語物語

□貮話
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「で、なんで君たちも一緒にいるのかな?」

私のにこやかな問いに対し、緑頭の大男と自転車に跨っている爽やかボーイはにこやかに返した。

「ほら、なんつーの?
扉っちゃん、海常への行き方わかんねーだろうなーと思って、オニーサンらは連れてきてあげたワケよ。なぁ、真ちゃん?」
「俺はお前に無理矢理連れて来られただけなのだよ」
「まぁ、いいっしょ。
俺、今日2人もリアカーに乗せて来たんだぜ?ちょっとくらいは褒めろって」
「あー、高尾くんエラーイエラーイ」
「取り敢えず、こうして門の前に立っているのは人様に迷惑が掛かるのだよ。早く中へ入れ」
「そうだね。じゃあ、君たちはここで待っててねー」

私はそう言って、素早く手早く足早にその場を去った。後ろでなにか騒いでたけど、気にしない気にしない。現役バスケ部になんか負けねーぞ!



とは言うとものの、やはり体力と体格と持久力の差は気合で埋まるものではなく、私は野生の勘でどこかも知らない他校の訳の分からない倉庫に咄嗟に隠れてしまった。
私が隠れて数秒間を開けて、外から二つの足音がバタバタと聞こえてきた。それに伴い、聞き慣れた声も聞こえてきた。

「真ちゃん!そっち居た!?」
「いない!!全く、逃げ足の早い奴め!」
「真ちゃんそれ、使い道合ってるけどすっげー面白い…!」



「って、何やってるのあの人達…」

まぁ、足音と声は遠くの方へ行ったので、私はこのカビと青春の涙と言われる汗くさい倉庫から出ることにした。


「言っちゃ悪いけど、ここすごい臭かった…」
「分かる!俺もずっとそう思ってたんスよ!」

え、と間抜けな声が私の喉から意図しない形で出た。いやいや、だって突然上から馴れ馴れしい弾んだ声が聞こえるんだよ?

「あなたは?」
「それはこっちのセリフっスよ。
キミ、秀徳の子っスよね?なんで他校の倉庫に隠れてたの?まさか、偵察?」


鋭く光る金髪のその人。
そう、中学時代何度か見たことのある彼で間違いないだろう。
テツヤくんの言っている『彼』で、間違いはないだろう。

「あははっ、偵察?なんのこと?
私はただ、君に会いに来たんだよ黄瀬くん!」
「へ?あぁ、そっちっスか」
「いやぁ、黄瀬くんってば雑誌で見るよりかっこいいねー」
「そんなこと言ってもらえるなんて、光栄っス」

ニコリと笑う彼、黄瀬涼太くんはまるで違和感という仮面を被ったまま、無理矢理笑っているように思えた。


「ねぇ、黄瀬くん。
もし良ければなんだけれど、一緒に写メ撮ってもいいかな?」
「え?俺?なんで?」

黄瀬くんは素っ頓狂な、鳩が狩猟銃で撃たれたような顔で私に問いた。
まるで本当に分からないかのように。

「だって、『君はモデルの黄瀬涼太くん』でしょ?」
「……あ、あぁ、そうだったそうだった。写メっスか?いいよ」


その後は私のケータイでツーショットを自撮りし、彼とは別れた。
その写メの自分と同じくらいにこやかに、そのツーショットを添付したメールをテツヤくんに送りつけた。

『やっぱりテツヤくんの言った通りだったよ』という内容と共に。


「さっすがモデル。
人間の女の子だけじゃなく、ーーー タヌキまで虜にするなんて」


私は画像を眺めながら頬を上げた。
さぁ、テツヤくんは一体どんな反応をするんだろう。

そのメールの返信がやってくるまで、あと30秒。
私とテツヤくんが電話越しに会話を楽しむのに、あと105秒。
私とテツヤくんが近くのマジバで落ち合うのに、あと…ーーーー



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