華の乱

□好きと余裕の間《未完》
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「ねぇ、あの子。駒場に振られたらしいよ!」
「吉川ちょっと声大きいよ…」





少し甲高い声の吉川をよそに、玲鳴は、へぇ…と頷いた。





「他人事ね、余裕かしら?」
「別に?一郎は真っ直ぐな奴だから。」






相手にもなんないだけでしょ?とぼやく。
そんなもんかしら?と吉川。






「でもいっちゃんさ、大会で勝ち進むごとに告白されてんね。忙しそうだね。」
「まー、モテる道を選んだからには?それ相応のことしてもらわないとね。」






玲鳴はピラリっと雑誌のページをめくった。







彼女の名は多岐藤玲鳴。実は駒場家の居候の身である。家が資産家であったにもかかわらず不慮の事故で両親を亡くした玲鳴を、生前からつき合いのあった駒場家が引き取ってくれたのだ。
親戚中を遺産のためにたらい回しにされうんざりして気力を失いかけていた玲鳴に駒場の母は慈愛のこもった言葉を投げかけた。







『うちにはなにもないけど、多岐藤さん夫婦の娘さんなら我が子のように愛せるよ?』






玲鳴は、自分の受け継いだ資産を駒場家に預け駒場家に居候することを決めた。
双子の世話も畑の世話も牛の世話も嫌いではなかった。

駒場家も御影の家も安泰でいられるのは彼女のおかげではあるのだが、また彼女が精神上安定できているのは駒場家のおかげともいえる。






「一郎は、ただ前だけ向いてりゃいいのよ。ぽっと出の女に振り回されてちゃエースが聞いてあきれるわ」
「おっと辛口ですねー、ちょっと嫉妬してんじゃないの?」
「モテ過ぎるから悪いのよ。私は悪くない」






そう言って雑誌で顔を隠す玲鳴。御影はそんな玲鳴を羨ましく思うと同時に、可愛くも思った。






「いっちゃんも、きっと同じこと思ってるよ?玲鳴ちゃんモテるから」
「どうだか。」






クスッと笑って話を逸らす玲鳴。御影もクスッと笑う。






明後日の終業式まで、会わない一郎と何を話そうかと考える玲鳴だった。
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