語物語

□貮話
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私の朝は相変わらず早い。
朝起きるとすぐに朝食とお弁当のおかずを作り、そして一人テレビを見ながら朝食を摂る。
朝はいつも変人奇人な幼馴染が心酔してやまないおは朝占いを見て、自転車で学校まで向かうのだ。
今日の蟹座のラッキーアイテムが「バルーンアート」らしいのでどんなものを持っているか見ものである。

学校に着くのはいつも一般生徒が来る少し前。狙っているつもりはないのだけれど、学校には、丁度バスケ部の朝練ラストスパートが観れるくらいに着く。
私は自転車をとめて、カバンを教室へ置くのも忘れ、本日も綺麗にスリーポイントシュートを決める幼馴染に目を向けた。朝から汗をかいている男子高校生を見るのは気が進まないが、こればっかりはいつもじっと見てしまうのだ。
ほっこりしてそろそろ教室に向かおうかと足を向けると、私の耳になにやらいい気分にはならない話が飛び込んできた。


「やっぱりキセキの世代にはどう頑張っても勝てねぇよなー」
「だよなー。だっていくら年下だって言っても、あいつらは何年に一人って逸材なんだろ?俺らみたいな凡人が敵うわけねーよ」
「それに比べて高尾だよなー」
「あいつは『目』以外は特筆すべきことはねーのに、あれがあるからって監督に重宝されてよー」
「あんな『目』以外特徴がねーやつがキセキの世代の相棒だぜ?あっりえねーよなぁ!」


この人達が話題にしている『高尾』ーーそれはきっと私の幼馴染、緑間真太郎くんの相棒、高尾和成くんのことで間違いないだろう。
真くんと私は同じクラスで、高尾くんもあんなヘンテコな真くんといい関係なので、私ともお友達だ。

私はお友達が悪口を言われていて放っておくほど軽薄でも白状でもない。あの僻みの塊か、というような人達にはガツンと言いたいこともあるし、聞きたいこともある。ーーけれど、私よりなにより言うべき人がこの場にいたのだ。
ナイスタイミングと褒めるべきか、バットタイミングだと顔をしかめればいいのかは分からない。しかし、多分私の顔はその人が視界に入り認識した瞬間に歪んだに違いない。

「高尾、くん…」
「おー!おはよっ、忍野さん!
なに?今日もまた真ちゃんのスリーポイント見に来たワケ?それだけのために早く来るとか、やっぱりそういう仲だったり?」
「…いやいや、私と真くんにはそれっぽいものは全くないよ」

お互いがお互い嘘っぱちの笑顔を貼り付けながは会話をする。
私は歪みを隠すために。
高尾くんは、ーー正直隠すのがうま過ぎて私にも分からない。
そんなに自分の恥部を晒したくないのか、哀れんでほしくないのかは分からない。読めない。汲み取れない。

「もうちょいしたら朝練も終わりだしさ、一緒に教室行かね?」
「いいよ、待ってるね」
「ほんじゃあ真ちゃんにも言ってんね」

高尾くんは体育館に足を向け、中へ入っていく。
私は為す術もなく、高尾くんのボロボロな背中を見つめることしか出来なかった。

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