日常編

□標的3
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体育ってなんでこんなめんどくさいだろ…。いや、語弊だな体を動かすのはそれなりに好きなんだ。団体行動しないといけないのが嫌なだけだ。サボろうにも、今までサボりすぎたから休めないしなオレ。
ちなみに、体育の内容はソフトボール。




「四季ちゃん。つぎ、順番きてるよ」
『めんどくさ…』
「あんたねぇ…。ほら、ささっと行きな!」



黒川め…。そんなに、強く背中叩くなよ。痛い。
ーーそれにしても、みんなやる気ないんじゃないのか?だって証拠にほとんどの女子が男子の野球見てるじゃないか。



「きゃー!!たけしー!すてきーー!」



なんて黄色い野次飛ばしてる奴もいるしな。
だいたい誰だよ、たけしって。
そんなやつクラスにいたっけ?
いやまぁ、どうでもいいや。ささっと終わらせよう。




「沢田さん、体育であんまり見ないけど大丈夫なのかな?」
「さぁ…?」



ずっと前から思ってたんだが、お前らコソコソ話すの苦手なの?
全部筒抜けてんだよ。

ぎゅっとバッドのグリップを握りしめ、足に力を入れる。
球はそんなに早くない。あぁ、これなら軽く打っても狙えるな。


カキーーーン!



…おぉ、まあまあ飛んだなぁと他人事のように思いながら塁を回る。
ホームを踏んで、ベンチに戻ると辺りはシーンとしていた。さっきまで盛り上がっていた男子達もこちらをガン見している。
なんなんだ?ホームランなんて珍しくないだろ。現にさっきたけしって奴も打ってたんじゃないのか?



「…す、すごい!!四季ちゃんすごいよ!!」
「あんた、体育できたのね…。てっきり、できないから休んでたんだと思ってたわ」
『…めんどくさかったから出てなかっただけだ』



笹川と黒川が喋りだすと、周りの奴らは正気でも戻ったのかワァァ!と歓声をあげていた。うるさい。



『…おい、黒川。うるさいから保健室に行ってくる。先生には適当に誤魔化しといてくれ』



じゃあなと黒川と笹川を背をむけて手だけ左右に振って保健室に向かって歩き出した。
そんなオレを山本武が見ていたなんて知らずに。








ーーーーーーーーーー






「おーい、沢田!起きろって!」
『………あ?』



目を覚ますと知らない顔が目の前にあった。
ーー誰だこいつ。



「おー、やっと起きたか!沢田声かけても全然起きないのなー。」
『…あー…お前、誰だ?』



くあっとアクビをしながら尋ねる。
するとニコニコと笑うその男はオレのセリフに苦笑していた。



「酷いのなー、同じクラスだっていうのに。」
『…他人に興味が無いんだ。』
「ははっ!お前変わってるな。そんじゃあ、改めて自己紹介だなっ!俺は山本武っつーんだ。」
『そうか。……確かホームルームが始まるんだったな。』



よっとベットから起き上がり、一度伸びをしてから教室に戻ろうとしたその瞬間だった



「ま、待ってくれ!」
『っ!…なんだよ、びっくりしただろ』


山本は出て行こうとしたオレの腕を掴んで止めたのだ。
危ないな。お前結構力あるのわかってるのか?オレじゃなかったら多分転けてたぞ。



「わ、悪りぃ…」
『…なんだ』



チラリと山本を横目で見ながらはぁと溜息を吐く。
今だにオレの腕を握ってるこの男はどこか暗い顔をしていた。
…あ、これ関わると凄いめんどくさいやつだ。



「あのさ、…沢田はスランプになったことがあるか?」
『…スランプ?』
「いやな、ここんとこいくら練習しても打率落ちっぱなしの守備乱れっぱなし。このままじゃ野球始めて以来初のスタメン落ちしそうなんだ……。」
『それ、なんでオレなんかに言うんだ?』



いや、そんなこと言われても知らない。どうでもいいし、興味も無い。めんどくさいだけだ。
何を思ってオレにそんなこというんだよ。だいたい今日、しかもほんのついさっきに初めて喋ったやつにだぞ。


「…最近おまえスゲーって思っててさ。ほら、剣道の試合とか今日
体育のソフトボールとかさ」
『………』



剣道のあれは不本意だ。好きでやったんじゃない。ソフトボールも適当にやっただけだ。
そもそも何がすごいかわからない。



「だから、おまえに聞けばなんかわかるかなって思ってよ…」
『………悪いな、オレに聞かれてもわからない。スランプになんてなったことが無いしな。』



でもまぁ、適当にやればいいじゃないのかと言葉を続けて、今度こそ帰ろうと、山本の腕を振り払いオレはささっと保健室から出て行った。







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