語物語

□肆話
1ページ/1ページ




夜の帳が少しづつ降りてきたその時間。私は珍しく、幼馴染の真くんとマジバで共に座っていた。周りの中高生がざわついている中、私たちは向かい合わせで無言のまま、コップに入っているジュースで喉を潤していた。
先に空気を裂いたのは真くんだった。

「高尾を、助けてやってくれ」

その言葉を噛みしめるように発した真くんは、今まで見たこともないくらい、泣きそうな顔をしていた。

「黒子から少しだけなら話は聞いている。お前は『そういうもの』を退治出来る、と。
今日まで半信半疑だったが、お前ならなんとか出来るのだろう?」

あぁ、私はこの表情を知っている。
吸血鬼に手を差し伸べた少年や蟹に思いを取られた少女、猿に願った少女、猫に魅入られた少女がしていた表情だ。
そんな表情をされてしまったら、私の中の選択なんて一つだけになってしまうに決まってるじゃないか。

「いいよ。
変人で業突く張りでえばりんぼの真くんの頼み事、聞いてあげる」

とりあえず、高尾くんのお家へ行こうか。話は道中に聞くよ。ーー私はそう言って、空になったコップをゴミ箱へ捨てた。



ーーーーーーー

真くんが違和感を感じたのは、高尾くんの欠席が三日目だった。
あの嘔吐するほど練習する高尾が、三日も休むなど可笑しい、と。ただの風邪なら喝を入れ、見舞いの品でも持って行ったら終わりだが、そうじゃない気がしてならない、と。そう思った真くんは、放課後の練習を無理言って休み、高尾の家まで足を運んだそうだ。

しかし、高尾くんは真くんとの面会を拒んだ。理由も告げず、ただただ拒んだそうだ。真ちゃんありがとう、ごめんなーーとだけ言い、拒絶されたらしい。

「あいつは無理をするし、無理矢理笑う。しかし、迷惑や明らかな拒絶なんかしない奴だ」
「そうだね、まるで『何かに出会って、変わった』みたいに…」

突然、前を先導して歩く真くんが止まり、私は真くんの背中に軽く激突した。ーどうやら、着いたようだ。

「明かりがついてないね」
「いない、のか…?」
「いや、一人は居るよ」

私はズカズカと人の敷地に入ると、インターホンも押さず、扉の前までやってきた。真くんの止める声も無視だ。
私は少ししゃがんで、髪を留めていたあるもので、ーーー鍵穴を解除した。

「よしっ、成功!」
「成功!ではないのだよ!!
人様の家でピッキングなどする馬鹿が何処にいる!」
「あー、もう真くんうるさい。誰かに見つかるかもしれないでしょー」

それもそうだが…、と口を噤む真くんを無視して、私は遠慮なく高尾宅へお邪魔させていただいた。もちろん靴は揃えて。
真くんも観念したのか、「高尾の部屋は二階の右奥なのだよ」とひっそりと教えてくれた。
外から見た通り、家の中は誰も居なかった。明かりもなく、真っ暗だったので一歩一歩、二階へ続く階段を
上がった。

目的の高尾くんの部屋の前についた私達に、ある声が降りかかった。



「誰かいんの?」

その声は何日ぶりかの、高尾くんの声だった。私はその声に応じて、ドアノブの躊躇なくひねり、開けた。


「やぁ、高尾くん。
お見舞いに来たよ」
「…え、忍野さん?それに緑間まで」
「………」

真くんは申し訳なさそうに、高尾くんから目を反らしていた。
そんなこと気にもしないで、私は足音を鳴らし、ベッドに横たわる高尾くんへと近づいた。

「ねぇ、高尾くん。
足の調子はどう?」
「っ!なんでそれをっーー」
「腕。も、もう無理そうだね。
目はまだ見えてるみたいで何よりだよ」
「なっ、んで…!!」
「分かるよ。だって、肩に乗ってる『夜雀』が、そんなに大きくなってるんだもん」
「夜、雀…?」

高尾くんは私の言葉を復唱するように、呟くと、うわぁぁあ!!!と叫び、ベッドから転げ落ちた。
どうやら彼にも見えたようだ。
ーー彼の左肩に乗っていた、自分の生気を食べて肥え、丸々太った『夜雀』の姿が。



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ