語物語

□參話
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あれからバスケ部の二軍三軍の間で高尾くんに対しての中傷は酷くなっていった。ただし、コソコソと陰での話だけれど。
絶対に言われていることに気づいているはずの高尾くん自身は、相手に対して何も言い返すこともなくいつも通り、普段通りに笑顔で過ごしていた。


だけど
それから数日も立たないうちにいきなり罵倒や中傷がピタリと無くなった。それは徐々に噂が消えていったという訳では無かった。昨日まで暇さえあればずっと愚痴愚痴と中傷や罵倒を言っていたのだ。それが今日になって気持ち悪いぐらいにピタリと止んだのだ。

そりゃ高尾くん本人やその友達の私、相棒の真くんとしては悪口など無くなってくれるのは願ったり叶ったりだ。
だけどこんなにも
あっさりときっぱりとやすやすとむざむざと苦も無く手も無くすんなりと無抵抗にピタリと無くなられると私はあまりにも気味が悪く、気持ちが悪かったのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



そんな気味の悪さを抱えたその日高尾くんはとても調子が悪かった。
どんなにお調子者でいつも笑っているからといって彼だって人間な訳だから不調になることはある。最初はそれくらいの認識だった。だけど、彼は日に日に調子が悪くなっていった。
朝練にもあまり顔を出さなくなっているのもわかった。だから私は心配で一度聞いてみた。
ーー『「何か」あった?』と。
だけど相も変わらずいつものノリでーー「ははっ!何もねェよ!!」
と言ったのだ。

ただ、その時の笑顔はどこか無理して笑っていたのを感じた。珍しく彼の本当の顔が出ていたのだ。
だけどこれ以上聞いた所で彼は『絶対』に素直に答えてはくれないだろうと思ったためそれ以上私は何も聞かなかった。そんなやり取りした次の日のこと、
ーーー高尾くんは学校を休んだ。次の日も、その次の日も。休みは一週間以上も続いた。
それと比例するように私は、何か引っかかる違和感と気味の悪さに胸を駆られた。





「扉。」
『…何真くん?』


ずっと違和感に見まわれた1日も終わり鞄に教科書を詰めて帰る用意をしていると後ろから聞き覚えのある低い声が聞こえた。
まぁ、わかるだろうが声の持ち主は私の幼馴染の真くんこと緑間真太郎だ。


「その呼び方はやめろと言っているのだよ」
『無理だよ。何年この呼び方だと思ってるの真くん』
「…はぁ」


真くんは目線を逸らし呆れ顔で大きなため息をはいた。
失礼な奴めっ!なんて心で思いつつも言葉には出さず何故自分に声を掛けたのかを真くんに問うた。


『…で?いきなり私に声なんて掛けてどうしたの?』



真くんは基本的には用がなければ私に声を掛けてこない。
なので殆どの場合私から声を掛けることのほうが多いのだ。



「今から少し時間あるか?」


ただでさえ彼から声を掛けてくることに驚いていたのに更に「時間があるか?」ときた。
本当に珍しいこともあるもんだと背の高い真くんの顔を見るといつもの真面目な顔を更に真剣にして私を見据えていた。
その真剣な顔でだいたい私は彼が何が言いたいのかわかった。



『…うん、大丈夫だよ。

それにね、私も真くんに少し聞きたいことがあるの』



ーーじゃ、マジバでも行こうか。と、そう真くんに言い、先ほど教科書を詰めた鞄をもった。

あぁーー今日はまだ終われそうに無い。




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