兎さんと蜘蛛さんの甘い日常

□兎さんとの出逢い
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「茜!俺の友でありライバルでもある、巻ちゃんだ!」

「う、あ、…初めまして…、新庄茜です。……えと、…………巻ちゃん、さん?」

「……それは止めるっショ」

「むっ、どうした?2人共!表情が硬いようだな!」


何故か目をぱちくりさせて、驚きの表情をする…新庄さん。
「緊張しているのか?」と大口を開けて笑う東堂。





今日はレースがあって。
東堂とのいい勝負に満足して、帰る準備をしていた時。
「まーきちゃーーん!」なんてデカい声で恥ずかしい名前を呼ぶ奴が俺の所まで来た。
それはもう嬉々とした表情で。


「なんショ」

「今日もいい勝負が出来たな、巻ちゃん!やはりあの残り1qの所でうんたらかんたら…」


東堂が今日のレースを語り出す。
ここまではいつも通り。
そして俺が「あー、ハイハイ、もういいっショ」と区切りを付けて帰る。
そうしようと口を開いた。
が、出てきたのは「誰?」という言葉で。

東堂の後ろに隠れるように立っていた女を指差した。
少しだけ体を跳ね上げて、ビクビクしながら前に出てきた女。

未だに1人でレースについて喋っている東堂に話をかけようとしたら女が口を開いた。





そして冒頭へ。

(つーか、見過ぎっショ)

新庄さんはこれでもかと言うほど俺を見る。
俺の記憶が正しければ新庄さんと会うのは初めて。
何かした覚えはもちろんない。

「えっと、…新庄さんだっけ?」

「あ、はいっ…!」

「東堂とは、どういう関係なんショ?」


『彼女とか?』そう言えば思いっきり首を横に振られた。
どうやら違うようで。

(つか、そんな首振って否定しなくてもいいっショ)

半ば助けを求めるように東堂に目を向ければ、右手を胸に、左手を空に掲げるようにして「巻ちゃんはな、ピークスパイダーという異名をもっていてうんたらかんたら」と何故か俺の話をしていた。

(ダメだ…。コイツはダメだ…)

頭を抱える。
頼れるのは自分だけだと思い、取りあえずこの状況を打破しようと、東堂との関係を聞こうとすれば、新庄さんは頭を下げた。
いきなり見えたつむじに言葉を詰まらせれば。


「あの、ご、ごめんなさい…!私、尽八君とは、幼なじみ、でっ…。いつも、巻ちゃんさんの、話をするから…」

(だから巻ちゃんはやめるっショ…)

「尽八君が…離れていっちゃう、気がして…尽八君が言う『大切な人』がどういう方なのか…、し、知りたくて…、それで、その…」


新庄さんは真っ赤に染まった顔をゆっくり上げると「あの」とか「それで」と言葉を詰まらせる。


「と、とにかく、全部、私の勘違いです…!ごめんなさい!」


そして再び見えるつむじ。
小さな体をぷるぷると震わせている。

つむじを押すと「ひゃっ!」なんて声を上げて俺を見た。
真っ赤に染まった顔にゆらゆら揺れる真っ赤な瞳。

(…なんつーか、兎みたいっショ)

「…新庄さんが謝る事、ないっショ。あの馬鹿がちゃんと言わなかったせいっショ」

「巻ちゃんさん…」


つまり新庄さんは東堂の幼なじみで、東堂が『巻ちゃん』と呼び話をするから俺を女と勘違い。
幼なじみとして俺の事が気になって会ったら男だった事に驚いて「ごめんなさい」って訳ね。

(ごめんなさいの理由も、驚いた顔の理由も、納得がいくっショ…)

「お前っうるさいっショ!いい加減黙れ!」

「何だね、巻ちゃん」


横から聞こえてくる、もはやどうでもいい話に流石にイラついてデコを指先でどつく。


「何をするのだ!巻ちゃん!」

「空気読め!」


東堂とのやりとりにクスクスと笑い声が聞こえて、2人で新庄さんを見れば目を細めて笑っていて。
トクンと心臓が優しく、でも少しだけ力強く鳴った。


「…?」


初めての感覚に新庄さんを見ながら首を傾げれば目が合って。


また、ふわりと笑った。





兎さんとの出逢い
(巻ちゃん、紹介するぞ。俺の幼なじみの新庄茜だ!)

(もう自己紹介は済んだっショ!)

(クスクス…、尽八君と巻ちゃんさんは仲いいんですね)


 
 

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