日常編

□標的1
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時刻は午後三時過ぎ。
並盛中学に鐘が鳴り響いた。
生徒はその音をきっかけに帰る用意をしながら楽しげに喋り出したり、部活や委員会に向けて急いで教室から出ていく。その光景はいつも通り楽しげな1-Aの風景だった。




『………』




だが、そんな楽しげな教室の中一人沢田四季は黙々と帰宅準備をしていた。四季は終わりの鐘がなると、一人で黙々と帰宅準備をしてさっさと帰っていく。帰りだけでなく、入学当初から彼女は行きも、休み時間も、昼休みも、帰宅も常に一人だった。故に、この光景ももういつも通りの光景になる。




「ね、ねぇ、沢田さん」
『……なんだ』




そうやって今日もさっさと帰ろうとしようとした四季の前に学校のマドンナといわれるている笹川京子が声をかけてきた。
四季は今までなかったことに、少し目を見開いたが、直ぐにいつもの無表情の顔に戻った。



「あ、あのね、もし良ければ、今日一緒に帰らない…かなって?」
『……悪いな、今日は急用があるんだ。』
「そ、そっか…。」



四季は少し残念そうにしている京子の横を通り、教室を出て行った。
その教室に居合わせた生徒たちは誰も声が出せなかった。残ったの静寂だけ。




「京子、あんた、いきなり沢田に声かけるなんてどうしたのよ…」



最初に教室に広がるその静寂を破ったのは京子の親友である黒川花だった。
花の問いに京子は、戸惑いながらに答える。




「う、うん、沢田さんと仲良くなりたくって…」
「やめときなって、京子。あいつ、人と関わること拒絶してるじゃん」



「…確かにな。沢田っていつも一人だよな。」
「そうだよなー、いっつも無表情だし」
「あれだけ美人ならきっと笑ったらもっと、可愛いのにね!」



花の言葉をきっかけに、四季に対して口々に言うクラスメイト達。
だがそんな中ーー京子だけが、少し物悲しそうに四季が出て行った教室のドアを見ていた。




ーーーーーーー




『ただいま。』
「あら、おかえり。しーちゃん!」



家に帰ると、キッチンにいる母に声をかける。いつも通りの明るく元気な声がかえってきた。返事だけ聞きそのまま階段を上がる。

部屋に入るや否や四季は鞄を机に置き、その横にあるベッドに自分の身を投げた。琥珀色の瞳が映すのは白い天井だけだった。



『……今日は、驚いた』



ボソリと無機質な声で呟く。
ゆっくりと目を閉じると、思い出すのは放課後に声をかけてきた京子のことだった。



『(…そういや、初めてだったな。オレに声をかけてくるやつは…。)』



人と関わることを拒絶した。
クラスメイトとは最低限の言葉しか交わさなかった。
常に、無表情で突っかかりにく雰囲気を出していた。
それで、よかった。それでよかったのにーー



『(どうして、あの時少し嬉しいと思ってしまったんだ…)』
ーーーオレは、人とは関われないのにな』




その声はとても、悲痛で今にも消えてしまいそうな声だった。













それは、まるで何かの合図のようで





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