語物語

□伍話
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あれから取り乱す高尾くんを真くんと二人で落ち着かせた。
今はベッドの上に高尾くん、その床に座布団を敷いて真くんと私は正座して座っている状況だった。



『えっと…もう一度言うけどね、高尾くんが出会ったのは「夜雀」。
他にも「送り雀」「袂雀(タモトスズメ)」なんて呼ばれたりしているかな。雀のように「チッチッチッ」と鳴き声をあげながら夜に現れる妖怪だよ。』
「よす、ずめ…?」
「……それは、一体何なのだよ。
第一俺には高尾の肩に何が乗っているのかさっぱりわからないのだが?」


私の言葉に高尾くんは首を傾げ、真くんは少し顔を怪訝そうにしてそう言った。
真くんには高尾くんの肩に乗っている『夜雀』なんて見えていない。
見えていないのは当たり前なのだ。
誰にも見えないし、どうやっても触れないものなんて、いてもいなくても、そんなのおんなじことだし、そこにあることと、そこにないことが、全く同じなのだから。
つまりまぁどういうことかと言うと、そんなものは見えないし、そもそも居ないと言うことなのだ。



『…真くんが見えていないは当たり前だよ。でも、今はそんなことはどうでもいいでもいいんだよ。
とりあえず、高尾くんが『夜雀』』っていう妖怪に出会ったってこと。』
「…なんだのだよ。それじゃあその妖怪のせいで高尾はこんなんになってしまったと言うわけか?」
『まぁ、そうだね。』


真くんは自分自身の肩の方を見つめビクビクしながら顔を真っ青にしている高尾くんを指差してそういった。


「…あ、あのさ、忍野さん。」
『なぁに?高尾くん。』
「…俺を助けてくれるの?」
『助けないよ。』


私の断言に高尾くんは硬直し、真くんは「は…?」と素っ頓狂な声を少しあげた。


『私は力を貸すだけ。一人で助かりたい高尾くんが勝手に助かるだけだよ。』


私はキメ顔でそう言った。



ーーーーーーーーーー


どうやら高尾くんの話はこうだ。
いつも通り部活が終わり暗い夜の道を帰っていた途中のことだった。

高尾くんはその日バスケ部であまり調子が良くなくミスばかりしていたらしい。
そして、相変わらずその日も陰で酷くなっていた罵倒や中傷をコソコソと言われていた。
そんな高尾くんは何もかもに嫌気がさしていた。だからその時こう思って、考えたのだ。


ー「中傷や罵倒なんてきれいさっぱり無くなってしまえばいいのに。」
ー「俺は本当にこの『目』だけの能力で一軍になれたのか?」
ー「…違う、そんな訳がない!俺は『目』だけじゃない!!」


そんな負の感情が今まで抑えていた分爆発してしまった。
心の中が嫌な思いになりながらも、高尾くんはとぼとぼと静かな道を歩いていた。すると耳に可愛らしい雀の囀りが聞こえてきたらしい。
一瞬ビックリしたが、彼は夜なのに雀が鳴くなんて珍しいなぁぐらいの認識しか無かった。そんなことを気にしていられないほど彼の心は既に負に満ちていたのだ。

次の日いつも通り学校へ行こうと起き上がりベッドからでようとした瞬間、どこか足が動かしにくいなと感じた。最初は気のせいだろうと思っていたが日が進む度に比例するように身体が動かなくなっていた。そして現在にいたるらしい。


ーーーーーーーー

高尾くんの話を聞いて最初に思ったのがこれだった。

『良かったね高尾くん。君はまだマシな方だよ』
「何が、…何がいいんだよ…!!
足も、腕も動かなくなってバスケも出来なくなって何がいいっつーんだよっ!!」


私の一言が気に障ったのか感情的になって叫ぶ高尾くん。
だが私はそんなの御構い無しにまた冷静に淡々と言葉を紡ぐ。


『…普通ならね「夜雀」に出会ったら最初「夜盲症」になるんだよ。
それから、身体の不十が奪われていくの。』
「「!!」」
「高尾はそれの逆なのか…?」
『うん、そうだよ。
きっと高尾くんは『俺は目だけじゃない』と思う裏腹にその『ホークアイ』の能力だけは絶対になんとしても失いたく無いと思ったんだ。
だから『夜雀』は身体の方から奪っていったんだ。』
「……なんだよ…それ。
そんなの、納得できるわけないだろ……」


高尾くんは顔を俯き弱々しくそう言葉を零した。
私はそんな彼をみて本当の『高尾和成』という人物を見た気がした。



『あのね高尾くん、勘違いしないでね。君は何かの所為でこうなった訳じゃないんだよーーちょっと視点が変わっただけ。』
「視点が…?ーー何が…言いたいんだよ」


ーー『…私はね、その被害者面が気に食わないって言ってるんだよ高尾くん。』





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