あぶかむ
□昔のお前
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「は?」
間の抜けた声が、己自身の記憶のない場所で響いた。
「ここ、何処…」
見覚えない所に、ただ一人ぽつんと立ち尽くしていた。
神威は、キョロキョロと周りを見渡す。
周り一体木に覆われ、ジャバジャバと川が一本流れている。
薄暗いとはいえ、所々に高木の葉の隙間から光が差し込んでいる、夜ではないであろう。
えー……っと……
何で此処に…
神威は自分の置かれた現状の原因となった理由を明確にしようと、記憶を巡らせる。
が、何も思い出せない。
自分がこの場にいる直前まで何をしていたのか。
何故一人この場にいる事になってるのか。
兎に角、阿伏兎にでも連絡を取って迎えに来てもらおうと思い、ポケットに手を入れ携帯端末を探る。
神威自身は携帯を必要としてないが、阿伏兎曰く神威が行方不明になった時に探し出すのに便利だということで持たせているのだ。
「あり……」
携帯がない。
いつもポケットに入れていたはずだが、今の時点では入っていない。
困ったなぁ…
どうやって帰ろうか。
頭をポリポリと掻きながら、のんびりと思考を働かせる。
んー、まずは人に会った方がいいよネ。
此処が何処なのか知りたいし。
実際、自分が立っている所は人や歯車などが通った後の様に、しっかりと道が出来ている。
無言のまま、笑顔を絶やさずに、神威は道に沿って歩いた。