日常編

□思い立ったが吉日と言いますが
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思い立ったが吉日、と日本ではいう言葉が古来から染み付いている。
現代人の私も、その言葉に従って思い立ってみよう。

「差し当たって、私は山本離れをしてみよーと思うのです。綱頼くん」
「綱吉だよ、四季さん。でも、学校一怠惰で、口癖が「何もしたくない」の四季さんが、山本の介護なしで生きていけるの?」
「介護って、私はババアか。
でもさ、小中はエスカレート式だからいいけど、この先高校も別かも知んないじゃん?そう考えると、今のうちに山本離れしてたほうがいいかなーって」
「早めに言っとくと、無理だと思う」

家綱くんの、顔に似合わないほどぐさっとくる発言はさて置いて、一体何が山本離れに繋がるのか、考えてみる。

「何かいい案ない?」
「んー、とりあえず、人にノート取らせるのやめたら?四季さん頭いいんだし」
「自分でノート取る気力がないから、他人にノート取ってもらってるんだよ?秀次くんバカなの?」
「四季さんの方がバカだと思う。あとそれ、戦国武将ってだけしか接点ないから」
「もうちょっとなんかないわけ?」

使えない秀吉くんを視界から外して、私はマイまくらに顔を埋める。うーとかあーとか唸ってみても、山本離れの兆しは一向に見えない。
すると、教室の端からガラガラと、扉が開く特有の音が聞こえる。誰か来たのかな?

「よっ、ツナ」
「あ、山本。部活はどうしたの?」
「今日はミーティングだけだったから、早めに終わったんだ。忘れ物取りに来たんだけど…って、四季なにやってんだ?」
「………四季は今修行中なので、山本は喋りかけないでください」


何故だろう、山本の顔が見れない。というか、山本に私の顔が見せれない。いや、理由は分かってる、今物凄くブスな顔をしてるから。
あー、嫌だなぁ。山本早くどっか行ってくんないかなぁ。

「四季?」
「………つなきちくんは?」
「お前がまくらでもふもふしてる間に「お邪魔だよね」とか言って帰ってったぜ?」

帰らなくていいのに!!つなひでくんのばか!!なんだよ!山本離れに協力してくれるんじゃないの!?二人きりにしてどーすんだよあのマグロ野郎!

「なぁ、俺さ、ツナと話してるのちょっと聞いちまってさ。
四季、俺と離れてーの?」
「………」
「そりゃ、お前に言われた通りにノート取れねーし、雑だからいい加減嫌気が差してきちまったのかも」
「ちがう!!」

ガバッと顔をあげて見えたものは、山本の見たことものない切ない表情だった。

「あ、あの、…だって、もうそろそろ受験だし、私のワガママに付き合わせていい時期も終わっちゃう。それに、高校まで一緒じゃないだろうし」

心にもないことをツラツラと言って誤魔化す。さっき常吉くんに言うときは平気だったのに、可笑しいなぁ。山本の真っ直ぐな目を見ると、どうしても本音を言っちゃいたくなる。けど、野暮なことは言いたくないんだよなぁ。

「わ、私、どうせ高校は緑高に行くかもだし」
「…もしかして、お前、俺がこの前告られてるところ見てたのか?」

びくっと、心臓が一瞬止まったのかと思った。呼吸がおかしくなる。あれ?息ってどうやって吸うんだっけ?目の焦点も、どこに当てればいいか分かんない。手が、汗まみれだ。

「…やっぱり当たりなのな」
「………どうして、分かったの?」
「そりゃ、小学校からずーっと四季のこと見てたから」

真っ直ぐな、刀の様な視線と交差する。ドンドンと、太鼓みたいになる心臓が耳障りで、私の脳を分からない感情が支配する。

「だから、四季がめんどくさがりなのも、嘘が下手なのも、俺のことを大事にしてくれてることも、割と俺のことが好きなことも、ぜーんぶお見通しってわけだ」
「なっ!?」
「ははっ、真っ赤になってらぁ」

私は今まで、山本は野球が上手くて、人当たりのいいただのバカだと思ってた。人当たりがいいから、私のことをお世話してくれると。
なのになんだよ、この下心ありありなニヤけ顏は!!

「……思い立ったが吉日といいますが、私は今まさにあることを思い立ちました」
「ん?なんだ?」
「バカな山本くんにも分かる様に、行動で示そうと思います」

顏が赤くなるのは無視して。
体を前のめりにして、山本の胸ぐらをがっちりと掴む。
意図的に山本の頬に唇を寄せて、あぁ、私可愛くないなぁ、なんてね。

「これから一生お世話させてあげるから、覚悟してね?」


ガタッと、座っていたはずの椅子から滑り落ちて、口を金魚みたいにぱくぱくさせてびっくりしてる山本を見て再認識。あー、つなよしくんの言う通りになっちゃった。




(思い立ったが吉日と言いますが、)

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