BLEACH

□7
1ページ/1ページ

*
虚圏

「おかえり、グリムジョー。それに…」
『……っ、』
「ようこそ…音羽」

王座の様に高い位置から私達を見下ろしながら、見慣れた奴は言った。
まるで本物の王の様だと、思わずにはいられないほどの威圧を感じる。
それでも正気を保てていたのはずっとグリムジョーが手を引いてくれていたからだろう。

「謝罪の言葉があるだろう、グリムジョー」
「別に」
「…貴様……」

顔を上げる事なんて、出来るはずが無かった。
ここで会話をしてしまえば、顔を見てしまえば、分かってしまう。
敵の位置に私はいて、皆を裏切ってしまったと。
この感情から逃げて良い訳なんて、無いのに。

「貴様の行いに大義は無い」

東仙の威圧するような声の低さに、意識が覚醒する。

「大義無き正義は殺戮にすぎない」

嫌な、予感。嫌な空気と音が脳を一瞬で支配した。

「だが、大義の下の殺戮は…」
『ッッ!!!グリムジョー!!』


「正義だ」

咄嗟に名前を呼んでも、もう遅かった。
東仙の刀によってグリムジョーの左腕は切り落とされた。
ホール中に響く声で、グリムジョーの悲痛な叫び声が響く。
それにすら耳を塞いでしまう私は、相当疲れているようだ。

「俺の腕を…!!殺す!!!」
「止めろ、グリムジョー」

藍染の否を言わせない声に流石のグリムジョーも腕を下ろした。
舌打ちしながら藍染を睨んで、一瞬離していた私の腕を取る。

「行くぞ、音羽」
『あ…、』

斬られた腕から血が滴り落ちるのも気にせず、早足で歩いて行く。
それでも痛いほど掴まれた腕を感じると、何も言えなかった。

*

「っくそ…、」
『!!グ、グリムジョー…』

恐らくグリムジョー部屋(?)についた瞬間、突然引き寄せられて抱き締められる。
突然の事に頭が付いて行かない事も、血が肩に付くとかどうでも良かった。

『腕…、』
「十分だ」

ぽつりと呟いたグリムジョーの言葉に、首を傾げて答える。
私の反応に何を思ったのか、腕の力を強めてグリムジョーは言った。

「てめぇがいれば、片腕でも十分だ」
『そ…れって、どういう…』

「グリムジョー」

言葉の意味を問う前に、扉の外から低い声が聞こえた。
聞いた事のない低い声に、勝手に体が強張る。
霊圧は抑えられているからよく分からないが、明らかに強い。

「……待ってろ」

そんな私に気が付いたのか否か、体を離して椅子に座らされる。
グリムジョーが訪問者の元へと姿を消した瞬間、どっと疲れが押し寄せる。
頬杖を付く訳でもなく、思いっきり頭から机に突っ伏す。

『はぁ…、』

扉の外から壁が崩れ落ちるような酷い音が聞こえるが、気にしていられない。
脳が押し潰されるほど沢山の事があったはずなのに、まだ一日の半分も経っていない。
時間の流れの遅さと自分の思考回路の速さに戸惑うばかりで考えが纏まらない。

『……イヅル、』

怒ってるかな、なんて馬鹿なこと考えていたらそれこそ怒られそうだ。
それでもきっと皆もう気が付いているだろうから、気にしてしまう。
頭はもう何も考えたくないと叫ぶように痛むのに。

『…ああ、もう…』
「おい、大丈夫か」
『えっ、あ…何でもない、大丈夫』
「………」

考える事に没頭していて気が付かないうちに外での話は終わったらしい。
片腕の右腕に何かを手にして、いつの間にか私の真後ろに立っていた。
なるべく元気に見せようとしたのに全てが無駄だったようだ。

「着替えろ」
『え…っ、』

低い声で言われながら頭から被せられたのは白い、服。
広げてみた感じ、腕を通すところが無いように見える。
まさか、これは

「その恰好じゃ行けねぇだろ」
『…どこに?』
「藍染サマのところに決まってんだろ」

だからさっさと着替えろ、そう言ってまた部屋から出てしまった。
部屋を出たのは配慮として分かるが、説明が些か不十分な様な気がする。
また藍染のところに?ちょっとよく分からないが何かあるのだろうか。

『取り敢えず…』

着替えてしまわないと怒られそうだ。妙に機嫌が悪いようにも見えたし。
それにしてもどうして肩を出しているような服なのだろうか。
これでは肩が剥き出しで寒い、というか恥ずかしいと言うか。
でもこのまま死覇装でいるわけにもいかず、結局着替えるしかなかった。

『…はい。』
「着替えたか…、……っ、」
『うん…本当に白いね、ちょっと、違和感…どうしたの?』
「…別に、何でもねぇよ」

やっとの事着替えて出て来たというのに、一目見てから直ぐに視線を逸らされてしまった。
そんなに似合ってないか、でもまあ今まで真っ黒な服を着ていたのだからそれは仕方が無いけど。
それにしてもハイソックス?なる物が有って良かった。流石に足を剥き出しは嫌だ。
死覇装の時は剥き出しだったけど、今は肩も出ているし、何となく寒い気がするのだ。

「必要以上な事は喋るなよ」
『…うん、』

暫く歩いて、大きな扉の前まで来たところで、突然そう言われた。
一体何をしようと言うのか、さっぱり分からないが聞かない方がよさそうだ。

「…俺から離れるんじゃねぇぞ」

扉の前の空気が重すぎて、押し潰されそうだ。
離れるなんて、無理なのに。一体彼は何に怯えているのだろうか。
そして声を上げる暇もなく、扉の開く、音がした。

*
織姫視点

「空座町が…消える、って…」

突然の事に、頭が全く付いて行かない。
王鍵とか、破面とか、空座町がこの世から消えてなくなるとか。
私が知らない間にどうしてこんな事になっているんだろう。
それに、話の中で気になる事が、引っかかる事があった。

「あの、一つ聞いても良いですか…?」
「…何じゃ?」
「…破面を全部、その、倒すって…」
「それは当然じゃ、此方に手を出すものならば」
「あの!その…花ノ宮さんは…どうなるんですか?」

その言葉を言った瞬間、一瞬で空気が張り詰めたのが分かった。
冬獅郎くんも気になっていたのか、じっと総隊長さんを見つめているし。
もし、もしも花ノ宮さんが裏切者だなんて言われていたら、

「裏切者は処刑せねばならぬ」
「!!…総隊長!!」
「そ、そんな…でも、花ノ宮さんは!!」

怒りの声を抑えながら、冬獅郎くんが呻いたのが静かに聞こえた。
隣で松本さんも悔しそうに顔を歪めているし、やっぱり皆花ノ宮さんの事、信じてるんだ。
そう感じて、安心したと同時に、焦りが募ってくる。花ノ宮さんを処刑するだなんて。

「花ノ宮音羽は立派な裏切者じゃ、死神としてしてはならぬ事をしたのじゃ」
「待ってください!!確かに花ノ宮さんは破面の所に行ったかもしれないけど…きっと何か理由があって…!」

黒崎くんが泣きそうになりながら言ってたんだもん、「あいつ、泣いてたんだ…裏切りなんて、違うだろ!」そう言って、怒ってた。
恋次くんだって、何も言ってなかったけど私達の事は一切見ないで、ずっと空を見つめてた。
きっと、怒ってたんだと思う。血が出そうなくらい拳を握りしめてたし、辛そうだった。

「止めなさい、織姫」
「乱菊さん…!でも…」
「止めとけ、…俺達の意思は関係ないんだよ」
「…はい、」

結局私の話は聞き入れてもらえないまま、私は黒崎君に事を知らせるために部屋を出た。

「花ノ宮さん…戻って来て…!」

私はまだ貴方に話したい事が沢山あるの、だからお願い。

*

「…そうか、」

総隊長さんから聞いた話をしても、黒崎君はそんなに驚いていなかった。
それにいつも決意に満ち溢れている時にする、あの強い真っ直ぐな目をしていた。
私が不安そうな顔をしているのに気が付いたのか、私の頭を軽く叩きながら黒崎君は言った。

「大丈夫だ、藍染は俺が倒す」
「うん…、」
「それに音羽も、必ず俺が…」

自分の腕をじっと見つめて、最後に呟くように言った黒崎君は修行に戻って行った。
そうだよね、やっぱりいつもの黒崎君だった。黒崎君ならきっとそう言うと思ってたよ。
だって誰より近くで見ていたのは黒崎君なんだから、そう思うよね。

「私も…強く、ならなくちゃ」

そういえばここに来る前に夜一さんに用事が終わったら浦原商店に来て欲しいって言われていた気がする。
もしかしたら何か問題でもあったのかもしれないし、急いで行った方が良いのかもしれない。

今頃花ノ宮さんはどこで、何をしているんだろう。無事だと、良いけれど。


愛の透過とその末路
(きっと総隊長さんだって)
(貴方の事、信じてるんだよ)

お願いだから気が付いて、貴方は必要なんだと

Next8

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ