BLEACH

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*
一護視点

音羽を置いて来た事は、後悔してない。
元より恋次に言われたことだから、文句は恋次に言って欲しいけど。
ルキアが破面と戦ってる間、ずっとそう考えていた。
恋次が言いたい事は何となくしか分からないし、どうしようかと。

「…何をやっているのだ、貴様ら」
「ルキア!…勝ったのか?」
「当たり前だ!」

戦った後でもピンピンしているルキアを見て、安心する。
余裕そうなところから見て、音羽でも余裕だっただろうと考える。
音羽は無所属だからどっちが強いとか全然分からないけど。

「さて、一護」
「ん?」
「そろそろ音羽を置いて来た理由を話してもらおうか」

地面に押し付けられたままの俺を見下ろしながらルキアは言った。
理由と言うのは別に言ってもよさそうだが、怒られるだろうな。
取り敢えず上に乗っかったままの義骸を下ろし、立ち上がって口を開いた。
まさにその瞬間、あの時の様にまた突然、その霊圧は現れた。

「何だァ?デイ・ロイの奴はやられちまったのかよ」

「んじゃ俺が、二人まとめてブッ殺すしか無えなァ!」

その霊圧の重さに、言葉を出す事でさえ敵わなかった。

「破面No.6 グリムジョーだ。よろしくな死神!」

*
音羽視点

『ッ?!』

さっきとは明らかに違う、重い霊圧を感じた。
それも一護とルキアの向かった先に、感じてる。
しかもその霊圧は私が引っかかっていた霊圧で、余計戸惑う。

『ルキア…一護っ!』

きっと一護なら大丈夫なんてそんな曖昧な事、言える訳が無い。
あの時の白い破面と同じ、そんな重い霊圧なのに。
私はここで霊圧だけを感じながら、待たなきゃいけないのか。

『………、』

駄目だ、無理だよそんなの、耐えられるわけがない。
やっとそれなりに強くなって戦えるようになったのに。
またこんなところで待たなくちゃいけないのは、嫌だ。
誰かが倒すのを背後で見るなんて思いはもうしたくない。

『ごめん、一護』

壁の隅に立て掛けておいた斬魄刀と手にして、義骸を脱ぐ。
極力霊圧は抑えたまま、きっと一護達は気が付いていないだろう。
開け放たれた窓に足をかけ、霊圧のする方へ向かった。

私だってもう、戦える。
それに、この違和感の正体が何なのか知りたい。

『…独りは、もう…』

地面を蹴った瞬間、ルキアの霊圧が弱くなった気がした。

*
一護視点

「ガッカリさせんじゃねぇよ死神ィ!!」

ルキアは倒された。あの腕の一撃で、反応すらできずに。
俺だってもうボロボロだ、卍解したってまともに渡り合えてない。
叫んで吠えている破面の声を聴いて、腕に力を入れる。

「月牙…天 衝!!!!」
「!!!!」

攻撃がぶつかる前、明らかに破面が腕を前に出したのが見えた。
あれは確実に、当たったのだろう。でも駄目だ、また、あいつ、が。

「くそっ…」
「こんな技…報告には無かったぜ」
「…ガッカリせずに済みそうか?破面」

口角を釣り上げている破面は明らかに動揺している。
そしてさっきから気になってる事が、一つだけある。
目の前の破面は隙さえあれば、いや、無くてもかもしれないが。
ずっと周りを目で見渡している。それは空中にいる今も変わらない。

「破面、一つ聞いていいか」
「……」
「さっきから、何を探してんだ。お前の仲間ならもう…」

内にいるあいつを抑え込みながら睨みつけていると知っている霊圧が近づいている事に気が付いた。
でも何故だ、何故ここにいるんだ。幸い相手はまだ気が付いていないようだが。
それが興味無いのか、後ろから向かって来ても大丈夫だという自信の表れかは分からない。

「あ?何固まって…」
『一護!!!何が…っ、』
「音羽!来るな!!!」
『………え、?』

破面の声を遮るように、細い声が大きく聞こえた。
その表情は俺を見て、そして破面を見て驚愕に見開かれていた。
怖いとか、強い敵がいるから、そんな驚き方じゃない。
目を見開いた、後ろからしか見えないはずの破面の姿を見つめている。

『……な、んで…、』
「何だァ?また死神…、…!」
『―――――ッ!!』

そして声に気が付いた破面が音羽の方を向いた瞬間、破面まで動きが止まった。
音羽は正面からその姿を見て、さらに目を見開いて、息を詰まらせている。
どういう事だ、何故破面は音羽を攻撃しないんだ、あんな隙だらけで。

「おい…テメェ、」

状況に混乱して動けないでいる間、いつの間にか破面は音羽の目の前に立っていた。
慌てて斬魄刀を構えながら音羽に向かって思いっきり叫ぶ。

「逃げろ!音羽!!!」
『…なん、で…、』

放心状態なのか、破面を見つめたまま音羽は何で、とうわ言の様に呟いている。
殺られる、確実にそう思ったのに、気がついたら破面の重い霊圧も殺気も消えていて。

「…音羽か?」

その言葉に、俺は、目を見開いて耳を疑った。

*
音羽視点

『…本、当に、…グリムジョー、なの…?』

周りの音なんて、何も聞こえなかった。
ただ目の前にいる存在が信じられなくて、疑った。
その破面は私の前に立って、先程聞こえた叫び声とは違う静かな声で言った。

「破面No.6 グリムジョー・ジャガージャックだ」

やっぱりそうだった。間違いじゃ無かったんだ。
髪の色も、口元の仮面も全部覚えてる。その声も同じだ。
あの人で間違い無い、あの時私に力をくれた、あの人だ。
でも、会いたいと願っていたからこそ、この状況で溢れてくるものはある。

『私…、待ってた…ずっと、強くなろうって…それ、なのに…』
「…………」
『何で…何で、そっち側なの…ッ!!』

どうして私と、死神と敵対する位置にいるんだって、叫ぶ。
よりにもよって藍染の、破面で虚で、どうして。
敵対する位置なら、どうして私に力を与えたんだと。

『分からない…、分かんないよ…っ、』

直視できなくて、どうしようもなく涙が溢れて来て、止まらない。
だから顔を見ないように、見せないように俯いた。
こんなに弱いって、知られたくない。あの時より強くなったって伝えたいのに。

「音羽、」

グリムジョーの右腕が、私の肩に触れそうになった時、突然その二人は現れた。

「「『!!』」」
「そこまでだ、グリムジョー」
「音羽!一護!ルキア!大丈夫か!?」

グリムジョーの動きを止めたのは東仙隊長で、私の後ろから恋次が飛び出して来た。
きっと恋次は私の霊圧を感じて駆け付けてくれたのだろう、ボロボロの体だ。

『恋次…、』
「な…どういう、状況だよ…」

確かに恋次からしたら、この状況は相当おかしなものだろう。
一護はボロボロで立っていて、私は近いところで破面と話している。
それにグリムジョーを止めに来たのか知らないが東仙隊長だっている。

「くそ…っ!何でテメェがここにいんだよ!!」
「何故?分からないか、命令違反だと」
「っ!!」

グリムジョーと東仙隊長が何だか悪い方向に揉めている。
もう行ってしまうのだろうか、まだ何も伝えられていないのに。
例え敵だとしても、私にとっては昔から大切な人だ。
彼がそう思っていなくても、私はまだ、一緒に居たい。

「行くぞ、処罰は虚圏で行われる」
「…ちっ、…分かった」

行ってしまう、東仙隊長の後に続いて、背を向けてしまった。
押され切れずに待ってと、伸ばした腕が振り返ったグリムジョーに掴まれる。

『ッ!?』
「て、テメェ!音羽を離しやがれ!」

恋次が腰に収めていた斬魄刀を再び引き抜いた。
私自身も何故腕を掴まれたのか、全く分からない。

「うるせぇな、ザコは黙ってろ」
「ザ…っ?!」

グリムジョーの言葉に、恋次も私に危害を加えるつもりでは無いと分かっているのか刀を下ろした。
どうしていいのか分からず、取り敢えず近くにあるグリムジョーの顔を見つめる。
すると、私の腕をパッと離して今度はゆっくりと私に手を差し出した。
そして予想だにしないセリフを全員に聞こえるような声でハッキリと言った。

「俺と、虚圏に来い」

その言葉に一護と恋次の周りの空気が一瞬で冷えて行くのが分かった。
私はと言えば理解できずに困惑気味に見つめ返す事しかできない。

「言っただろうが、迎えに来るってな」

ニヤリと敵らしい嫌な笑みを浮かべて、グリムジョーは私に言い放った。
差し出された手を、じっと見つめる。そしてあの日の事を思い出した。
同じだ、あの人何も変わらない、敢えて言うなら固くなった手だ。
二人の視線が戸惑っているのが分かる。でも、私はこの手を

『そう、だった…ね、』
「「!!?」」

この手を、振り払う訳には行かないんだよ、ごめん、ごめんね。
一護と恋次が息を詰まらせて、私を凝視する。

「音羽…、何、してんだよ…お前、そんな…」
『…ありがとう、一護』

顔が見れない。ただグリムジョーの手を握って、小さく呟く事しかできない。
それでもグリムジョーが勝ち誇ったような笑みを浮かべているのだけは何となく予想できた。

「早くしろ、グリムジョー」
「行くぞ、音羽」

その言葉にさえも、何かを返す事なんて出来なかった。
ただ腕を引かれるまま、空間の境目に立たされる。
これを通ったらもう、二度と死神だなんて名乗れない。
恋次とか、イヅルとか、もう仲間だなんて言えない。

「音羽!!」

恋次の苦しそうな叫び声が耳に届く。
少し遠いはずなのに、その声は嫌にハッキリと響いた。

「何で…、お前は死神だろ!!俺達を…吉良の事だって裏切るのかよ?!!」

恋次がその人の名前を呼ぶのを躊躇ったのは分かってる。
それでも私の為に言って必死で叫んでることも、分かってる。

『…ごめんね、…恋次、』

情けない顔してるんだろう。恋次の顔を見れば嫌でも分かってしまう。
恋次も酷い顔だ、そんな冗談なんか言える状況じゃないけど。

「何でだよ…っ、くっそォォォォォォォォ!!」

悲痛な叫び声を聞かないようにと、耳を塞いで裂け目に入った。

『ごめん…ごめんね、恋次…イヅル、……さよなら、』

握られたままのグリムジョーの手は、あの日と変わらず冷たかった。

*
尸魂界

「阿近さん!!」
「んだあ?!こっちも忙しいんだ、早く言え!」

機械に向かっている全員が忙しげに手を動かしている中、そいつは手を止めて叫んだ。
全員が煩わしげにしながらも一応耳を傾けている状態だ。全員に聞こえただろう。

「花ノ宮さんの霊圧が…消失しました!!!」
「「「!!!!!」」」
「消失しただと?!」

殆どの奴が驚きかなんかで、立ち上がって画面を見つめる。

「おい…こりゃあ…、」
「阿近、どうする?」

ただ事じゃねぇと画面に近寄り、消失したという意味が分かった。
そしてその霊圧は死んで消えた訳じゃねぇ。移動したらしい。

「まずは朽木隊長と…吉良副隊長だな、呼んで来い」
「じっ、自分がお呼びします!!」
「おう、行って来い」

下っ端が呼びに出たところで、深く溜息を吐く。
突然の彼女の霊圧消失の知らせに、気まずい沈黙が流れている。

「何だってあんなところになぁ…」

他の奴らの心配も知らないで、あいつは一体何をやってるんだか。

*

「霊圧が…消えた?」

本当にか細い声で、けれど驚いた様子はなく吉良副隊長は言った。

「まあ死んだ訳じゃないんで安心してくだせぇ」
「ならば、どうしたと言うのだ」

酷くご立腹な様子で、朽木隊長も言葉を発した。
俺達が悪いわけじゃないからそんな睨まんで欲しいんだが。

「…現世でも尸魂界でもない、別の所に行ったんすよ」
「………」
「ここまで言えば、あんたらなら分かるでしょう」

二人は顔を背けて、目を逸らした。
知っているはずだ、彼女ならこの二人を選ぶだろうと確信している。

「まあ一応言いますけど、破面と共に虚圏に霊圧は消えました。」
「…そうか、理解した」
「総隊長への報告はしときますんで、…どうぞご自由に」
「………、」

さらに奥の部屋に戻る為に踵を返した瞬間、チラリと吉良副隊長を盗み見た。
俯いていて顔は見えなかったが、拳は血が出るのではないかと思うほど握り締められていた。

「…朽木隊長、」
「分かっている…」

ああもう、本当愛されてんな。気づきやがれ馬鹿野郎。


存在価値の意味と味
(どれだけ値が高いかなんて)
(お前は気づいていたのかよ)

気づいて欲しいと、声すら届かない場所に

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