グリムジョー」
「あ?」
「あの子は、どうすんの?」

デイ・ロイの言葉に、一瞬頭が思考を巡らせる。
考える必要はないと、そう答えを出して適当に答える。

「…後回しだ」
「傷つけるなよ」
「イールフォルトこそね」

こいつらには覚えさせてあるから心配はねぇ。
容姿もウルキオラの記憶で分かっているだろう。
誰もきっと、手を出そうとはしないだろう。

「…一匹足りとも逃がすんじゃねぇぞ!!!」

だからこそ、俺が行かなきゃなんねぇんだ。

*
音羽視点

「この霊圧…!!!」
『破面…!!ルキア!』
「分かっている!」

突然の霊圧反応に慌てて飛び起きる。
同じ種族だと思われる霊圧が複数、突然現れた。
いつか来ると構えてはいたが、まさかこんなに予兆も無く来るとは。

「6体か…!?」
『何で、そんなに…』

ルキアの持っている伝令神機を覗き込み、焦りが募る。
すぐにでも死神がしようと、義魂丸を手に取る。
それと同時に、義魂丸を手にした腕を一護に掴まれる。

『一護?』
「…音羽、お前はここで待っていてくれ」
『え…』
「出来れば…霊圧を消して」

一護の言っている意味は分からない、むしろ理解しがたいと言えるだろう。
腕を掴む手は痛いほど力が入っていて、余計に意味が分からない。
ルキアもきっと訳が分からないのだろう、一護の腕を掴んで叫ぶ。

「な、何を言っておるのだ一護!音羽だって立派な戦闘要員…」
「そうじゃねぇんだ!!」

予想外の一護の声に、私とルキアは目を見張る。
一体どうしたというのだろうか、こんなに声を張って叫ぶなんて。
それ程までに、私が前線に出てはいけない事があるのか。
理由は全く分からない、けど、一護がそういうなら仕方ないだろう。

「一護!いい加減に…」
『いいよ、ルキア』
「音羽…!!」

未だ反抗を続けてくれているルキアを宥めて、一護を見つめる。
生憎私は目を見てその人の心情が分かる程の能力なんてない。
それでも、そう言われてしまう理由ぐらいは知りたいのだ。

『…ここにいる』
「悪いな…音羽、」
『…後で理由、教えてね』

悲しそうに顔を歪めてるところからして、戦闘に参加させたくないとかそういう類ではないらしい。
だったら何なのか、という話は仕方がないから置いておこう。

「ああ…戻ったらな」

この戦いが終わったら、聞けば良いだけの事だ。

「行くぞ一護!茶渡の近くに一体いる!!」
「おう!!」

破面6体を追い返して、倒して、二人が帰って来たら。
きっと恋次も絡んでいるのだろうから、問いたださなくては。

『………、』


雨、燦々曇り始める
(違う、違う、)
(これはただの勘違い)

ただ一言、嘘だと言って欲しかった。

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